2018 Fiscal Year Research-status Report
阿蘇地域における斜面崩壊した野草地植生の自然回復に関する研究
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17K08068
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Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
岡本 智伸 東海大学, 農学部, 教授 (70248607)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
樫村 敦 東海大学, 農学部, 講師 (10587992)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 半自然草原 / 斜面崩壊 / 植生 / 自然回復 / 生物多様性 / 野草 / 阿蘇地域 / 自然災害 |
Outline of Annual Research Achievements |
野草地(半自然草原)に発生した斜面崩壊地において,崩壊面の層位の違いによって経年的な植生の回復状況について,黒色土層で浅く崩壊した斜面(浅表層崩壊区)と,それよりも深く黒色土層とその下層にある褐色土層との境界付近で崩壊した斜面(深表層崩壊区)の間で比較した。両崩壊区において隣接する非崩壊斜面を対照(非崩壊区)として,植物種組成,地下部現存量および土壌理化学性について検討した。植被率は深表層崩壊区において,2018年(崩壊後6年目)で38%と昨年と有意差はなかった。一方,浅表層崩壊区における植被率は2018年に62%と昨年より有意に高かった。両崩壊区において非崩壊区との種組成類似度はそれぞれ50%に満たなかった。種の豊かさの指標になる出現種数は崩壊後6年目において深表層崩壊区では10種/㎡と非崩壊区より有意に低かったが,浅表層崩壊区では15種/㎡と非崩壊区より有意に高かった。地下部乾物量(20 cm四方の面積で深さ30 cm)は深表層崩壊区において4 gと非崩壊区の2%しか現存しなかったが,深表層崩壊区においては54 gと非崩壊区の24%が現存した。 崩壊後6年経過した時点ではまだ完全に植生が被覆していないが,経年的に植生回復は進行していると考えられる。また,その速度は浅表層崩壊区においてが深表層崩壊区よりも速かった。しかし,両区ともに地下器官の発達は依然として低い水準であった。植物の出現種数に関して浅表層崩壊区では非崩壊区との間に差がなく,生物多様性は斜面崩壊以前と同じ水準にあると考えられる。しかし,非崩壊区との種組成の類似度は低く,崩壊前とは異なる種組成の植生に回復していた。このことは斜面崩壊による自然撹乱が,生態系を多様化することにつながっていることも示唆される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
阿蘇地域の野草地では,歴史的に植生崩壊が繰り返されており,これが草地植生の維持や生物相の多様化に影響していることも考えられる。本研究では植生がどのように自然に回復していくのか,土壌要因,生物要因などの観点から検討し,植生回復の過程とそこに影響する要因を考究することを目的としている。 当該年度は,崩壊土層・深度の異なる崩壊地を調査し,植生が崩壊以前の状態に経時的にどのように回帰するのか,植物種組成や地下器官現存量の調査を通じて解析した。また,崩壊地に出没する野生動物が植生の回復にどのような影響を与えているか検討した。これまでの経年取得データと合わせて統合的に解析し,植生の回復過程を把握すると同時にそこに影響を及ぼす要因を抽出した。一方で,気球凧を利用した中景レベルでのリモートセンシングによる植被調査は気象条件の関係で実施が不調に終わった。 以上のように,今年度に計画した研究内容はほぼ順調に遂行できたが,一部の調査において計画通りに進めることができなかったため,「やや遅れている」と自己評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
崩壊深度の異なる地点を比較調査し,これらが植生の破壊の程度および土壌属性にどのような違いがあるのかを解析する。また,各調査地において,植生が崩壊以前の状態に経時的にどのように回帰するのか,植物種組成や生活型組成,ならびに土壌属性などの変化の観点から解析する。さらに,比較的狭い領域を対象とするリモートセンシング技術を利用して,植被の状態を解析する。これらの解析に加え,植生崩壊地に出没する野生動物が植生の回復にどのような影響を与えているか,特に種子散布や土壌踏圧などによる影響を検討する。これらの解析を継続し,経年取得データを統合的に解析することで,植生の回復過程を把握すると同時にそこに影響を及ぼす要因について解析する。 最終年度もこれまでと同様に,地上部植生,地下器官および土壌属性の崩壊後7年目の状況について調査し,経年的データの取得を継続する。また,野生動物による植生回復の影響についても調査を継続する。さらに,気球凧を利用した中景レベルでの植被調査を計画する。さらに,これまで取得した多元的なデータを統合的に解析し,1)斜面崩壊の深度と地形の関係,2)植生の回復と崩壊土層の関係,3)植生の回復と土壌属性の変化との関係,4)野生動物の出現頻度や踏圧と植生回復との関係について解析する。特にそれらの関係の相対的な重要度を主眼にして考察し,植生回復と関係の深い因子を抽出する。これらの結果を基に,野草地における斜面崩壊の回復過程に影響を及ぼす要因,ならびに野草地の斜面崩壊が野草地の維持や生物多様性の保持に果たす役割を評価する。また,持続的な生態系サービスの供給を可能とする野草地生態系の基盤を維持するための適正な草地の利用管理の方策を考究する。
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Causes of Carryover |
次年度においては,実験計画の継続に加え,最終年度であるため研究のとりまとめなどの費用が必要である。次年度の交付額は申請額よりも少ないため,研究計画の遂行のために不足すること予測された。このため,今年度の予算執行を熟考しながら進め,次年度に使用できる予算を計画的に繰り越した。 研究遂行に必要な観測装置,試薬,器具,データ記録媒体などの消耗品購入,ならびに論文投稿などにおいて不足する金額に充当して使用する計画である。
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Research Products
(2 results)