2017 Fiscal Year Research-status Report
恣意的にホルモンバランスを崩した異種間接ぎ木によるトマト高糖度化
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17K08016
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Research Institution | Iwate University |
Principal Investigator |
松嶋 卯月 岩手大学, 農学部, 准教授 (70315464)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | オーキシントランスポーター / 根の肥大 / 根の萎縮 / 異種間接ぎ木 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,台木と穂木の組み合わせによって,トマトの果実の糖度や収量を任意に制御する手法を確立するために,ホルモン作用のアンバランスが生じるメカニズムを解明する.本研究には課題(1),課題(2)があり,課題(1)のテーマは,異種間接ぎ木において,穂木が生来つくりだすオーキシンと,台木が本来受けるオーキシンとのアンバランスにより,根量がどの程度変化(萎縮・肥大)するのか,その変化のメカニズムについて明らかにすることである.H29年度においては,トマト穂木が接がれたナス台木にとって,穂木から与えられるオーキシンが過剰なのか,不足なのかを明らかにするため,穂木部にオーキシンを与えることで根の生育等に生じる影響について調査した.その結果,十分な量のオーキシンが与えられているにも関わらず,トマト穂木,ナス台木の接ぎ木においては根の萎縮が起こり,その要因としては,清水らが述べているオーキシン過剰による根の生育阻害(清水,1993),および,トマトとナスでオーキシンのトランスポーターが異なるため,オーキシン輸送が行えないことが考えられた.課題(2)のテーマは,異種間接ぎ木における根の量とその水供給能力との関係を明らかにすることである.H29年度においては,ナス台木とトマト穂木およびトマト穂木となす台木の接ぎ木において通水抵抗を水供給能力を示す指標とし,根量,草丈および果実糖度に与える影響を調査した.その結果,トマト台木に接いだナスの果実糖度が低下し,草丈が他の処理区より高くなった.これは,台木トマトの根域が肥大したことで,不親和による通水抵抗の増大を相殺,あるいはそれ以上の吸水が起こったこと原因であると推察された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
異種間接ぎ木において,穂木が生来つくりだすオーキシンと,台木が本来受けるオーキシンとのアンバランスにより,根量がどの程度変化するのか調査した.ナス台トマトにおける根の乾物重は,供台トマト及びおよび自根トマトにおける根の乾物重と比べ萎縮した.また,IAAを与えたナス台トマトにおける根の乾物重は対照区の乾物重とほぼ同じであった.しかし,IAAを与えた供台トマトにおける根の乾物重は対照区と比較して重くなり,自根トマトでは軽くなった.つまり,トマト穂木へのオーキシン投与は,ナス台木の根に起こる萎縮を止めることはなく,一方で,供台トマトの根には肥大,自根トマトの根には萎縮の変化を与えた.IAAを与えたナス台トマトについて,その生育は,供台トマト,自根トマトよりも遅かった.一方で,IAAを与えた供台トマト及びおよび自根トマトの乾物重は,対照区と比較して重くなった.すなわち,穂木部にオーキシンを投与したにも関わらず,ナス台トマトにおけるの地上部の生育はほとんど促進されなかった.供台トマト及びおよび自根トマトでは穂木部へのオーキシン投与で生育が促進されたが,ナス台トマトに250 μMのオーキシンを投与しても台木の根や穂木の生長に影響は見られなかった.ところが,供台トマト及びおよび自根トマトに250 μMのオーキシンを投与すると,根や穂木の生長が変化した.接ぎ木不親和による影響で台木に届くオーキシンが不足し,ナス台木の根が萎縮したならば,過剰なオーキシンを与えられた根は対照区よりも生長するはずであるが,ナス台木の根の大きさは対照区と変わらなかった.また,穂木にオーキシンを投与したにも関わらず,ナス台トマトのに接ぎ木したトマト穂木にも影響はなかった.つまり,ナス台トマトの異種間接ぎ木における根の萎縮は,台木に届くオーキシン不足が原因ではないと考えられる.
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Strategy for Future Research Activity |
H29年度の課題(1)の成果より,ナス台トマトの異種間接ぎ木における根の萎縮は,台木に届くオーキシン不足が原因ではないことが推察された.そこで,H30年度以降は,オーキシン阻害剤の投与がナス穂木・トマト台木に与える影響をについて調査を行う.オーキシン輸送体の阻害で植物に表れる形態変化として,オーキシン不足による根の生長抑制,オーキシン蓄積による地上部の矮性化,不定根形成の抑制が知られている.H30年度以降は,オーキシン輸送体阻害剤として1-ナフチルフタラミン酸(NPA)を与え,穂木と台木の間に形態変化がどのような形で現れるかを指標として,台木および穂木の間のホルモンのアンバランスを評価する.H29年度の課題(2)の成果より,台木トマトの根域が肥大したことで,不親和による通水抵抗の増大を相殺,あるいはそれ以上の吸水が起こりうることが示された.H30年以降には,根の量と通水抵抗の相互関係を明らかにするために,通水コンダクタンスはルートプレッシャーチャンバー法を用いて根および接ぎ木部位を合わせた通水抵抗を計測する.また,アクアポリン量はアクアポリン遺伝子発現量から,水の吸収速度は近赤外線イメージングおよび中性子イメージングを用いて計測する.H30年度は,まず,ルートプレッシャーチャンバーの作成をすすめ,年度終了までに計測可能にすることを目標として研究を推進するが,申請者は大容量プレシャーチャンバー作成についての経験が浅いため,とくに大型の器材作成に明るいポスドク1名を雇用することで対応する.また,利用予定の中性子イメージング装置(ドイツ,日本)が事故等により利用できない場合は,他国(スイス,アメリカ)のイメージング装置の利用によって水の吸収速度を求める.
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Causes of Carryover |
植物用圧力チャンバー容器を発注したが,年度内に納品されなかったため,次年度使用が生じた.残額はすべて当該設備に充てる予定である.
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