2018 Fiscal Year Research-status Report
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17K08169
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
金尾 忠芳 岡山大学, 環境生命科学研究科, 准教授 (40379813)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 無機硫黄化合物 / 硫黄代謝 / 硫黄酸化細菌 / 酵素化学 / 好酸性細菌 / 酵素の結晶化 / refolding / 構造解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
鉄硫黄酸化細菌の一種 Acidithiobacillus ferrooxidans を研究の対象とし、硫黄化合物を代謝する酵素であるテトラチオン酸ハイドロラーゼ(4THase)について詳細な研究を行った。この4THaseは、無機硫黄化合物の加水分解反応を触媒し一部の好酸性微生物にのみ確認されている極めてユニークな酵素である。当該研究では既に、A. ferrooxidansの4THase遺伝子(Af-tth)を世界で初めて同定し、これを大腸菌組換え発現で得た封入体から酸性refolding処理により活性型酵素を獲得する新規な手法を開発し、その結晶化にも成功した。 本研究にて得られたAf-Tth結晶をSPring-8を利用したX-線照射実験で1.75オングストロームの解像度で結晶構造データを回収することができた。基質のテトラチオン酸を浸漬した結晶のX-線照射データの解析から本酵素の反応機構を推測した。Af-Tthは他の硫黄代謝関連酵素で見られるCys依存性の反応機構とは全く異なり、Asp325の基質へのプロトン供与による加水分解メカニズムであることを解明し、部位特異的変異酵素(D325N)の活性の消失からこれを証明した。 また、さらなるX-線結晶構造解析の結果、上記のAsp325付近から伸長する硫黄のオリゴマーと推定される電子密度、およびこれを捕捉する様な構造を持つ3つのメチオニン残基の存在を発見した。この3つのメチオニン残基は、本酵素における極めて特徴的な構造であり、他の好酸性微生物に由来する4THaseにも保存されている。まずはこのMet残基が捕捉している原子が硫黄原子であることを証明するためにSe-Met置換したAf-Tthの結晶を作成し、硫黄の吸収端に近い長波長X-線による解析を行なった。この結果、3つのメチオニン残基が捕捉した原子は単一の硫黄原子であることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
硫黄酸化細菌に由来する硫黄代謝関連酵素テトラチオン酸ハイドロラーゼ(4THase)は、無機硫黄化合物の一つテトラチオン酸を加水分解する反応を触媒する、好酸性硫黄酸化微生物においてのみその存在が確認されている極めてユニークな酵素である。当該研究課題において、これまでに本酵素の精製から機能未知であった本酵素遺伝子の同定、組換え発現とrefoldingによる活性型酵素の取得、および結晶化に成功した。さらにX-線結晶構造解析によりこの新規な酵素の立体構造を決定した。 昨年度は、結晶構造解析をさらに推進することで活性中心となる部位を特定し、そこに関わるアミノ酸残基を特定し、Asp325が基質のテトラチオン酸を加水分解することを変異導入実験と合わせて証明した。これは本酵素反応の第一段階であること、そして更なる酵素反応に3つのメチオニン残基が関わる可能性を発見したことは、大きな成果であると考えられる。メチオニン残基が関わる硫黄代謝酵素の反応は、全くの新規な反応メカニズムであり、これを解明することによって極めてユニークな研究成果が期待できる。 本酵素の立体構造の決定、およびAsp325が関与した反応の第一段階の証明に関する研究成果について、現在論文を作成している。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度(令和元年度)は、Af-Tthの構造と加水分解反応の第一段階についての論文の作成・発表を行いつつ、3つのメチオニン残基の活性への役割の特徴付けを行って、本酵素の完全な反応メカニズムの解明に取り掛かることを計画している。 具体的には、昨年度から継続してSe-Met置換した本酵素の結晶化とX-線結晶構造解析の推進。さらに3つのメチオニン残基を部位特異的変異による置換変異酵素を作成して、それぞれの活性への影響を調べることで、その役割と本酵素の完全な反応メカニズムの解明を目指したい。 また、その他の硫黄代謝関連酵素についての解析も行い、本研究課題である無機硫黄化合物の酵素化学に関する知見を深めていきたい。
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Causes of Carryover |
研究の順調な進捗から、2019年度に開催される本研究課題に関係する国際学会への参加を決めたが、それに参加するための経費を捻出する必要があったため。
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