2017 Fiscal Year Research-status Report
魚類の生育温度依存的なマクロ栄養素嗜好性制御メカニズムの解明
Project/Area Number |
17K07933
|
Research Institution | Tokyo University of Marine Science and Technology |
Principal Investigator |
長阪 玲子 東京海洋大学, 学術研究院, 助教 (90444132)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 嗜好性 / 味覚受容体 / マクロ栄養素 / 環境温度 / 魚類 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでにマウスで生育温度の違いが代謝の変動を導き,マクロ栄養素に対する嗜好性を変化させることを明らかにした.変温動物の魚類は生育水温の違いが直接代謝を変化させることから,マクロ栄養素嗜好性の変動を導くことが考えられる.そこで本年度はまず,小型実験魚における嗜好性評価系の確立を目指した. 魚類で味覚受容体発現解析を行うために味覚受容体発現組織である口腔や鰓を採取すると個体が死亡してしまう.しかしゼブラフィッシュは再生可能なひげ状の組織であるmaxillary barbel(MB)を有しており,味覚受容体発現があることが知られている.MBから味覚受容体発現量変化を測定することが可能であれば魚類個体を犠牲にすることなく継続的に発現量変化の測定を行うことが可能となるが,口腔組織や鰓と比較してMBでは味覚受容体発現パターンにどのような違いがあるのかについては明らかになっていない.そこでゼブラフィッシュのMBにおける味覚受容体発現について測定を行い,口腔・鰓組織における発現パターンと比較した.その結果, MBにおいて各種味覚受容体の発現が確認された.MBの味覚受容体発現パターンは口腔や鰓とほぼ同じであった.また,飼育条件によって哺乳類と同様に味覚受容体の発現量増加が見られたことから,魚類の嗜好性制御機構解明にMBの有用性が示された. また,金魚を用いて,蛍光色素の標識による嗜好性の測定を行い,二瓶選択試験をモチーフとした魚類における嗜好性評価系の検証を行った.市販の小型魚用餌を波長が異なる2種類の蛍光色素で標識し,片方にはドジョウの忌避物質として知られるノナン酸を混合した飼料を作製した.その結果,金魚はノナン酸の摂食を忌避し,それを蛍光色素によるイメージングによって測定出来た.本法は小型の魚において嗜好性を調べる手法として有用であることが明らかになった.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は小型実験魚におけるマクロ栄養素嗜好性評価系の確立を目指し研究を行った.その結果,蛍光色素を用いて嗜好性評価系を確立することが出来た.哺乳類においては嗜好性制御機構の研究が進んでおり,その一部には味覚受容体の発現が関与することが知られているが,未だほとんど解明のなされていない魚類嗜好性制御メカニズムについて,ゼブラフィッシュを用い味覚受容体発現について研究を行った.まず,組織別味覚受容体発現の測定では,MBと口唇や鰓と発現パターンが同じであり口唇の代替として用いることが可能であることを明らかにした.また,飼育条件による味覚受容体発現変動試験では,絶食時における味覚受容体の発現量について,MBと口唇と苦味受容体発現パターンが類似していたことを明らかにし,魚類の嗜好性制御機構解明にMBの有用性が示された.これらの結果について学会発表を行っているが,水温変化による味覚受容体およびマクロ栄養素嗜好性への影響の解明および生育水温による嗜好性制御関連因子の網羅的解析については来年度に持ち越した. 産休を取得したため年度途中からの事業開始となったため,やや遅れているとの判断に至った.
|
Strategy for Future Research Activity |
次年度に持ち越した水温変化による味覚受容体およびマクロ栄養素嗜好性への影響の解明および生育水温による嗜好性制御関連因子の網羅的解析を行う.哺乳類では,味覚受容体であるT1RsとT2Rsに共通の下流シグナル伝達因子TRPM5は温度感受性で,低温ほど活性化されにくく,感受性が低くなることが報告されている.また,哺乳類のT1Rsは甘味とうま味の受容体であるが,魚類ではアミノ酸に感受性の高い受容体であることが明らかになっている.そこで魚類のもつ味覚受容体に着目し,生育水温を変えたゼブラフィッシュの味覚受容体T1Rs,T2Rsの遺伝子レベルおよびタンパク質レベルでの発現量の違いを,リアルタイムPCRや特異的抗体を用いたウェスタンブロッティング,免疫染色により検討する.また,ゼブラフィッシュにおけるTRPM5の配列が明らかになりつつあることから,HEK293細胞にゼブラフィッシュTRPM5チャネルを発現させ,魚類のTRPM5活性が温度依存的であるかを培地を異なる温度でインキュベートし,膜電位色素を用いて蛍光顕微鏡もしくは蛍光マイクロプレートリーダーにより評価する.本方法が難しい場合はカルシウムイメージング法を用いて検討する.また,生育水温によって発現量の異なるタンパク質および遺伝子にも着目し,二次元電気泳動や次世代シークエンスにより網羅的な解析を試み,味蕾および脳において水温変化によって変動する嗜好性制御関連因子の特定を目指す.
|
Causes of Carryover |
出産のため産前・産後休暇および育児休暇の取得により事業を一時中断したことから次年度使用額が生じた. 育児休暇取得後に復帰し,既に事業を再開している.引き続き事業を行うことで次年度に本年度持ち越した研究内容を遂行し,交付額を使用予定である.
|