2017 Fiscal Year Research-status Report
放射性セシウムの吸収濃度向上と安定して高い除染効果を確保するための実証試験
Project/Area Number |
17K08163
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Research Institution | Hirosaki University |
Principal Investigator |
姜 東鎮 弘前大学, 農学生命科学部, 准教授 (20409080)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
田副 博文 弘前大学, 被ばく医療総合研究所, 助教 (60447381)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ネピアグラス / 137Cs濃度 / 茎葉部乾物収量 / 除染率 / キレート剤 / 耕うん回数 |
Outline of Annual Research Achievements |
福島第一原子力発電所事故により汚染された農地を対象にこれまでネピアグラスによる除染実証試験を行ってきたが,植物で継続的に農地除染を行う際に「植物体内の放射性セシウムの吸収濃度の低下」が新たな問題となっている.本研究はネピアグラス体内の吸収濃度を向上させ,安定した除染栽培手法を確立する目的で行った.研究初年度は予備実験で土壌中の137Cs抽出効果の高かったEDTAとクエン酸の2種類のキレート剤と,土壌粒子の摩擦により土壌から137Csを遊離するための異なる耕うん回数で設けた条件下で137Cs吸収濃度の向上ならびに除染率の向上が可能かを圃場レベルで明らかにすることを目的として行った.その結果,①単位面積当たりの茎葉部乾物収量はEDTA 10mM処理で最も高い乾物収量が得られた.一方,137Cs濃度においては全体的にキレート剤や耕うん効果はみられなかったが,EDTA 5mMとEDTA 10mM処理区でやや高い傾向がみられた.②除染率においてもキレート剤や耕うんの効果はみられなかったが,一番草と二番草の除染率はEDTA 10mM処理でやや高い傾向がみられた.③乾物収量,137Cs濃度,除染率におけるグループ間(対照区,EDTAグループ,クエン酸,耕うんグループ)での有意差は見られなかった.しかし,ETDAグループ(3mM, 5mM, 10mM)の137Cs濃度と除染率は耕うんグループ(5回,7回,10回)に比べて有意に高かった.④特にキレート剤のうちEDTA 10mM処理が,二番草における除染率が高いことから,一番草の刈取り後のキレート剤施用の効果が高いことが示唆された. 研究初年度の結果からは,キレート剤の中でも,EDTA処理が土壌粒子の摩擦により土壌から137Csを遊離させる耕うんという物理的な手法に比べてネピアグラス体内での137Cs吸収濃度を高める効果があると考えられた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究初年度ではキレート剤処理区のうちEDTA処理区が,耕うん処理区に比べてネピアグラス体内における137Cs濃度が有意に高いことが分かった.また,乾物収量も高く,単位面積当たりの除染率もEDTA処理区(特にEDTA10mM)がクエン酸や耕うん処理に比べて有意に高いことが分かった.特にEDTA10mM処理で「二番草」における137Cs濃度の増加は注目すべきところである.これまでの結果から,ネピアグラスの植付け後から茎葉部の成長とともに根の伸長が盛んに行われ,養水分とともに一番草で137Cs吸収が多く行われる.対して,一番草の茎葉部を刈り取ってから再生する茎葉部二番草はおおむね既存の根(一番草)からの養水分や137Csを吸収するため,二番草内の137Cs濃度は一番草に比べて低く, 1/3倍程度である.しかし,EDTA処理によって二番草のネピアグラス体内での137Cs濃度が高くなっており,一番草刈取り後のキレート剤施用(刈り株に)の効果が高いことが示唆された.そのため,次年度は当初の計画通りにEDTAの処理効果を無処理区と比較し,EDTA処理効果を再現するとともに,試験区反復を多くし,2ヵ年連続で茎葉部乾物収量,137Cs濃度,除染率を高く維持できるかどうか調べる.
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Strategy for Future Research Activity |
吸収濃度に最も効果のある化学的手法と物理的手法を組み合わせ,ネピアグラス体内の吸収濃度に相乗効果があるかを実証する当初の研究2年目の目標が一部達成されたことを踏まえ,研究2年目の平成30年度は 試験区反復を増やしてEDTA処理効果を再現するとともに,連続の作付けでも茎葉部乾物収量,137Cs濃度,除染率を高く維持できるかどうか調べる.さらに,近い将来に行われる可能性のある広範囲の除染(表土剥ぎ取り後の追加除染)を視野に入れて,平成29年3月30日避難指示が解除された浪江町沿岸地域の低レベル汚染農地を対象に,低汚染レベルでもEDTA処理がネピアグラスの茎葉部乾物収量や吸収濃度,除染率に効果があるかを明らかにしていく方針である.
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Remarks |
弘前大学2017年度環境報告書:「浪江町高レベル汚染土壌におけるネピアグラスによる放射性セシウムの除染」と「浪江町における広範囲農地除染と除染植物のバイオマスを活用したバイオ燃料生産の取組み」
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Research Products
(2 results)