2017 Fiscal Year Research-status Report
血縁関係に基づく三陸産サケ個体群の繁殖集団の実態の解明
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17K07904
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
峰岸 有紀 東京大学, 大気海洋研究所, 助教 (80793588)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | サケ / 小鎚川 / 自然産卵 / 遡上数 / 産卵床 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度の調査に先立ち予備調査を行ったところ,復興関連工事により河川環境が大きく変化し,当初計画していた岩手県・音部川での研究の実施は不可能と判断した。そこで,研究代表者が所属する東京大学大気海洋研究所国際沿岸海洋研究センターが立地する大槌町の小鎚川に着目した。小鎚川では,2011年の震災以後サケの孵化放流を行っておらず,現在,本河川に遡上するサケ親魚は自然産卵を行っている。これらは純粋な地域個体群ではないものの,これらを対象とすることで,三陸の河川の野生サケの繁殖生態を解明することができる。また,申請者が参与する他の研究事業において,本河川を含む大槌湾水系のサケについて様々な研究を行っており,それらの情報を総合できることから,小鎚川を本研究課題の調査地に変更することとした。 これまで,小鎚川のサケについては一切情報がなかった。そこで,初年度は本河川に遡上するサケ親魚の基礎情報を収集することを目的として,2017年9月1日から2018年2月21日まで週に2-3回,河口から約1kmの地点から上流の約3kmの区間で,サケ親魚の計数,産卵床の数と場所の記録,産卵後のサケ死骸の尾叉長の計測,DNA分析用の組織と年齢査定用の鱗の採取を行った。その結果,2017年9月27日に初めて遡上親魚を確認し,以降2018年2月5日まで,延べ2040個体を確認した。遡上親魚は11月下旬から急激に増加し,12月半ばにピークを迎え,1月に入ると急減した。産卵床は2017年10月10日から2018年1月25日までの間に,調査区間全体で少なくとも363床を記録した。さらに,産卵後のサケ死骸の計数から,小鎚川には少なくとも1764個体が遡上し,これらから組織を採取できた。以上より,小鎚川に親魚が遡上する時期,遡上数,産卵床の分布が初めて明らかになった。この結果は,第65回日本生態学会において報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
調査地を音部川から小鎚川に変更せざるを得なかったことと,変更した調査地の小鎚川ではサケ親魚についての情報がこれまで一切なかったことから,本年度は計画を変更し,小鎚川に遡上するサケ親魚の基礎的な生物学的情報を収集することに注力した。そこで,約半年に亘って週2-3回,小鎚川に赴き踏査を行ったところ,親魚が遡上する時期,遡上数,産卵床の分布を明らかにすることができた。また,調査期間が長期に及ぶため,季節や天候に加え,メディアの取材や地元漁業協同組合によるサケ死骸の駆除などの様々な人間活動によって突発的に生じる調査地の変化や状況に対して,柔軟かつ迅速に対応する必要があることが分かった。以上,初年度に得られた調査の実地経験とサケ親魚の基礎情報に基づき,次年度以降,具体的に研究計画を立てることができるようになった。 一方,本研究の目的は,遡上するサケ親魚のすべての個体を対象にDNA分析を行い,同胞関係を推定することで,三陸の河川の野生サケの繁殖生態を明らかにすることである。そのため,遡上したサケ親魚すべてについて,産卵後の死骸が可能な限り新鮮なうちに,その組織を収集する必要がある。この点についても,上記の踏査を通して,DNA分析用に合計で1764個体から組織を採集することができた。これは,目視で計数した親魚数(延べ2040個体)と比べると,ほぼ全数と考えられ,本研究の目的を達することができると考えられる。ただし,研究計画の変更が急遽必要となったため,その準備と調査の都合で,当初,初年度に計画していたDNA分析の予備実験を行うには至らなかった。これについては,次の親魚の回帰シーズンが始まる前に着手し,標本採集,DNA抽出,データ収集の一連の作業のルーチン化を目指す。
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Strategy for Future Research Activity |
DNAジェノタイピングについては,まずは,DNAマーカーセットの整備を行う。候補となるDNAマーカーを用いて,孵化場および東京大学大気海洋研究所で飼育しているサケ個体について,実際にジェノタイピングを行う。得られたデータから正確に個体を識別できるマーカーを,本研究で使用するDNAマーカーセットとして選定する。マーカーセットが整い次第,初年度に採集した小鎚川のサケ親魚の組織からDNAを抽出し,ジェノタイピングを行う。そのデータに基づき,同胞関係を推定し,サケ親魚集団内の同胞関係の組成,家系の数等を推定する。すなわち,回帰した個体は特定の親・家系に由来するのか否か,血縁関係のある個体は回帰した個体全体の中でどの程度なのか,ひとつの繁殖集団がいくつの家系から成るのか等を明らかにする。また,採集した鱗から年齢査定を行い,親魚集団の齢組成を明らかにするとともに,同様のDNA解析を年齢別に行う。 今シーズンのサケ調査については,8月中に予備調査を行った上で,基本的に昨シーズンと同様の形式で9月初めから開始し,サケ親魚・死骸が見られなくなるまで実施する。調査項目は遡上数,遡上時期,産卵床の数と場所で,同時に,サケ死骸の尾叉長の計測,サケ死骸からDNA分析用の組織と年齢査定用の鱗の採取を行う。時期の初めは水量が多く,台風や大雨による調査の中断も予想されるため,サケ死骸が標本採取する前に流出しないよう,調査区間の下流にサケ死骸が引っかかり,かつ,サケ親魚の遡上を妨げないような網等の簡単な構造物の設置を検討する。また,11月下旬から12月の野外調査では,膨大な作業量になることが予想されるため,状況に応じて補助を依頼する。
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Causes of Carryover |
本研究課題の目的は,サケ親魚のDNAジェノタイピングに基づき,その同胞関係を推定することで,野生サケの繁殖生態を明らかにすることである。そのため,予算の多くをDNA分析用の消耗品に計上している。しかし初年度,河川環境の変化により,調査地を変更する必要が生じた。また,変更した大槌町の小鎚川では,これまで,サケ親魚に関する基礎的な情報が一切なかった。そのため,次年度以降,小鎚川において研究を継続するためのサケ親魚の基礎情報を収集する必要があった。その結果,初年度は主に河川の踏査と組織採集に注力し,分析は行わなかったため,初年度に消耗品を購入するために計上していた予算を繰り越し,次年度使用額が発生した。しかしながら,初年度に行った調査の結果,1764個体から組織標本を採取することができており,これらは次年度以降,順次分析する。繰り越した予算はこれらの分析に充てる予定である。また,初年度と同様の調査・標本採集を2年目も継続するため,ここで得られる標本の分析には計画通り,2年目の予算を充てる予定である。
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