2020 Fiscal Year Research-status Report
計算科学的手法を用いたインフルエンザウイルス中和抗体の抗原認識能の改変
Project/Area Number |
17K08069
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
五十嵐 学 北海道大学, 人獣共通感染症リサーチセンター, 准教授 (10374240)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | インフルエンザウイルス / 抗体 / 分子動力学 / 分子モデリング / 分子間相互作用 / 親和性 / 結合自由エネルギー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、抗体の親和性・特異性を制御するための論理的分子設計手法の確立を目指している。具体的に本研究課題では、インフルエンザウイルスの表面糖蛋白質ヘマグルチニン(HA)と中和モノクローナル抗体S139/1との複合体構造を用いて、分子動力学(MD)計算から得られる結合自由エネルギーを指標に抗体の結合能を改変し、エスケープ変異株や複数のHA亜型のウイルスを中和する抗体の設計を試みている。このような立体構造を基盤に既存抗体の親和性・特異性を改変する技術は、様々な人獣共通感染症の診断・治療研究へ幅広く応用されることが想定される。
これまで、S139/1存在下でA/Victoria/3/75 (H3N2)(Vic株)を培養すると、HAの158番目にアミノ酸変異を持つエスケープ変異体(HA_vic158)が分離されることを明らかにした。本年度も、昨年度に引き続き、S139/1がHA_vic158に再結合できるよう、S139/1の改変を試みた。HA_vic158の158番目の残基は、S139/1のL鎖CDR3と物理的に衝突する。この衝突を回避できるL鎖CDR3を、公共データベース(PDB)に対して検索した。はじめに、PDBに登録されている抗体構造のL鎖CDR3をすべて抽出した。次に、これらをS139/1のL鎖CDR3に移植し、改変S139/1の構造モデルを計算機上で網羅的に構築した。つづいて、これらの改変S139/1とHA_vic158との親和性を結合自由エネルギー計算により評価したが、現在まで強い相互作用を示す改変S139/1は得られていない。現在、HA_vic158との衝突が小さい改変S139/1モデルを選別し、これらの改変S139/1の結合領域にアミノ酸置換を導入することで、強い相互作用を示す改変S139/1の取得を試みている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
当初は、HA_vic158とS139/1との結合構造を初期構造に分子シミュレーションを行い、親和性増強が期待されるS139/1側の残基位置およびアミノ酸を同定する戦略で研究を進めていた。しかしながら、実際研究を進めると、この戦略では所望する抗体の設計は難しいことが分かってきた。一方、上述したようにエスケープ変異による構造への影響を調べてみると、HA上の158番目の残基はアミノ酸置換によってS139/1のL鎖CDR3と物理的に大きく衝突することが分かった。そこで、L鎖CDR3をまるごと入れ替える方向に戦略を軌道修正した。しかしこの戦略だけでも不十分であり、さらに軌道修正を行った。分子動力学シミュレーションにも想定以上に時間がかかっており、進捗状況としては遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
上述したように、期待通りの結果が得られていないことから、再度プロトコルのブラッシュアップを行った。したがって、本年度行う予定の (1)結合自由エネルギー計算を指標にした抗体の中和能の予測、 (2)組換え抗体の作出とin vitroでの評価、 について当初の予定より大幅に遅れているが、できる限り申請書の計画に従って研究を推進していく。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由:当初予定していた方法を変更したこと、分子シミュレーションに要する時間が想定以上にかかってしまったことにより、抗体分子設計を開始する時期が遅れ、ソフトウェアの購入時期も遅れてしまった。これに伴い、成果が出るのも遅れ、旅費分も次年度の使用予定となった。
使用計画:当初の計画通り、抗体の分子設計を行うため、専用ソフトウェアを導入する。本年度は学会に参加し、成果発表も行う。
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