2019 Fiscal Year Research-status Report
魚類の生育温度依存的なマクロ栄養素嗜好性制御メカニズムの解明
Project/Area Number |
17K07933
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Research Institution | Tokyo University of Marine Science and Technology |
Principal Investigator |
長阪 玲子 東京海洋大学, 学術研究院, 助教 (90444132)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 嗜好性 / マクロ栄養素 / 生育温度 / 味覚受容体 / 魚類 |
Outline of Annual Research Achievements |
変温動物である魚類では生息水温が代謝率などを決める重要な要素であり,生体内の恒常性を維持する要素に直結する.これまでにマウスで生育温度の違いが代謝の変動を導き,マクロ栄養素に対する嗜好性を変化させることを明らかにした.魚類でも生育水温の違いが代謝を変化させ,マクロ栄養素嗜好性の変動を導くことが考えられる.そこで本研究は魚類の生育温度がマクロ栄養素嗜好性に及ぼす影響と代謝変動が嗜好性に及ぼすメカニズムを解明するとともに,魚類におけるマクロ栄養素嗜好性制御因子を明らかにすることを目的とした.本年度は異なる水温で飼育したゼブラフィッシュの脳における網羅的解析を行った.また,ゼブラフィッシュを高温飼育,至適温度飼育,低温飼育の3区に分け,アミノ酸含有飼料,アミノ酸非含有飼料を作製し,嗜好性試験を行った.その結果,脳における網羅的解析では15502個の遺伝子について発現比率を算出した.その結果,高温飼育と低温飼育の発現比率が2倍以上,もしくは1/2倍以下の変動があったものは1625個であった.アミノ酸代謝シグナル因子や,小胞体でのタンパク質折りたたみに関与する因子,転写因子の発現量に変動があった.アミノ酸は魚類でも味覚応答性を有することが知られていることから,生育水温の違いが代謝を変化させ,味覚応答を変動させる可能性が示唆された.また,これまでと同様に水温の違いが食欲の変動を導いた.アミノ酸に対する嗜好性は低温になるほど強く現れた.腸管におけるアミノ酸輸送体のmRNA発現量も水温によって変化したことから,水温によるアミノ酸嗜好性の変化に関与することが示唆された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
これまでにマウスで生育温度の違いが代謝の変動を導き,マクロ栄養素に対する嗜好性を変化させることを明らかにした.変温動物の魚類は生育水温の違いが直接代謝を変化させることから,マクロ栄養素嗜好性の変動を導くことが考えられる.昨年度までに小型実験魚における嗜好性評価系の確立および確立した嗜好性評価系を用いて,ゼブラフィッシュにおける嗜好性の評価を行った.その結果,水温の違いがマクロ栄養素嗜好性を変化させること,代謝変化モデルとして絶食による嗜好性の違いを検討した.本年度は予定していた脳における網羅的解析を行った.その結果,高温飼育と低温飼育の発現比率が2倍以上,もしくは1/2倍以下の変動があったものは1625個であった.アミノ酸代謝シグナル因子や,EDEMのような小胞体でのタンパク質折りたたみに関与する因子,転写因子STAT1等の発現量に変動があった.アミノ酸は魚類でも味覚応答性を有することが知られていることから,生育水温の違いが代謝を変化させ,味覚応答を変動させる可能性が示唆された.網羅的解析によって水温の変化が作用する代謝パスウェイおよび味覚応答の変化に及ぼす因子を推測することが出来た.この結果を受け,アミノ酸に対する嗜好性試験を行った結果,アミノ酸に対する嗜好性は低温になるほど強く現れた.腸管におけるアミノ酸輸送体のmRNA発現量も水温によって変化したことから,水温によるアミノ酸嗜好性の変化に関与することが示唆された.また,魚類のTRPM5活性が温度依存的であるかを検討する予定であったが,発現させた細胞を用いた試験は来年度以降に持ち越した. 初年度産休を取得し初年度の途中からの事業開始となったため,やや遅れているとの判断に至った.
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Strategy for Future Research Activity |
今後はこれまでに明らかになった生育水温や代謝によるマクロ栄養素およびアミノ酸嗜好性の変化を引き起こすメカニズムを詳細に検討していく.具体的には,本年度水温変化によって変動する嗜好性制御関連因子を網羅的に調べることでいくつか候補が挙がったことから,アミノ酸代謝シグナル因子や,EDEMのような小胞体でのタンパク質折りたたみに関与する因子,転写因子STAT1などが魚類の嗜好性に及ぼす影響や,水温や代謝の変化による発現レベルの違いを詳細に検討していく. また,本年度同様生育水温によってアミノ酸嗜好性だけでなく,脂質の種類や糖の種類などにも嗜好性の差異が出るのか,またその制御因子についても考察を加える. また,HEK293細胞にゼブラフィッシュTRPM5チャネルを発現させ,魚類のTRPM5活性が温度依存的であるかを培地を異なる温度でインキュベートし,膜電位色素を用いて蛍光顕微鏡もしくは蛍光マイクロプレートリーダーにより評価する.本方法が難しい場合はカルシウムイメージング法を用いて検討する. 最終年度であることから,モデル魚や産業上重要種におけるそれぞれの水温変化に対する応答に関与する代謝制御因子およびマクロ栄養素嗜好性調節因子を明らかにして,将来的に予定している適正水温以外でも飼育可能な養殖システムの確立に向けた検討事項を考察整理する.また,以上のようにして得られた結果から,新しい知見を論文にまとめ,世間に広く公表する予定である.
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Causes of Carryover |
初年度に出産のため産前・産後休暇および育児休暇の取得により事業を一時中断したことが影響し次年度使用額が生じた. 育児休暇取得後に復帰し,既に事業を再開している.引き続き事業を行うことで次年度に本年度持ち越した研究内容を遂行し,交付額を使用予定である.
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Research Products
(8 results)