2018 Fiscal Year Research-status Report
ウシの胎盤形成におけるアドレノメデュリンの機能解明と後期胚死滅の予察への展開
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17K08059
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Research Institution | National Agriculture and Food Research Organization |
Principal Investigator |
林 憲悟 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 畜産研究部門, 主任研究員 (70563625)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ウシ / 繁殖 / 胎盤 / アドレノメデュリン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、血管作動性ペプチドの一つであるアドレノメデュリン(AM)について、ウシ胎盤形成における主要な機能調節因子としての生理的役割を検証するとともに、妊娠初期の母体血中AM動態と後期胚死滅の発生との関連を明らかにすることで、母体血中AM濃度の後期胚死滅を予察する指標としての有用性を検証することである。本年度は以下の研究を実施した。 1) 妊娠初期における末梢血中AM動態の把握と後期胚死滅牛における変化の解析 本年度は、妊娠牛と胚死滅牛における、AMを含む血管作動性物質および胎盤特異的ホルモンの内分泌動態の相互関係を明らかにするため、AM、胎盤で産生される血管作動性物質の一つであるエンドセリン1(ET1)、胎盤特異的タンパク質である妊娠関連糖タンパク質1(PAG1)の血中動態を解析した。AMおよびPAG1は、妊娠牛では非妊娠時と比較して妊娠4週目から血中濃度が増加したが、胚死滅牛では増加が見られなかった。一方で、血中ET1濃度は非妊娠時と妊娠初期で変化は無く、胚死滅牛における妊娠牛との違いも見られなかった。 2) ウシの胎盤形成における、主要な機能調節因子としてのAMの生理的役割の解明 AMとマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)の関係に着目した。ウシ栄養膜細胞株(BT-1細胞)における、AMによるMMP(MMP-2、 -9、-13、-14)とその調節因子(TIMP-1、-2およびCD44)の遺伝子発現の変化および細胞ライセート中のMMP活性を解析した。その結果、AMによりBT-1細胞のMMP-9、-14およびCD44の遺伝子発現が促進され、細胞ライセート中のMMP活性も促進された。これにより、ウシ着床および胎盤形成に伴う胎盤細胞の浸潤や接着・融合において、AMはMMPを介して作用している可能性が示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1) 妊娠初期における末梢血中AM動態の把握と後期胚死滅牛における変化の解析については、ホルスタイン種および黒毛和種雌牛の胎盤形成期における、母体のAMを含む内分泌動態の詳細を明らかにするとともに、これらの血中内分泌動態の後期胚死滅牛における妊娠牛との差異が明らかとなった。また、2) ウシの胎盤形成における主要な機能調節因子としてのAMの生理的役割の解明では、AMは胎盤細胞の増殖の促進に加え、MMPによる細胞外基質の分解を介して胎盤細胞の遊走や浸潤を促進することで、胎盤形成に伴う組織リモデリングに関与していることが示された。したがって、概ね順調に研究が進捗していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
研究実施計画に従い、1) 妊娠初期における末梢血中AM動態の把握と後期胚死滅牛における変化の解析については、これまでに引き続き、ホルスタイン種および黒毛和種雌牛を用いて、胎盤形成期における、妊娠牛と後期胚死滅牛との間のAMを含む血中内分泌動態を比較するとともに、胎盤形成期に人工的に流産を誘起した個体の血中内分泌動態を経時的に解析することにより、母体の末梢血中AM濃度の変化が後期胚死滅の発生を予察する指標になる可能性について検証する。また、2)ウシの胎盤形成における、主要な機能調節因子としてのAMの生理的役割の解明では、AMが栄養膜細胞と子宮内膜上皮細胞間の接着に及ぼす効果を、細胞接着アッセイにより解析するとともに、本年度に予備実験に着手した、コラーゲンゲル培養下における、BT-1細胞の反芻類胎盤に特異的な二核細胞への分化におけるAMの分化誘導効果を検証する予定である。
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Causes of Carryover |
試薬や消耗品等の見積額と実際の支払額に差が生じたことにより次年度使用額が生じた。使用計画は、末梢血中内分泌動態の解析や細胞培養実験の遂行に必要な試薬類および消耗品に充当するとともに、現在投稿準備中の論文のための「英文校閲料」や「投稿料」に充当する。
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