2017 Fiscal Year Research-status Report
阿蘇地域における斜面崩壊した野草地植生の自然回復に関する研究
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17K08068
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Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
岡本 智伸 東海大学, 農学部, 教授 (70248607)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
樫村 敦 東海大学, 農学部, 講師 (10587992)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 半自然草原 / 斜面崩壊 / 植生 / 自然回復 / 生物多様性 / 野草 / 種子散布 / 土壌 |
Outline of Annual Research Achievements |
野草地(半自然草原)に発生した斜面崩壊地において,崩壊した土層の層位の違いによって経年的な植生の回復状況がどのように異なるかを黒色土層で浅く崩壊した斜面(浅表層崩壊面)と,黒色土層とその下層にある褐色土層との境界付近で深く崩壊した斜面(深表層崩壊面)で比較した。両崩壊面(崩壊区)において隣接する崩壊していない植生(非崩壊区)を対照として,植物種組成および土壌の理化学性について検討した。両崩壊面において崩壊区と非崩壊区の種組成類似度は浅表層崩壊面,深表層崩壊面ともに50%に満たなかった。植被率を加味すると類似度はより低下し20%程度であった。両崩壊面ともに休眠型では地中植物,地下器官型ではR1-3,散布器官型ではD1が多く,基本的に両崩壊面ともに崩壊区,非崩壊区で生活型の割合の差は見られなかった。両崩壊面ともに崩壊後5年目に被植散布型の植物の出現が認められた。これらの結果を踏まえて,崩壊後5年経過した時点において植生は完全に回復していないが,経年的に回復傾向にあると考えられた.また,回復の進度は浅表層崩壊面の方が深表層崩壊面よりも速いと思われた。植物の出現種数に関して浅表層崩壊面では非崩壊区との間に差がなく,生物多様性は斜面崩壊が起こる前と同じレベルにあると考えられる。しかし,非崩壊区と出現種組成の類似度が低く,崩壊前とは異なる種組成の植生へと回復している可能性があった。このことは斜面崩壊による自然撹乱は,生態系を多様化することにつながっていることも示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
阿蘇地域の野草地では,歴史的に植生崩壊が繰り返されており,これが草地植生の維持や生物相の多様化に影響していることも考えられる。本研究では植生がどのように自然に回復していくのか,土壌要因,生物要因などの観点から検討し,植生回復の過程とそこに影響する要因を考究することを目的としている。 今年度は,崩壊土層・深度の異なる崩壊地を調査し,崩壊した植生が崩壊していない植生に経時的にどのように回帰して行くのか,植物種組成や生活型組成を通じて解析した。また,植生崩壊地に出没する野生動物が植生の回復にどのような影響を与えているか検討した。これまでの経年蓄積データと合わせて総合的に解析したことで,植生の回復過程を把握すると同時にそこに影響を及ぼす要因を解析した。また,次年度の計画遂行に備え,野生動物による影響などの調査法について予備調査を実施できた。 以上のように,今年度に計画した研究内容はほぼ遂行し,次年度以降の研究計画につなげるための基盤が構築できたと判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
崩壊土層・深度の異なる崩壊地を調査し,これらが植生の破壊の程度および土壌属性にどのような違いがあるのかを解析する。また,各調査地において,崩壊した植生が崩壊していない植生に経時的にどのように回帰して行くのか,植物種組成や生活型組成,ならびに土壌属性の調査を通じて解析する。さらに,比較的狭い範囲を対象とするリモートセンシング技術を利用して,植被率の変化を経時的に解析する。これらの解析に加え,植生崩壊地に出没する野生動物が植生の回復にどのような影響を与えているか,特に種子散布や土壌かく乱などによる影響を検討する。これらの解析を継続し,経年蓄積データを総合的に解析することで,植生の回復過程を把握すると同時にそこに影響を及ぼす要因を解析する。
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Causes of Carryover |
次年度においては,今年度と同様の研究計画の継続に加え,新規の研究計画も加わる。次年度の交付額は申請額よりも15万円程度少ないため,研究計画の遂行のために不足すること予測された。このため,今年度の予算執行を熟考しながら進め,次年度に使用できる予算を計画的に繰り越した。 研究遂行に必要な観測装置,試薬,データ記録媒体などの消耗品購入において不足する金額に充当して使用する計画である。
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Research Products
(1 results)