2017 Fiscal Year Research-status Report
原子力災害からの営農再開へ向けた被災地産農産物に対する消費者行動とマーケティング
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17K07975
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture |
Principal Investigator |
半杭 真一 東京農業大学, 国際食料情報学部, 准教授 (90504043)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 定性調査 / グループ・インタビュー / 消費者意識 |
Outline of Annual Research Achievements |
消費者調査については、購買意思決定のモデル化を行うための心理的尺度の検討を行うため、予備的な調査として、定量的な調査手法であるグループ・インタビューを原発事故による強制避難を経験している福島県南相馬市において子供を養育している母親を対象として3グループ実施した。この結果から、南相馬市においては事故後6年を経過してなお、コメを隣県に買いに行く、水道の水を飲まない、といった地元産の農産物に対する拒否感情を有する住民の存在が示される一方、避難解除区域で生産されたものを求めたいという意見もあった。後者のような地元産のものでも気にしない、という被験者にあっても、事故直後においては慎重に産地を選択していた、と話している。被験者によっては同居家族が野菜などを作っている場合もあり、どういった要因が意識の転換に至ったのか、という点については、個人の経験によるものが大きいため、消費者行動をモデル化する定量調査の分析が必要である。 流通状況の調査については、福島県内外の集出荷・卸売・小売段階等の関係団体等へのヒアリング、および卸売市場の取引実績等の2次データの収集と分析を行った。結果として、福島県産の市場シェアが大きい品目や時期においては取り引きが回復しているものの、市場シェアが低下している場合においては引き合いが少なくなることが示唆された。個別の品目については、今年は特にアスパラガスの取り引きにおいて、天候不順から関東の産地が品薄であったことから福島県産の引き合いが強い結果となり、需給調整といわゆる風評被害の弁別の難しさを示唆している。また、通常の流通が回復傾向であっても学校給食において取り引きが停止されたままである例もあった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
原発事故の被災区域では、大部分の避難指示が解除され、中断を余儀なくされた営農についても再開が進みつつある。こうした条件の変化を受け、調査対象や項目について見直す必要があったため、研究の進捗についてはやや遅れている。 定量調査に先んじて行う定性調査の対象選定については、強制避難を経験した地域も含めて行うこととしたが、住民の帰還状況を見極めつつ調査対象を絞り込む必要があったため、研究の進捗が若干遅れることとなった。 定性調査に続いて行う定量調査については、福島県が行っているコメの全量全袋検査の見直しの方向性が定まらないタイミングでの調査を避け、実施時期を先延ばした。定量調査は東日本大震災の発生に近い日程では報道が増えることによるバイアスが懸念されることを踏まえ、夏季に行うこととする。 流通段階の調査についても、学校給食において福島県産農産物の取り扱いが停止したままであることを踏まえ、多様な流通チャネルに対する調査の継続が必要である。
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Strategy for Future Research Activity |
定量調査については、継続して行われている食品中の放射性物質のモニタリング検査の結果や近年の研究成果を踏まえつつ、予定の規模を維持して進める。 流通業者の福島県産農産物の取り扱いについては、農水省が行っている調査結果が報告されるなど、主要な知見が増えており、さらに分析を深める。 消費者調査と流通調査にいずれにも関係することとして、営農再開における新たな取り組みが見られる。品目としては新たにネギの産地化が進んでおり、市場流通に加えて、業務用も含めた新たな買い手を模索する動きもある。さらに、福島県産農産物の輸出については過去最高の実績となった。こうした新たな品目や販売先も含めて調査を継続する必要がある。
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Causes of Carryover |
原発事故に伴う避難解除等の与件が変わったために研究計画を見直し、30年度に消費者の大規模調査を行うこととした。本研究における主要な調査であるため、次年度使用額のほとんどをこの消費者調査に用いる。
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