2018 Fiscal Year Research-status Report
寄主免疫作用に対するヤドリバエの回避戦略:本当に柔術か
Project/Area Number |
17K08157
|
Research Institution | Japan International Research Center for Agricultural Sciences |
Principal Investigator |
中村 達 国立研究開発法人国際農林水産業研究センター, 企画連携部, 再雇用職員 (40373229)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
古川 誠一 筑波大学, 生命環境系, 准教授 (10391583)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | ヤドリバエ / 捕食寄生性昆虫 / 寄主免疫作用 |
Outline of Annual Research Achievements |
ヤドリバエD.inconspicuoides幼虫がアワヨトウに寄生した際に、自らの周囲に寄主免疫作用の結果と考えられる一種の膜状物質が形成されることを昨年発見したが、我々はこれをクローク(cloak)と名付けた。このクロークが、アワノメイガ、ハスモンヨトウ、カイコといった異なる寄主に寄生した際にも普遍的に形成されるかを観察した。その結果、カイコを除くすべての寄主でD.inconspicuoidesの周りにクロークと呼吸用ファネルが形成されていたものの、カイコにおいてはクロークがほとんど見られなかったことから、クローク形成が寄生成功に必須ではない可能性が示唆された。クロークの下の層(クロークとヤドリバエ幼虫の間の層)には、シース(sheath)と呼ばれる膜組織があることを我々は明らかにしている。寄生24時間以後はクロークの量が減少し、シースのみがD.inconspicuoidesを取り囲んでいる状況であった。シースのみでD.inconspicuoidesはホスト免疫から身を守ることができるのかを明らかにするため、アワヨトウに寄生したD. inconspicuoidesから周囲のシースのみを摘出した。そして、マイクロビーズを内包した後、アワヨトウ幼虫に移植を行い、ビーズがホストの免疫反応を受けるかどうかを観察した。その結果、移植したシースの周囲には包囲化が見られたが、内包されたビーズには通常の包囲化された異物に見られるようなメラニン化が見られなかった。この結果から、シースはホストによって異物として認識され包囲化を受けるが、内部にいる生物は包囲化に伴うメラニン化からは保護されることが示唆された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
寄生後24時間をピークに、時間とともにクローク量が減少しつつシースのみが残り、その内部の生物がメラニン化を受けないことを明らかにした。シースは寄生後完成までに24時間程度かかることが観察されていることから、クロークはこの間の防御を担っていることが示唆された。また、アワヨトウ以外での寄主内におけるクローク形成を観察した結果、D.inconspicuoidesの寄生戦略は寄主の種類によって異なる可能性が考えられた。
|
Strategy for Future Research Activity |
クロークとシースの形成がD.inconspicuoidesのアワヨトウへの寄生に必要と考えられ、これらの形成過程をさらに調査する。クロークに関しては、十分なサンプル量を得るのが困難である寄主脂肪体を誘引するタンパク質を同定するために分子生物学的手法によるアプローチを試みる。シースに関しては、詳細な構成物質を明らかにすることでその形成機構を推察していく。
|
Causes of Carryover |
クローク形成に必要な寄主脂肪体を誘引するタンパク質の精製を試みていたが、十分な量は得られないことから、アミノ酸配列解析を実施できなかった。次年度はこの戦略を変え、分子生物学的手法によるアプローチを試みるため、多額の分子生物学関連試薬の購入と費用を必要とする。またこれまでの成果を国際学会で発表する。
|