2020 Fiscal Year Research-status Report
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17K08169
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
金尾 忠芳 岡山大学, 環境生命科学研究科, 准教授 (40379813)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 無機硫黄化合物 / 硫黄代謝 / 硫黄酸化細菌 / 酵素化学 / 好酸性細菌 / 酵素の結晶化 / refolding / 構造解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
鉄硫黄酸化細菌の一種 Acidithiobacillus ferrooxidans を研究の対象とし、硫黄化合物を代謝する酵素であるテトラチオン酸ハイドロラーゼ(4THase)について詳細な研究を行った。この4THaseは、無機硫黄化合物の加水分解反応を触媒し一部の好酸性微生物にのみ確認されている極めてユニークな酵素である。当該研 究では既に、本菌の4THase遺伝子(Af-tth)を世界で初めて同定し、これを大腸菌組換え発現で得た封入体から活性型酵素を獲得し、その結晶化にも成功した。 得られた結晶を大型放射光施設SPring-8においてX-線結晶構造解析を行い、その立体構造を決定した。さらに本酵素のユニークな反応メカニズムを解明するために、基質を浸漬した結晶構造解析を行うことにより、活性中心と反応に関わるアミノ酸残基の解析を行った。その結果、基質となるテトラチオン酸を加水分解するアミノ酸残基D325を同定し、これに部位特異的変異導入した変異酵素(D325N)を作成して、活性が完全に消失することを明らかにした。これらのことから本酵素の反応の第一段階を実証することができた。2020年度はこれらの研究成果を論文にまとめ、タンパク質・酵素の構造や機能に関して評価の高い国際誌(Protein Science)に掲載された。 また、さらなる構造解析を推進した結果、D325残基の近辺に3つのメチオニン残基(M172, M238, M279)によるMetクラスターを発見し、これが硫黄原子を捕捉している様子を発見した。このMetクラスターに部位特異的変異導入を施し、その機能解析を行った結果、M279A変異酵素において活性が消失し、M279が活性に必須の残基であることが分かった。 また、海洋性硫黄酸化細菌SH株の硫黄代謝関連酵素を探索した。その結果、新規なチオ硫酸代謝酵素遺伝子を同定した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度は、これまで行ってきたAf-Tthの結晶構造解析と反応機構に関する研究成果を論文にして、評価の高い国際誌に厳しい査読の末に発表することができた。また、前年度に発見した、極めて珍しい構造であるMetクラスターの機能解析を推進した。M172, M238, M279のそれぞれのメチオニン残基に変異を導入した変異酵素を作成し、活性測定を行った結果、M279A変異酵素のみ活性が完全に消失したが、残り2つのシングル変異酵素は活性に影響を与えなかった。したがって、M279は活性に必須の残基であり、残りの2つについては影響がないことが分かった。しかしながら、M172A/M238Aのダブル変異酵素においては活性が消失し、M279と少なくともどちらか1つのメチオニン残基が活性に必要であることが分かった。 本研究と並行して、海洋性硫黄酸化細菌SH株の硫黄代謝関連酵素を探索するため、本菌株の全ゲノム配列の詳細な解析を行った。その結果、新規なチオ硫酸代謝に関連する遺伝子を発見し、これを同定した。これらの研究成果も論文にまとめ、査読において高い評価を受け、国際誌に掲載された。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度に引き続き、極めてユニークなAf-Tthの完全な反応機構の解明を目指す。3つのメチオニンクラスターに捕捉された硫黄原子がどのように硫黄分子(硫黄の8員 環)を形成し、酵素から脱離するのか、については現在のところ全くのブラックボックスである。このため、野生型酵素だけでなく、これまでに作成した変異酵素についても結晶構造解析を試みて、これの解明に取り組みたい。 本菌については、遺伝子組み換え技術が依然確立されておらず、この手法の開発に取り組む。homologous expression (同種細胞内組み換え発現)システムを構築することで、硫黄代謝関連酵素遺伝子の本来の機能的な発現を可能にして、これまで推定上の機能しか分かっていなかった様々な遺伝子産物(酵素)の機能を実証をすることができると期待される。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルスのパンデミックによって、成果発表および情報収集を目的として参加する予定の国際学会(欧州にて開催)が中止となった。このために用意していた旅費について、次年度へ繰り越した上、研究試薬消耗品へと予算を振り替えた。
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Research Products
(4 results)