2018 Fiscal Year Research-status Report
血縁関係に基づく三陸産サケ個体群の繁殖集団の実態の解明
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17K07904
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
峰岸 有紀 東京大学, 大気海洋研究所, 助教 (80793588)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | サケ / 小鎚川 / 自然産卵 / 遡上数 / 産卵床 / 繁殖生態 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度に引き続き,調査地である小鎚川に遡上するサケ親魚の基礎情報を収集し,DNA分析のための組織を採集することを目的として,2018年8月30日から2019年3月6日まで週に各旬1回,河口から約1kmの地点から上流の約3kmの区間で,サケ親魚の計数,産卵床の数と場所の記録を行った。また,同様の区間で週2-3回,産卵後のサケ死骸の尾叉長の計測およびDNA分析用の組織と年齢査定用の鱗の採取を行った。その結果,2018年9月26日から2019年2月25日までの間に計1003個体を確認した。遡上親魚は11月半ばから増加し,12月半ばにピークを迎え,1月に入ると急減した。産卵床は2018年10月12日から2018年1月28日までの間に,調査区間全体で少なくとも319床を記録した。さらに,産卵後のサケ死骸2023個体から組織を採取することができた。 昨年度の結果と合わせると,親魚の遡上時期,産卵床が観察された時期,産卵床の数と分布,ホッチャレの採集数はいずれも昨シーズンとほぼ同等であった。また,今シーズンに大槌川で採卵用に採捕された親魚は2197個体(速報値;岩手県さけ・ます増養殖協会)であったので,ホッチャレ数を今シーズンの小鎚川の遡上親魚数とすると,小鎚川に遡上した親魚数は大槌川の親魚数とほぼ同程度と考えられ,小鎚川では,自然産卵のみで大槌川に匹敵し得るサケ資源が維持されていることが確認された。 昨年度の結果は,投稿論文として取りまとめ,生態学会誌に投稿中のほか,シンポジウムなどで報告した。また,国際ワークショップSecond International Year of the Salmon (IYS) Workshop on Salmon Ocean Ecology in a Changing Climateでも発表する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度の経験を踏まえ,今年度は親魚の遡上数および産卵床の数と分布についての調査を各旬1回に変更し,産卵後の死骸サンプリングについては従来通り週2-3回実施した。これにより,親魚の遡上数および産卵床のダブルカウントを減ずることができただけでなく,効率的なサンプリングを行うことができ,天候や人為活動にも柔軟に対応することができ,調査をスムーズに行うことができるようになった。この結果,咋シーズンと同程度の計2023個体の産卵後のサケ死骸から組織を採集することができた。 本研究の目的は,遡上するサケ親魚のすべての個体を対象にDNA分析を行い,同胞関係を推定することで,三陸の河川の野生サケの繁殖生態を明らかにすることであり,これには実験環境の整備が必須である。研究代表者が所属する東京大学大気海洋研究所附属国際沿岸海洋研究センターは2011年の震災で被災し,2018年に新研究棟が竣工したが,予算や調達スケジュール等,種々の都合で遺伝子実験室および分析機器の調達・整備に著しい遅れが発生した。そのため,DNA分析を実施するに至らなかった。年度末に分析機器が納入され,概ね環境が整ったため,今後,直ちにDNA分析を進める予定である。また,来シーズンも同様にサケ死骸からの組織採集を行う。
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Strategy for Future Research Activity |
DNA分析については,DNA抽出を進める一方で,DNAマーカーセットの整備を行う。候補となるDNAマーカーを用いて,孵化場および東京大学大気海洋研究所で飼育しているサケ個体について,実際にジェノタイピングを行う。得られたデータから正確に個体を識別できるマーカーを,本研究で使用するDNAマーカーセットとして選定する。マーカーセットが整い次第,初年度に採集した全ての小鎚川のサケ親魚について,ジェノタイピングを行う。そのデータに基づき,同胞関係を推定し,サケ親魚集団内の同胞関係の組成,家系の数等を推定する。すなわち,回帰した個体は特定の親・家系に由来するのか否か,血縁関係のある個体は回帰した個体全体の中でどの程度なのか,ひとつの繁殖集団がいくつの家系から成るのか等を明らかにする。また,採集した鱗から年齢査定を行い,親魚集団の齢組成を明らかにするとともに,同様のDNA解析を年齢別に行う。これらの作業について,必要に応じ,補助を依頼する。 今シーズンのサケ調査については,8月中に予備調査を行った上で,基本的に昨シーズンと同様の形式で8月後半あるいは9月初めから開始し,サケ親魚・死骸が見られなくなるまで実施する。調査項目は遡上数,遡上時期,産卵床の数と場所で,同時に,サケ死骸の尾叉長の計測,サケ死骸からDNA分析用の組織と年齢査定用の鱗の採取を行う。時期の初めは水量が多く,台風や大雨による調査の中断も予想されるため,サケ死骸が標本採取する前に流出しないよう,調査区間の下流にサケ死骸が引っかかり,かつ,サケ親魚の遡上を妨げないような網等の簡単な構造物の設置を検討する。また,11月下旬から12月の野外調査では,膨大な作業量になることが予想されるため,状況に応じて補助を依頼する。
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Causes of Carryover |
本研究課題の目的は,サケ親魚のDNAジェノタイピングに基づき,その同胞関係を推定することで,野生サケの繁殖生態を明らかにすることである。そのため,予算の多くをDNA分析用の消耗品に計上している。しかし,初年度は河川環境の変化により,調査地を変更する必要が生じ,新たに調査地とした小鎚川では,これまで,サケ親魚に関する基礎的な情報が一切なかったため,小鎚川のサケ親魚の基礎情報を収集する必要があった。また今年度は,研究代表者が所属する東京大学大気海洋研究所附属国際沿岸海洋研究センターが竣工したものの,実験室設備の調達・整備に著しい遅滞が発生し,実験を行う環境が整わなかった。そのため,それまで消耗品を購入するために計上していた予算を繰り越し,次年度使用額が発生した。昨年度末に実験室が整備されたため,これまでに収集したサンプルについて次年度以降,順次分析する。繰り越した予算はこれらの分析に充てる予定である。また,これまでと同様の調査・標本採集を3年目も継続するため,ここで得られる標本の分析には計画通り,3年目の予算を充てる予定である。
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