2018 Fiscal Year Research-status Report
昆虫細胞によるバキュロウイルス非依存型高効率タンパク質発現系の構築
Project/Area Number |
17K08162
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
永峰 俊弘 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 専任研究員 (90237553)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | バキュロウイルス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、ウイルスによる宿主細胞のシャットオフ機構を解明し、得られた知見を基にして、昆虫細胞によるバキュロウイルス非依存型高効率タンパク質発現系を構築することを目的としている。29年度はRNAiスクリーニングによってシャットオフ誘導遺伝子を同定するためにスクリーニング系の確立を進めた。30年度も当初、BmN4-SID1細胞を使ってのRNAi実験を開始していたが、その間に新たな知見として、細胞の転写機構にliquid-liquid phase separation(LLPS)が重要な役割を果たしていることが次々と報告された。また数年前より、核小体のような膜を持たない構造体の構造維持にも、このLLPSが大きく関与していることが報告され始めていた。バキュロウイルスの転写はvirogenic stroma(VS)と呼ばれるウイルスが誘導する核内構造体で進行し、このVSもLLPSによって構造維持されていると考えられる。従って、ウイルス感染によるVS及びもう一つのウイルス誘導核内構造体peristromal region(PR)のLLPSが、細胞内のその他のLLPSに大きく影響し、これがシャットオフ機構と関連している可能性が高くなってきた。実際、感染細胞内の核小体は、VSとPRによって、光学顕微鏡では観測できないほど凝縮されていることが分かっている。そこで30年度はVSとPRのLLPS誘導機構の解析を開始した。LLPSには天然変性領域(IDR)間の相互作用が重要であることが明らかになっている。そこで、まず、40残基以上のIDRを持つバキュロウイルスタンパク質を調査した。その結果、18種のタンパク質が見つかったので、現在、それらの遺伝子を使って、IDRを欠損させたり、IDRを相互に置換したりした組換え遺伝子を作製し、その局在の解析を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究計画を少し変更したため、進捗がやや遅れているが、本年度は、40残基以上のIDRを持つバキュロウイルスタンパク質18種のうち、VSあるいはPR局在が既に分かっているタンパク質のIE1、LEF3、GP41などを中心に解析した。IE1からIDRを欠損させたIE1-ΔIDRは、非感染細胞では、本来、核に局在するはずのIE1が細胞質局在に変化した。しかしながら、IE1のIDR単独では、細胞全体に分布し、特に核局在を示すことはなかった。一方、ウイルス感染細胞では、野生型のIE1同様、IE1-ΔIDRもVSに局在した。LEF3のIDRには核局在シグナルが存在することから、IDR単独でも核局在を示す一方、GP41のIDR単独では、IE1-IDR同様、細胞全体に分布した。次に、LEF3-IDR及びGP41-IDRをIE1のIDRと置換したIE1-[LEF3-IDR]とIE1-[GP41-IDR]の局在を調べたところ、非感染細胞では、IE1-[LEF3-IDR]は核局在を示す一方、IE1-[GP41-IDR]は細胞質に局在した。ウイルス感染細胞では、IE1-[LEF3-IDR]は強い感染阻害を引き起こし、多くの細胞でVS形成が阻害されてIE1-[LEF3-IDR]は核全体に分布し、VS局在は一部の細胞に限定された。一方、IE1-[GP41-IDR]は、主にVSに局在したが、一部の細胞では、VSに加えて細胞質にも分布した。また、野生型のIE1は他のウイルス遺伝子の転写を誘導することができるが、IE1-ΔIDR及びIE1-[GP41-IDR]は核に局在できないことから、その転写誘導能を失った。一方、IE1-[LEF3-IDR]はvp39遺伝子の転写を誘導した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も、ウイルスが誘導するLLPSが、宿主細胞のシャットオフに関与しているという仮説に基づいて、LLPSの解析を進める。具体的には、様々なウイルス遺伝子のORF全体やIDR部分と、Arabidopsis thalianaの cryptochrome 2 (CRY2)遺伝子を融合したキメラ遺伝子を作製し、効率的にLLPSを引き起こす遺伝子セットを検討する。その結果、効率的なLLPS誘導が可能となったのちは、LLPSとシャットオフとの関係を明らかにする。そして、最終的には、それらの遺伝子セットを持つ安定発現細胞株を作製し、光誘導型の効率的な遺伝子発現系を構築する。
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Causes of Carryover |
今年度の途中から、LLPSがシャットオフ機構と関連している可能性が高くなってきたため、研究方法を変更した。そのために計画実施がやや遅れ気味となり、次年度使用額が生じたが、次年度は研究を加速して、次年度の請求額と併せて、分子生物学用のキット類を含む薬品や細胞培養に必要なピペットやフラスコなどのプラスチック器具などを購入する予定である。
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