2017 Fiscal Year Research-status Report
補体因子はプリオン病初期の病態形成に影響を与えるか
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17K08070
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
長谷部 理絵 北海道大学, 獣医学研究院, 講師 (70431335)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | プリオン病 / 補体因子 |
Outline of Annual Research Achievements |
補体因子はプリオン感染マウスの脳で感染初期から発現が増加するが、病態形成における補体因子の機能は不明であった。補体因子はプリオン感染初代培養神経細胞の細胞膜の透過性を亢進させ、異常型プリオンタンパク質 (PrPSc)を減少させることから、補体因子がプリオン感染神経細胞に何らかのシグナル伝達を誘導する可能性が考えられた。また、アルツハイマー病モデルマウスでは、補体因子C1qはミクログリアによるアミロイドβの貪食を亢進すること、アストロサイトのNFκB経路を活性化することから、補体因子はプリオン病でも神経細胞・グリア細胞間のクロストークを担う伝達物質として機能する可能性が考えられた。 まず補体因子がプリオン感染神経細胞に誘導するシグナル経路を解析した。プリオン初代培養神経細胞にMAPK経路阻害剤存在下または非存在下で補体因子を作用させたところ、p38MAPK経路阻害剤存在下で補体因子による細胞膜の透過性亢進が阻害された。しかしながら、阻害剤処理そのものでPrPSc量が減少したため、阻害剤を用いた実験では補体因子の効果を評価することが困難であると考えられた。 補体因子がプリオン病において神経細胞・グリア細胞間のクロストークを担う伝達物質として機能する可能性を検討するために、プリオン感染神経細胞・アストロサイト混合培養系にプリオン感染マウス脳より分離したミクログリアを加えると、アストロサイトマーカーであるGFAPの発現が増加した。これはミクログリアのC1q遺伝子発現をノックダウンすると観察されなくなった。プリオン感染マウスの脳でC1q遺伝子発現をノックダウンしても、GFAPの発現増加が抑制された。 以上の結果からミクログリアから分泌されるC1qは、1. p38MAPK経路を介してプリオン感染神経細胞の膜透過性を亢進する可能性、2. アストロサイトを活性化させる可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度の研究計画は補体因子がプリオン感染初代神経細胞に誘導するシグナル伝達経路を明らかにことであった。PathScan Signaling Nodes Multi-Sandwich ELISA Kitでシグナル伝達関連因子のリン酸化状態の解析を試みたが、リン酸化レベルが検出限界以下であった。MAPK経路阻害剤を用いた実験により、補体因子によるプリオン感染神経細胞の細胞膜透過性の亢進にはp38MAPK経路が関与する可能性が示唆されたが、阻害剤自体がPrPSc量に影響を与えたため、目的に適した実験系ではないと判断した。 平成29~30年度には、補体因子がプリオン病において神経細胞・グリア細胞間のクロストークを担う伝達物質として機能する可能性を検討することを研究計画としており、平成29年度は初代培養神経細胞とプリオン感染マウス脳より分離したアストロサイト、ミクログリアの共培養の条件検討を行った。マウス脳から分離したアストロサイトは培養系で維持することが困難であった。また、神経細胞とミクログリアの共培養では、非感染マウスの脳から分離したミクログリアを用いても、神経細胞が死滅した。そこで、マウス胎仔脳より調整した神経細胞とアストロサイトの混合初代培養系にプリオン感染マウス脳より分離したミクログリアを加えた培養系を用いて解析を行った。 共培養系が当初の計画通りに確立することが困難であったことから、平成30~31年度に計画していた in vivo の実験を前倒しで行った。平成29年度に行う予定の実験の一部は遅れているが、平成30年度に行う予定の実験を前倒しで行ったことから、概ね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度の結果より、in vivo の状態に近い神経細胞・グリア細胞の混合培養系は確立が困難な部分があることや、リン酸化の検出が困難であった。今後は、in vivo の実験系を中心に解析を進める。in vivo の結果を補足する実験系として、培養系はマウス胎仔脳より調整した神経細胞とアストロサイトの混合初代培養系にプリオン感染マウス脳より分離したミクログリアを加えたものを用いる。また、HEK293T細胞で作製したリコンビナント補体因子を用いて培養系での解析を進める。 補体因子がプリオン感染神経細胞およびアストロサイトに誘導するシグナル伝達経路の解析は、今後、ウェスタンブロッティングおよび免疫染色によりリン酸化タンパク質を検出することにより行う。補体因子がプリオン病において神経細胞・グリア細胞間のクロストークを担う伝達物質として機能する可能性を検討する計画では、今後はC1qに加え、C4bやC3に対するshRNAをレンチウイルスベクターよりプリオン感染マウスの脳に導入し、効果を検討する。
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Causes of Carryover |
端数であり、金額内で購入すべきものがなかった。
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Research Products
(10 results)