2017 Fiscal Year Research-status Report
ウシの胎盤形成におけるアドレノメデュリンの機能解明と後期胚死滅の予察への展開
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17K08059
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Research Institution | National Agriculture and Food Research Organization |
Principal Investigator |
林 憲悟 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 畜産研究部門 家畜育種繁殖研究領域, 主任研究員 (70563625)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ウシ / 繁殖 / 胎盤 / アドレノメデュリン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、血管作動性ペプチドの一つであるアドレノメデュリン(AM)がウシ胎盤形成における主要な機能調節因子として生理的役割を担うことを実証するとともに、妊娠初期の母体血中AM動態と後期胚死滅の発生との関連性を明らかにすることで、母体血中AM濃度の後期胚死滅を予察する指標としての有用性を検証することを目的とする。本年度は以下の研究を実施した。 1) 妊娠初期における末梢血中AM動態の把握と後期胚死滅牛における変化の解析:ホルスタイン種未経産牛に人工授精を施し、人工授精から21日目までは7日毎、その後は60日目まで3日毎に採血を行った。超音波画像診断装置を用いた妊娠鑑定(人工授精後30日目および60日目)の結果、妊娠牛は11頭、妊娠30日目から60日目の間に胎仔の死滅が確認された後期胚死滅牛は2頭だった。ELISAキットを用いて妊娠牛の血中AM濃度を測定した結果、人工授精時(非妊娠時)と比較して妊娠4週目から6週目の間で増加することが明らかとなった。 2) AMがウシ栄養膜細胞株(BT-1細胞)の遊走能および浸潤能に及ぼす効果の検証:24ウェルセルカルチャーインサート(ポアサイズ8.0μm)を使用した細胞遊走アッセイ、およびマトリゲル基底膜マトリックスをコートしたセルカルチャーインサートを使用した細胞浸潤アッセイを実施した。インサート内にBT-1細胞を播種し、AM(0, 10, 100nM)およびAM(100nM)+ AMアンタゴニスト(1000nM)を処置して72時間培養した。その結果、BT-1細胞の遊走はAM(10nM)添加により、浸潤はAM(10, 100nM)添加によりそれぞれ促進された。これにより、AMは栄養膜細胞の遊走や浸潤を促進することで、ウシ胎盤形成における組織リモデリングの調節に関与する可能性が示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の研究実施計画に従い、1) 妊娠初期における末梢血中AM動態の把握と後期胚死滅牛における変化の解析については、妊娠牛の妊娠初期における血中AM動態を明らかにすることができた。後期胚死滅牛の頭数がまだ少なく妊娠牛との血中AM濃度の比較は実施できていないが、次年度以降に供試頭数をさらに確保することにより解消できる見込みである。また、2) AMのウシ胎盤組織リモデリングにおける作用の解明については、AMがウシ栄養膜細胞の遊走および浸潤を促進することが初めて明らかとなり、ウシ胎盤形成におけるAMの生理的役割の一端が明らかとなった。したがって、概ね順調に研究が進捗していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
研究実施計画に従い、1) 妊娠初期における末梢血中AM動態の把握と後期胚死滅牛における変化の解析については、今年度からの継続として、着床から胎盤形成期における母体の血中AM動態の詳細を把握するとともに、妊娠牛と後期胚死滅牛との間で血中AM濃度を比較することで、後期胚死滅の発生との関連を明らかにする。さらに、ホルスタイン種に加えて黒毛和種も供試することで、品種間における普遍性を検証する。また、ウシの胎盤形成においてAMが主要な機能調節因子としての生理的役割を担うことを実証するため、2) AMの胎盤組織リモデリングにおける作用の解明については、今年度の研究成果を踏まえて、BT-1細胞を用いてAMによる細胞浸潤に伴うマトリックスメタロプロテアーゼを介した細胞外基質の分解機序を明らかにする。さらに、3) AMの二核細胞機能における生理的役割を明らかにするため、栄養膜細胞から反芻類胎盤に特異的な二核細胞への分化におけるAMの分化誘導効果を、BT-1細胞のコラーゲンゲル培養により明らかにする。
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Causes of Carryover |
細胞遊走アッセイおよび細胞浸潤アッセイの条件検討のための予備実験が順調に進捗したことから「物品費」が一部未使用となったこと、現在投稿準備中の論文のための「英文校閲料」および「論文投稿料」が未使用となったことにより次年度使用額が生じた。使用計画は、今年度から継続して妊娠初期の末梢血中のAM分泌動態を解析するため、ELISAキットや採血管などの生化学実験用の試薬や消耗品を購入する。また、細胞浸潤に伴うマトリックスメタロプロテアーゼを介した細胞外基質の分解機序や、栄養膜細胞の二核細胞への分化におけるAMの生理的役割を検証するための細胞培養実験の遂行に必要な試薬類や消耗品に充当する。
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