2017 Fiscal Year Research-status Report
三環性フムラノライド類の効率的合成法の開発と構造活性相関
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17K08222
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Research Institution | Japan Women's University |
Principal Investigator |
阿部 秀樹 日本女子大学, 理学部, 准教授 (00328551)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 三環性フムラノライド / ラジカル環化反応 / Knoevenagel 縮合 |
Outline of Annual Research Achievements |
2015 年にキョウチクトウ科植物 Cynanchum wilfordii から単離された wilfolide A および B をはじめ、八員環、五員環、および γ-ラクトンの三環性骨格をもつフムラノライド類がこれまでに合計6種単離報告されている。それらフムラノライド類は特徴的な構造をもつことから、一部の化合物の全合成研究は報告されている。しかし、それらフムラノライド類の生理活性については、wilfolide 類のアセチルコリンエステラーゼ阻害活性が唯一知られているのみである。そこでフムラノライド類の効率的な派生的合成経路を確立し、構造活性相関研究への展開を目指すことにした。 研究代表者は既に、それらフムラノライド類の一つである四環性セスキテルペンラクトン naupliolide の全合成を達成している。そこで類似の手法を用いて、wilfolide 類をはじめ4種のフムラノライド類を派生的に合成する経路の確立を目指した。 当初計画した 3,3-ジメチルグルタル酸無水物を出発物質としたヘミアセタールを経由する検討は、短工程での中間体合成を達成できたものの、途中の数工程の反応において再現性が確認できず、鍵中間体の安定供給には至らなかった。そこで経路を変更し、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオールを出発物質に用い、Knoevenagel 縮合、ジオールのモノ TBDPS 化、および Z-選択的 Horner-Wadsworth-Emmons 反応などを用いた迂回ルートによるラジカル環化反応前駆体合成経路の開発に成功し、続く立体選択的ラジカル環化反応を行うことで、平成29年度の到達目標化合物である二環性ラクトンの合成に成功した。さらに八員環の構築へ向けた側鎖の導入にも成功し、八員環構築の前段階までの合成を達成することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
はじめに鍵化合物として設定した二環性ラクトンの合成について、3,3-ジメチルグルタル酸無水物を出発物質とした2通りの合成経路を用いて検討した。2つの経路とも途中段階においてヘミアミナールを経由する必要があるため、ヘミアミナールの不安定さから、ヘミアミナールの合成と続く変換反応の再現性が認められなかった。得られた化合物を利用し鍵中間体である二環性ラクトンの合成することはできたものの、化合物の安定供給に何があり、効率的に合成を進めることができなかったため、これらの経路を断念することにした。 新たな経路として、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオールを出発物質とした合成経路を立案し、検討を行った。ジオールの片方の水酸基を保護したのち、酸化と続く Knoevenagel 縮合によりジエステル部を構築した。ジエステルをジオールへと変換したのち、モノTBDPS化、酸化、Z 選択的 Horner-Wadsworth-Emmons 反応などの変換反応により、Z-エステル部をもつアルデヒドへ導いた。次いでヨウ化サマリウム(Ⅱ)を用いたラジカル環化反応を行い、二環性ラクトンの合成に成功した。これらの結果から、二環性ラクトンを安定的に供給可能な合成経路の確立に成功した。 さらにラクトン α 位への側鎖の導入を行ったのち、イソプロペニル基を導入しアリルアルコールを得た。次いで得られたアリルアルコールを酸化してエノンへ導いたのち、塩基を用いた異性化反応を行い、エノン側鎖 α 位の異性化を行った。得られた異性化体は閉環メタセシスにより八員環を構築するための前駆体となる化合物である。 以上のように、当初計画していた二環性ラクトンの合成経路を確立したのち、メタセシス前駆体の合成まで達成しているため当初の計画以上に本研究は進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの検討により、八員環構築のための前駆体の合成に成功した。しかしラクトン α 位へのブテニル側鎖の導入、およびエノン α 位の異性化反応が低収率であり改善の余地を残している。そこでそれぞれの反応条件についてより詳細な検討を行う。 側鎖導入としては,導入する側鎖の種類や塩基等の様々な条件を検討する。これまでの知見では、強塩基を 0 ℃ 付近で作用させるとラクトン環の開環を伴った分解反応が進行することや、比較的近傍にある水酸基は無保護の状態でも保護基を導入しても反応性に差が見られないことが明らかになっている。そこで求電子試薬について検討を行うことにする。 一方、異性化反応においてはこれまでに3種の立体異性体が得られていることから、それぞれを主として得る条件の検討を目指す。すなわち、エノン α 位が異性化する条件、ラクトン α 位のみが異性化する条件、さらには2箇所のカルボニル α 位がともに異性化する条件を見出す。 次いで閉環メタセシスを行い八員環を構築し、はじめに wilforide B の全合成を行ったのち、他のフムラノライド類の全合成を目指す。また、閉環メタセシス反応と異性化を組み合わせることでより効率的な合成経路の確立に取り組む。 目標とするフムラノライド類の合成を達成後、生物活性試験に取り組む。
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Causes of Carryover |
初年度は勤務先を異動したことにより、スタートアップとして異動先からの研究費が多く配分された。スタートアップ分を含めた大学からの研究費を優先的に使用したため、次年度使用額が増加した。次年度は大学からの配分額が本年度の約3分の1の通常額となるため、次年度は科研費への依存が高くなる予定である。 次年度は、閉環メタセシス反応の検討を予定している。そのためメタセシス用の金属触媒のラインナップを揃えるために、多くの種類の購入が必須である。それら触媒はいずれも高価であるため相当の支出が見込まれる。 さらに生物活性試験への資料供給を視野に入れたスケールアップの検討も併せて行うため、これまで以上に有機合成用試薬、および溶媒に対する出費が見込まれる。
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