2018 Fiscal Year Research-status Report
ブリをモデル生物として用いた浮魚類の産卵行動測定手法の開発
Project/Area Number |
17K07913
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Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
河邊 玲 長崎大学, 海洋未来イノベーション機構, 教授 (80380830)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中村 乙水 長崎大学, 海洋未来イノベーション機構, 助教 (60774601)
征矢野 清 長崎大学, 海洋未来イノベーション機構, 教授 (80260735)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 産卵行動 / ブリ属魚類 / 特異的鉛直遊泳 / 相対エントロピー / バイオロギング |
Outline of Annual Research Achievements |
【野外行動調査】 前年度に引き続きブリの標識放流調査を実施した。ブリの産卵期は2月から始まるので産卵期間中の遊泳行動データを取得するために平成31年3月に標識放流を実施した。長崎県五島市崎山地先の定置網漁業者の協力を得て、同地で漁獲された魚を取り上げて、すぐに生殖腺からの生殖細胞を採集して卵巣卵の取得か排精が認められ個体のうち状態の良かった22個体を調査に用いるために生け簀にて数日養生した。生け簀から取り上げた魚をまず採血し、体サイズを計測してから、深度と温度を1年間記録できるアーカイバルタグを腹腔内に挿入するか外部に取り付けて生け簀に戻した。合計22個体(尾叉長:67-76cm, 体重:3.8-6.2kg)の成魚にタグを取り付けて、3月5日に五島市崎山沖地先から放流した。 【データ解析】 別プロジェクトで得たブリ属カンパチ成魚の産卵期間を含む遊泳深度データ(時定数:1秒)を解析した。時間窓を5分に設定し窓内の深度差分値から推定される平均分布と全期間の平均分布との差異から相対エントロピーを求めた。相対エントロピーのばらつき成分が高くなる深度変化(特異的鉛直遊泳)を抽出し、その特徴(持続時間・上昇速度・高さ・下降速度など)を求めた。産卵期間中の3月10日~4月23日に明瞭な日周的な鉛直遊泳が認められた。昼は水深150mを起点に深層へ鉛直移動しつつ、まれに水深50-100mに向けた急浮上(30秒間程度で100mほど浮上)が観察された。相対エントロピーが高くなる特異的鉛直遊泳は産卵期の日中に頻出し、午前中に集中した。特異的鉛直遊泳の上昇速度は平均でも毎秒3mに達し他種より極めて速い特徴があった。一連の深度プロファイルはオヒョウのそれ(Seitz et al 2005)に類似していた。本研究から特異的鉛直遊泳は底魚類以外でも抽出できることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度に放流した15個体の標識魚の再捕獲の報告が全くなかったことから、今年度はブリと同属のカンパチ成魚の深度・温度記録を解析して、産卵を伴う遊泳行動が抽出できるかどうか確かめることにした。解析したのは雄成魚であったが、本種の産卵期に集中して相対エントロピーの高い値を伴う特異的な鉛直遊泳が抽出された。この行動は産卵期に集中して出現し、ダイナミックな急浮上と急潜行を伴った。カンパチは飼育下でも成熟雄が成熟雌を追尾して海面に向かって急浮上する繁殖行動を行うことが知られており、抽出された特異的鉛直遊泳は飼育下の知見と類似していた。また、繁殖行動の際に急浮上と急潜行を行う魚種はヒラメ、オヒョウ、マツカワ等でも確認されており、これら先行研究との比較でも特異的鉛直遊泳が繁殖を伴うことを支持している。他種との鉛直遊泳の特性値を比較すると、カンパチの特徴は、1)上昇速度が極めて速いこと(平均:2.9 m/s)、2)遊泳の高さは海底から150m以上を浮上するオヒョウには及ばないが50mを超えること、3)出現時間帯は有意に午前中に偏っている(平均:午前9時36分)ことなどが確かめられた。 また、ブリを対象とした追加の放流調査も当初は10個体程度の見込んでいたが、予定数を大幅に上回る22個体を放流し、最終年度内に再捕されればカンパチと同様の解析をして再現性を確認する。 以上の通り、新規で開始したブリでのデータが取得できなかったものの、予定していた解析はカンパチで実施でき、産卵遊泳が抽出できる可能性を大いに秘めた結果が得られた。以上より、本年度はほぼ計画の通りに調査を進められたと判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成31年度はプロジェクトの最終年度であるのでデータ解析と論文化に傾倒する。また、すでに放流したブリからのデータ回収を目指すために漁業団体や水産関係機関に対して本調査の周知に一層務める。 【データ解析】 カンパチは産卵期を含む深度・温度時系列記録が成熟雌を含めて5個体分あるのでこれらのデータの解析を急ぐ。平成30年度に特異的鉛直遊泳の抽出に成功した方法にならって、まず、深度データをウェーブレット変換して鉛直遊泳の周期性を調べる。次に、時間窓を5分に設定し窓内の深度差分値(鉛直移動速度)から推定される平均分布と全期間の平均分布との差異から相対エントロピーを求める。相対エントロピーのばらつき成分が高くなる深度変化(特異的鉛直遊泳)を抽出し、その特徴(持続時間・上昇速度・高さ・下降速度など)を求める。さらに、特異的鉛直遊泳の出現回数、出現間隔、出現期間、出現時の経験水温を求めるとともに、他魚種の既往知見と比較することで産卵遊泳とする根拠を固める。また、ブリ放流個体の再捕に成功すれば同様の解析を行う。 【成果公表】 カンパチのデータ解析を年度前半までに完了して関連学会にて発表する。また、年度の後半には論文の作成を行い、可能な限り年度末までに関連学会誌に投稿する。
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Causes of Carryover |
消耗品の購入費用が予定したより安価で済んだことから、わずかな額であるが残額が生じた。次年度の予算は予定通りに執行し、本年度の残額は成果公表のための旅費に充てる計画である。
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[Presentation] 東シナ海および台湾周辺海域におけるカンパチの回遊生態Ⅲ ~産卵期の雄親魚に見られた特異的鉛直遊泳~2019
Author(s)
河邊玲, 長崎佑登, 刀祢和樹, 長谷川隆真, Wei-Chuan Chiang, Sheng-Tai Hsiao, Hsin-Ming Yeh, 中村乙水, 米山和良, 中村暢佑, Ching-Ping Lu, Sheng-Ping Wang, 坂本崇, 阪倉良孝
Organizer
平成31年度日本水産学会春季大会
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