2018 Fiscal Year Research-status Report
Catalytic asymmetric synthesis of bioactive N-C axially chiral quinazolinones and their structural property
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17K08220
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Research Institution | Shibaura Institute of Technology |
Principal Investigator |
北川 理 芝浦工業大学, 工学部, 教授 (30214787)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 軸不斉 / キナゾリノン / エナンチオマー / 自己不均化 / ジアステレオマー / アルキル化 / エノラート |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度は,向精神薬メクロカロンならびにその誘導体の触媒的不斉合成,軸不斉キナゾリノンにおけるオルト位置換基と回転障壁の関係,さらには非ラセミックな軸不斉キナゾリノン誘導体で観察されたエナンチオマーの自己不均化のメカニズムの解明を行なった. まず,向精神薬メクロカロンの触媒的不斉合成であるが,メブロカロン合成で使用したキラルパラジウム触媒を用いる還元的不斉非対称化法を適用したものの,反応収率ならびにエナンチオ選択性共に低く,これ以上の検討は断念した.光学的に純粋なメクロカロンは,キラルMPLCを用いるエナンチオマー分離により得ることができた. 次に,種々のオルト置換フェニル基を有する3-アリールキナゾリン-4-オンを合成し,オルト位置換基と回転障壁ならびに反応性の関係について精査した.その結果,キナゾリノン誘導体においては,オルト位置換基としてフッ素原子を有する基質においても,安定な軸不斉構造を有することを見い出した.立体的に小さなフッ素原子に基づく軸不斉化合物はこれまで一般的ではなく,大きな興味が持たれる.さらに,種々のオルト置換基を有する3-アリール-2-エチルキナゾリン-4-オンより調製したエノラートのα-アルキル化反応を行なって,オルト位置換基とジアステレオ選択性の相関性も明らかにした. また,昨年度見い出した非ラセミックな軸不斉キナゾリノンで観察されたエナンチオマーの自己不均化のメカニズムと一般性についても検討を加えた.その結果,エナンチオマーの自己不均化はメブロカロン誘導体のみならず,種々のオルト置換基を有する軸不斉キナゾリノンで生じることを明らかにした.さらに,ラセミ体ならびに光学活性体のX線結晶構造解析を行なったところ,結晶構造ならびに安定性に大きな差が認められ,これを基にSDE発現機構に関する考察を加えた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
まず,目標の一つであった向精神薬メクロカロンの触媒的不斉合成であるが,メブロカロン合成で使用した不斉触媒反応が適用できないことが判明したので(想定の範囲内),軸不斉キナゾリノン誘導体の構造論的研究ならびに立体選択的反応への適用を中心に検討を行なった. その結果,これまで全く報告例の無かった新たな知見を得ることができた.例えば,立体的に小さなフッ素原子を有する軸不斉化合物は,炭素ー窒素軸不斉のみならず炭素ー炭素軸不斉化合物を含めても一般的ではなかったが,キナゾリノン誘導体においては,オルト位置換基としてフッ素原子を有する基質においても,安定な軸不斉構造を有することを見い出した.さらに,この構造特性を利用して,種々の3-アリール-2-エチルキナゾリン-4-オンより調製したエノラートのα-アルキル化反応を行ない,オルト位置換基とジアステレオ選択性の相関を明らかにした.従来の炭素ー窒素軸不斉化合物では,オルト位置換基が小さくなると不斉軸が容易に回転するため,オルト位置換基と立体選択性の相関を系統的に検討することは困難であり,軸不斉キナゾリノン誘導体を用いることにより初めて実現できたと言える. また,軸不斉キナゾリノンの結晶構造に関しても予想外の興味深い結果が得られた.すなわち,ラセミックな結晶中ではオルト位ハロゲン原子とカルボニル酸素間に分子間ハロゲン結合が生じているのに対し,光学的に純粋な結晶ではハロゲン結合が認められなかった.ハロゲン結合は現在大きな注目を集めている分子間結合であり数多くの報告例が知られているが,このようなキラリティー依存型のハロゲン結合は一般的ではなく,大きな興味が持たれる. このように,不斉合成では良好な結果が得られなかったものの,構造論の面では当初の目的をほぼ達成した他,予想外の新たな結果も得ることができ,全体的に見ておおむね順調に進行していると判断した.
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Strategy for Future Research Activity |
軸不斉キナゾリノン誘導体の不斉合成に関しては,オルト-ブロモフェニル基を有するメブロカロン以外の基質に適用することは困難であることが判明したので,研究の中心を不斉合成から構造論的研究にシフトする.特に,フッ素原子を有する安定な軸不斉キナゾリノンの創成に成功した点に着目し,新たにフッ素原子よりさらに小さな重水素原子を有する軸不斉キナゾリノン誘導体の合成を行ない,不斉軸の安定性を調べる.このような重水素と軽水素の識別に基づく軸不斉化合物はこれまで全く知られておらず,学術的に大きなインパクトを与えると考えられる. また,キナゾリノン誘導体とは構造的には異なるものの,最近新たな炭素ー窒素軸不斉化合物として軸不斉スルホンアミド誘導体を見い出した.さらに,不斉Pd触媒を用いるN-アリル化を利用することにより,不斉合成できる可能性も見い出しつつある.従来報告されている炭素ー窒素軸不斉化合物のほとんどは,カルボン酸アミド誘導体もしくは含窒素芳香族複素環型化合物であり,軸不斉スルホンアミドは数例が知られているのみである.特に,軸不斉スルホンアミドの触媒的不斉合成については全く報告されていない.我々が2005年に報告した軸不斉アニリドの高エナンチオ選択的触媒的合成をきっかけとして,現在炭素-窒素軸不斉化合物の触媒的不斉合成は多くのグループにより活発に研究されており,本研究は不斉触媒反応の新たな炭素-窒素軸不斉標的分子を提供することになる.
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた最も大きな理由は,所属大学における有機溶媒の共用化である.すなわち,本研究課題申請時には有機溶媒の購入費を考慮して予算を申請したが,その翌年よりヘキサン,アセトン,アルコール類が共用溶媒となり,これら溶媒の購入代金は大学側が支払うことになった.そのため,有機溶媒の購入費として計上していた予算(25万円X2年間=50万円程度)を使用する必要が無くなったことが挙げられる. その他の理由としては,研究の中心が構造論的研究にシフトしたことにより,不斉反応で使用する高額な不斉配位子を購入する必要が無くなったことも考えられる. 一方,構造論に関する新たな研究を開始したこともあり,当初想定していなかったエナンチオマー分離のための分取用キラルカラムが必要となった.同カラムは1本30万円と高額であり,繰り越した予算を利用して2種類のカラム(2本)を購入する予定である.
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Research Products
(7 results)