2020 Fiscal Year Research-status Report
Development of quantitative detection techniques on harmful algal cyst for assessment of potential risk of harmful algal blooms
Project/Area Number |
17K07899
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Research Institution | Fisheries Research and Education Agency |
Principal Investigator |
坂本 節子 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 水研機構(廿日市), グループ長 (40265723)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 海洋環境保全 / 有害有毒プランクトン / シスト(休眠期細胞) / 定量PCR / 赤潮 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では底泥中のシスト量から潜在的な有害プランクトンの発生リスクを評価するための手法の確立を目指している。底泥中に存在する有害プランクトンの休眠期細胞(シスト)の存在量をより正確、簡便に把握するために、定量PCR法を用いた検出方法の検討を進めてきた。さらにシストの生理状態、すなわち休眠や発芽のといったシスト特有にみられる現象の指標となる発現遺伝子を明らかにして、その発現量を定量する方法の開発も目指している。 今年度は、有毒渦鞭毛藻Gymnodinium catenatumのシストから得られたトランスクリプト配列の機能を精査した。シストの発芽は温度や酸素といった外部環境の刺激が引き金になる。そこで温度ストレス関連の発現遺伝子を抽出した結果、低温ストレス応答に関与するCold shock protein(Csp)関連遺伝子は45配列、高温ストレスに関与するHeat chock protein (Hsp)関連遺伝子は83配列が得られた。これらの多くは同じ渦鞭毛藻類であるSymbiodinium属から得られた配列がトップヒットとなっていた。酸素ストレスに関しては低酸素誘導因子であるHypoxia Inducible Factor、およびその活性を阻害するHIF-1α inhibitorの配列が得られたが、トランスクリプト配列数は後者の方が多く確認された。また、植物でみられる環境ストレス耐性の発現上流で機能することが知られているSNF1-related protein kinase(18配列)やprotein phosphatase 2C(推定タンパク質も含め136配列)と相同の配列も得られた。 GenBankのBioProjectを検索し、G. catenatumの栄養細胞由来のトランスクリプトーム配列2セットを入手した。これをベースとしてシストと栄養細胞の比較解析を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
前年度までの研究の遅れを取り戻せていないが、発現遺伝子解析については多くの機能遺伝子を同定するとともに、シストの発芽や休眠に関与すると推測される遺伝子配列を得ることができており、遅いながらも着実に研究は進んでいる。一方で、mRNAの定量PCRによる底泥試料分析・定量手法の検討については今年度は研究が進まなかった。まず泥の中のシストのmRNA定量をする前に、室内実験で標的とするmRNAが休眠や発芽の過程でどのような量的変動するのかを確認しておく必要がある。そのためには室内実験で様々な生理状態のシストを培養株で試料調製し、得られたシストを分離して定量解析を実施する必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の進捗状況は申請当初の計画よりも遅れていることから、研究期間を1年間延長して下記の課題に集中して取り組みたい。 1.G. catenatumのシストから得られた発現遺伝子の公開に向けたデータベースの作成および栄養細胞の発現遺伝子との比較。特にシストで特徴的に発現している遺伝子、特にシストの休眠に関与すると推定される遺伝子の探索。 2.発現量を分析比較するための生理状態の異なるシスト試料の作成(休眠中、内的休眠解除後、および発芽直前、など)。 研究を遂行する上での問題点として、発現遺伝子のデータ解析には非常に時間がかかっていることが挙げられる。要因は多々あるが、その一つとして解析環境の問題(機器のスペックなど)があると思われる。より効率よく解析を進めるために解析環境整備を検討したい。また、研究の進捗状況によっては遺伝子データベースの整理・構築に臨時職員等の雇用による支援が得られるよう検討したい。
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Causes of Carryover |
現場調査および発現遺伝子解析技術習得のための講習会参加費用を計上していたが、新型コロナウイルス感染症蔓延の影響で調査や出張ができなかったため、残額が生じた。また、昨年度後半には定量PCRに関連する一部の消耗品機材(定量PCRプレートやチップ類、抽出試薬キット)の調達が新型コロナの影響で困難になり、年度内に購入できなかったため残額が生じた。次年度は、昨年度末に購入できなかった物品の調達を進めるとともに、発現遺伝子解析をより進展させるために技術講習会等の機会があればその参加、発現遺伝子データベース構築支援のための臨時職員の短期雇用、データ解析環境整備などに残額を充てたい。また、学会等での研究成果発表も目指して研究を進めたい。
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