2019 Fiscal Year Research-status Report
阿蘇地域における斜面崩壊した野草地植生の自然回復に関する研究
Project/Area Number |
17K08068
|
Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
岡本 智伸 東海大学, 農学部, 教授 (70248607)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
樫村 敦 東海大学, 農学部, 講師 (10587992)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 半自然草原 / 斜面崩壊 / 植生 / 自然回復 / 生物多様性 / 野草 / 阿蘇地域 / 自然災害 |
Outline of Annual Research Achievements |
斜面崩壊した野草地(半自然草原)の植生が自然回復する過程を崩壊深度との関係において定点調査を実施した。深度60 cm~80 cmの黒色土層内で崩壊した斜面(浅表層崩壊面:浅崩区)および深度150 cm~200 cmの黒色土層とその下層の褐色土層との境界付近で崩壊した斜面(深表層崩壊面:深崩区)を調査対象とした。幅1 mのトランセクトを斜面に沿って前者では長さ48 m,後者では長さ28 mとしてそれぞれ設置した。また,両区とそれぞれ隣接する非崩壊面においても,同長のトランセクトを並行して設置し対照とした。これらのトランセクト上に2 m間隔で1 m×1 mの方形区を設定し,植物種組成を調査した。また,深度30 cmまで採取した地下部現存量ならびに表土の理化学性をそれぞれ区間で比較した。 植被率は崩壊後年数に伴い増加し,浅崩区では深崩区よりも有意に高く,崩壊後7年目である2019年では前者で70%,後者で46%であった。両区において非崩壊面との間の種組成類似度は浅崩区で深崩区よりも有意に高く,崩壊後7年目には前者で57%,後者で48%であった。崩壊後7年間で植生は経年的に回復しており,その進度は浅崩区の方が深崩区よりも速かった。地下部現存量は非崩壊面と比べて両崩壊区ともに有意に少なかった。特に深崩区では崩区の1/5程度であった。表土の理化学性についてみると,土壌硬度は崩壊深度により影響が強く,深崩区では浅崩区および非崩壊面よりも有意に高かった。浅崩区での崩壊7年目の植物出現種数および種多様度指数H’において非崩壊面との間で差がなく,類似度が58%であったことを併せれば,種の多様性は回復しているが,崩壊前とは種組成が変化していると考えられた。一般に斜面崩壊は生態系への負の影響を及ぼすことが懸念されるが,その自然撹乱は植物種の多様性を維持する要因となっている可能性も考えられた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
阿蘇地域の野草地では,歴史的に植生崩壊が繰り返されており,これが草地植生の維持や生物相の多様化に影響していることも考えられる。本研究では植生がどのように自然に回復していくのか,土壌要因,生物要因などの観点から検討し,植生回復の過程とそこに影響する要因を考究することを目的としている。 当該年度は,崩壊土層・深度の異なる崩壊地を調査し,植生が崩壊以前の状態に経時的にどのように回帰するのか,植物種組成や地下器官現存量の調査を通じて解析した。これまでの経年取得データと合わせて統合的に解析し,植生の回復過程を把握すると同時にそこに影響を及ぼす要因を抽出した。その中で,研究成果の発表を予定していた学会開催が新型コロナウイルス感染防止対策の影響で中止となった。 以上のように,今年度に計画した研究内容はほぼ順調に遂行できたが,成果発表を計画通りに進めることができなかったため,「やや遅れている」と自己評価した。
|
Strategy for Future Research Activity |
上述のように学会が新型コロナウィルス感染防止対策のため中止となり,予定していた研究発表および情報収集が叶わなくなった。このため,補助事業期間を延長して,2020年度開催予定の学会において研究発表および情報収集を実施する。さらにこれに伴い,2020年度も可能な限り現地調査を継続し,崩壊後8年目にあたるデータの追加取得を図り,研究成果の精度をより高める。 これまで取得した多元的なデータを統合的に解析し,1)斜面崩壊の深度と地形の関係,2)植生の回復と崩壊土層の関係,3)植生の回復と土壌属性の変化との関係について特に解析を深める。それらの関係の相対的な重要度を主眼にして考察し,植生回復と関係の深い因子を抽出する。これらの結果を基に,野草地における斜面崩壊の回復過程に影響を及ぼす要因,ならびに野草地の斜面崩壊が野草地の維持や生物多様性の保持に果たす役割を評価する。また,持続的な生態系サービスの供給を可能とする野草地生態系の基盤を維持するための適正な草地の利用管理の方策を考究する。
|
Causes of Carryover |
上述のように学会が新型コロナウィルス感染防止対策のため中止となり,予定していた研究発表および情報収集が叶わなくなった。このため,2020年度に開催される学会へ参加し成果を発表するために,その旅費を含めた参加費用を繰り越し,補助事業期間を延長した。さらに,可能な限り現地調査を継続するに必要なデータ記録媒体や電池類など最低限の消耗品購入のための費用を計画的に繰り越した。
|