2018 Fiscal Year Research-status Report
サケ科魚類におけるホルモンの拮抗作用による成長・海水適応と耐病性のトレードオフ
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17K07950
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Research Institution | Fisheries Research and Education Agency |
Principal Investigator |
矢田 崇 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 中央水産研究所, グループ長 (80372043)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 水産学 / 回遊 / 行動 |
Outline of Annual Research Achievements |
ホルモンの受容体遺伝子と免疫に関係する遺伝子について、長期的な海水への適応実験による発現動態の変化を解析し、内分泌系と免疫系の相互関係について解析を試みた。長期海水馴致した個体では、血漿中のアドレナリンならびにコルチゾル濃度には、淡水との差がみられなかった一方、血中甲状腺ホルモン濃度と下垂体の成長ホルモン・プロラクチンmRNA量には、有意な変化がみられた。各ホルモンの受容体では、白血球・鰓・表皮では減少の傾向がみられたが、腸では逆に有意な増加が検出された。免疫関連では、血中リゾチーム活性には上昇がみられた一方、各部位でのリゾチーム遺伝子の発現には、有意な変化がみられなかった。併せて自然免疫機能の調節に関わるTLR遺伝子の発現では、白血球と表皮での有意な減少がみられた。これが一種の平衡状態に達した姿と仮定すると、海水に適応する過程での制御機構の劇的変化は既に修了し、全体が抑制的基調に入っているものと思われる。 また海水への移動を自発的に促し、ハンドリングによるストレスの影響を抑えた実験系を構築し、自然に近い海水適応の再現を試みた。24時間後に淡水と海水のどちらに居たかで分別すると、海水の個体では血漿浸透圧が淡水よりも有意に高かったが、アドレナリンならびにコルチゾルの血漿中濃度には、両者の間に差がみられなかった。自発的な海水適応に伴う浸透圧調節の変化は、必ずしもストレス反応を伴わない可能性が示唆される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度から先送りしていた長期海水馴致実験も、濾材の検討結果を踏まえて成功裏に実施することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
塩分躍層水槽を用いた自発的な海水移行実験も目処が立ち、並行して実施した長期海水馴致の結果も踏まえ、最終年度は両実験の橋渡しとして、細部にわたる解析による総合的な理解を試みる。
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Causes of Carryover |
(理由)初年度に購入の必要がなくなった低温恒温水循環装置と、出張先の変更で軽減できた外国旅費が繰り越されているため。合わせて塩分躍層水槽も自作することができ、制作業者に特別注文する必要がなくなったため。 (使用計画)今年度は運営費交付金による研究費の配分が減額となるため、実験解析を補助する職員の賃金として、支出する必要がある見込みである。
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