2017 Fiscal Year Research-status Report
Molecular mechanisms of high light tolerance in microalgae
Project/Area Number |
17K07945
|
Research Institution | Teikyo University |
Principal Investigator |
篠村 知子 帝京大学, 理工学部, 教授 (80579235)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 強光ストレス / 微細藻類 / カロテノイド / ジャスモン酸 / ユーグレナ |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度には申請時に計画した「微細藻類の強光ストレス耐性向上のための分子機構の解明」に沿った研究を実施した。以下に主要な結果を記述する。 H29年度はこれまでに我々が強光ストレスとの関連で注目してきたユーグレナ細胞の「カロテノイド合成系」のうち、フィトエンからリコペンまでを合成する経路に関与すると考えられる遺伝子をクローニングし、EgcrtP1, EgcrtP2およびEgcrtQと名付けた。これらの遺伝子産物が実際にフィトエンからリコペンを合成する機能をもつことも、異種の既知遺伝子を大腸菌に導入し機能補完をするかどうかの実験により実証した。その結果、我々がクローニングしたEgcrtP1, およびEgcrtP2はフィトエン不飽和化酵素活性を持ち(即ちフィトエンからζ-カロテンの合成を触媒する)、およびEgcrtQはζ-カロテン不飽和化酵素酵素活性を持つ(即ちζ-カロテンからリコペンの合成を触媒する)という活性を確認した。現在、これらの遺伝子の発現解析やカロテノイド分子種の分析を実行中である。 強光ストレス耐性への関与が示唆されているジャスモン酸シグナルに関連したテーマについては、H29年度は、ジャスモン酸合成系遺伝子の単離を試みた。その結果、ユーグレナのRNAseqデータを用い、シロイヌナズナの12-オキソ-フィトジエン酸(OPDA、ジャスモン酸前駆体)還元酵素AtOPR3の塩基配列を基に相同性検索 (tblastn) を行ったところ、相同性のある配列を6個見出し、EgOPR1-6と命名した。それぞれのコード領域を含む配列のクローニングを完了した。現在これらの遺伝子のうちどれが実際にOPDAからOPC-8:0への合成を触媒する酵素活性を持つのかを確認する機能解析実験を行っている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度には、ほぼ申請時の計画に沿った実験に取り組んで前記の成果を得た。ユーグレナから比較的短期間にカロテノイド合成系酵素遺伝子群やジャスモン酸合成系遺伝子の全長クローニングを完了できたのは、学内外の共同研究者との連携のもとでESTデータを活用してゲノム情報が未公開のユーグレナを材料に効率よく遺伝子探索への手順を進めることができたからであると考えている。さらに、HPLCによる詳細なカロテノイドの分子種分析をこれまでに確立してきており、強光ストレスとカロテノイド分子種の組成変化などの興味深い予備知見が得られている。 研究着手当初は、屋外太陽光の強光ストレスに相当する強光条件を人工気象機内に作り出す装置が最も優先的に導入すべき機器であると考えていたが、その後の研究の進捗に伴い、クローニングした遺伝子をRNAiなどの方法でノックダウンした細胞の強光応答を顕微鏡レベルで詳細に解析することの方がより重要であると考えるに至った。そのためには、コントロールとしての「光の照射されない状態からの細胞観察」が不可欠であり、赤外線を光源とする顕微鏡観察システムの構築が急務であると判断した。そこで、当初、H29年度に計画していた高輝度LED放射装置の導入を保留し、暗室に当該システムのセットアップの試作と実証を優先して行った。その結果、暗所で、「ユーグレナの感知できない赤外線を光源とする観察を行うことのできるシステム」が実現できることを確認した。 以上により、これまで分子機構があきらかになっていなかったユーグレナの強光ストレス耐性を分子レベルで明確に理解するための基本的なツールを整備しつつあると考えており、今後の研究推進への道筋が明確になったと考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
ユーグレナ細胞が強光傷害回避のためにカロテノイドを利用していることのより詳細な解析のため、次年度以降は、強光応答に関わるカロテノイド分子種の組成変化をHPLCを用いて詳細に分析する。さらに、ESTデータベースにオルソログ遺伝子が存在することを確認できたカロテノイド合成系遺伝子群のうち、まだ遺伝子の単離が完了していないものについても単離し、それらの遺伝子の発現と強光応答との関係を詳細に解析することで、どの段階の遺伝子が強光応答と最も関連が深いかについての相関を調べる。遺伝子発現レベルでの調節が行われない場合も考え、先のHPLC解析の結果と合わせてカロテノイド分子種の増減量についても解析する。 さらに、クローニングしたカロテノイド合成系遺伝子やジャスモン酸合成系遺伝子のノックダウン系統をRNAiにより作出してその表現型を解析する実験や、遺伝子の過剰発現株の作出とその表現型解析に注力し、強光下における傷害忌避応答としてのカロテノイドの機能を明らかにすることを目指す。 さらに、カロテノイド合成酵素の遺伝子を過剰発現させて強光ストレス耐性が向上するのかどうかを実証するために、カロテノイド合成酵素遺伝子を高発現プロモーターに連結したプラスミドを構築し、ユーグレナ細胞に導入することを計画している。高発現プロモーターには、多くの植物種において利用されているCaMV35Sプロモーターの使用を試みるが、CaMV35Sプロモーターがユーグレナでは高発現プロモーターとして働かない可能性も考えられるので、ユーグレナ細胞において比較的高い発現を示す内生遺伝子のプロモーター数種の情報提供を共同研究者から受けており、これらを用いてカロテノイド合成酵素の遺伝子を高発現させる計画である。
|
Remarks |
上記URLにて、植物分子細胞学研究室(PI:篠村知子)からの学会発表等を紹介している。
|
Research Products
(16 results)