2018 Fiscal Year Research-status Report
精子免疫ラットを用いた免疫系細胞による精子形成障害発症機序の解明
Project/Area Number |
17K08142
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Research Institution | National Agriculture and Food Research Organization |
Principal Investigator |
野口 純子 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 生物機能利用研究部門, 主席研究員 (80189381)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 精子形成 / 自己免疫性精巣炎 / MHCクラスⅡ / T細胞 / 血液精巣関門 / 男性不妊 |
Outline of Annual Research Achievements |
我々は前年度までにラットに精子を用いて免疫して自己免疫性精巣炎を誘起した精巣からソーティングにより回収したMHCクラスⅡ陽性細胞集団にセルトリ細胞および精細管周囲ミオイド細胞が含まれる可能性を定量的RT-PCRにより明らかにした。30年度は同様の方法で採取したMHCクラスⅡ陽性細胞中のセルトリ細胞およびミオイド細胞を免疫染色より確認することを試みたが、細胞数が極めて少ないこともあり検出することができなかった。他方、精巣炎を発症した精巣について、トレーサーを用いた血液精巣関門の機能試験の結果から、広範囲にわたりバリア機能に異常があることが観察された。 従来の精巣抗原による自己免疫性精巣炎は活性化T細胞による細胞性免疫反応であることが証明されている。我々はこれまでに精子の免疫により精巣炎を発症した精巣を形態学的に精査し、精細管に付着したTNFα陽性細胞が生殖細胞の変性・脱落に関与する可能性を得ている。T細胞の精細管への付着と精子形成異常の関係を明らかにするため、精子を接種したラットのリンパ節から感作T細胞を採取して活性化培養後、これらの細胞を正常ラットに移入して発症を誘起する「受動免疫」による発症実験を行った。感作T細胞は培養条件下で活性化することをXTTアッセイおよび培養液中のインターフェロンγの定量により確認した。また、移入に用いた細胞の一部をフローサイトメトリーにより解析し、CD4陽性T細胞であることを確認した。しかし、これまでのところ移入による精巣炎は確認できていない。その原因として、移入細胞数が十分でないこと(現在の最大細胞数は1匹あたり1x10^8)、および活性化したT細胞が細胞性免疫反応の主体であるヘルパー1型でなくヘルパー2型(液性免疫の主体となる)である可能性を考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
自己免疫性精巣炎による精子形成障害の機序の解明には、発症の引き金となる免疫系細胞を特定すること、および生殖細胞を含む精巣細胞のいずれの細胞が体内を巡回する免疫系細胞を精巣に定着させるか(=MHCクラスⅡによる抗原提示)を明らかにする必要がある。前者について、培養条件下で活性化を確認したT細胞により確認を試みたが、精巣への定着と精子形成障害の誘起を確認できなかった。活性化培養の条件検討、特に抗原処理方法の検討が必要であると予測し、実験を開始した。後者について、フローサイトメトリーとソーティングにより採取したMHC クラスⅡ陽性細胞集団から免疫染色によりセルトリ細胞等を検出することは技術的に困難であることが判明した。これに代えて精巣組織をMHCⅡ抗体で免疫染色して陽性細胞の検出を開始した。また、精巣炎により血液精巣関門(BTB)のバリア機能が破綻することをトレーサー試験で確認した。これは、免疫系細胞がセルトリ細胞機能に影響を与えた結果である。BTBはセルトリ細胞間特殊接合装置、タイトジャンクション、ギャップジャンクション等により構成されるが、炎症が進行中の精巣では精巣のタイトジャンクションに特有のクローディンの発現あるいは局在に異常が観察された。これらの接着装置はセルトリ細胞間のみならず、セルトリ細胞と生殖細胞間の物質のやりとりにも関与することから、各接着装置に特有の分子の局在異常を検出することで精子形成障害発症の一端を明らかにできると考え実験を開始した。こうしたことから、ほぼ順調に研究が進んでいると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
自己免疫性精巣炎発症に関与する精巣側因子の解析 免疫染色に使用可能なMHCⅡ抗体、ミオイド細胞マーカー(Calponin抗体)および基底膜を検出するコラーゲンタイプⅣ抗体を組み合わせ、精巣のMHCⅡ発現細胞を同定する。 また、精子により感作活性化したT細胞を移入した精巣を精査し、T細胞の集簇する部位からMHCⅡを介して精子由来抗原を提示する精巣細胞を特定する。感作活性化細胞培養にについて、抗原精子の処理方法を検討し、細胞性免疫に関与するヘルパー1型細胞の増殖を確認する必要がある。現在までに、活性化培養でCD4陽性(ヘルパー1型および2型のいずれも陽性)細胞の増殖を確認している。これらの細胞がTNFαを発現することをフローサイトメトリーにより確認し、培養系を確立する。 精子形成障害発症機序の解明 これまでに精子投与による精子形成障害には2つのタイプがあることを確認した。ひとつは精上皮の基底部から管腔側にかけてすべての生殖細胞が変性・脱落するもので、炎症による急性変化と考えている。こうした生殖細胞の変性・脱落が認められる精細管上皮について、バリア形成に関与する接着装置に固有のタンパク質の発現と局在を解析する。また、接着装置を維持するために不可欠な細胞骨格を構成するタンパク質の局在についても検討する。もうひとつのタイプとして、精上皮を形成する生殖細胞のうち精母細胞および円形精子細胞は認められるが伸長精子細胞のみが欠損するもので、緩慢は炎症像ととらえることができる。これはセルトリ細胞と伸長精子細胞の接着異常により早期に伸長精子細胞が脱落するものと考えられ、両細胞間の接着装置を構成する因子について検討して実証する。
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Causes of Carryover |
納入時の価格割引等により最終的に少額の残金が発生したが、次年度の物品購入に使用予定である。
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