2018 Fiscal Year Research-status Report
Structural chemistry on highly stabilized carbanions
Project/Area Number |
17K08224
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Research Institution | Tokyo University of Pharmacy and Life Science |
Principal Investigator |
矢内 光 東京薬科大学, 薬学部, 准教授 (10408685)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 有機化学 / 薬学 / 構造化学 / カルボアニオン / 炭素酸 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,① 一般式(RfSO2)2CHRで表される超強酸性炭素酸(Rf = ペルフルオロアルキル)の合成法の開発と,② それらから導かれる極安定カルボアニオンの構造化学的解析を行うものである。以下,本年度の成果概要を示す。 ① については,前年度の検討で見いだされた新手法を,種々の複素環式芳香族化合物へと適用した。その結果,種々の含窒素複素環化合物に対してTf2C=CH2を作用させることで,目的とする炭素酸(2,2-ビス(トリフリル)エチル化体)が得られることを明らかにした。また,一つの複素環骨格に対して複数の炭素酸構造を導入することも可能であった。こうした成果は,酸性官能基の位置と数が異なる一群の酸をもたらすものであり,分子構造と酸の機能との間にある相関を見積もっていく上で好ましいものである。また,観察された位置選択性は,他の芳香族求電子置換反応で見られる配向性と同一で,炭素酸構造の導入位置を正確に予想することも可能になった。 ② に関しては,ホスホニウム型分子内塩の合成を精力的に進め,'C(-)-C-P(+)' 構造ないし'C(-)-C-C-P(+)' 構造をもつカルバベタインの体系的な合成を完了した。合成した化合物は,適宜,単結晶X線構造解析と各種NMR解析によってその動的・静的構造を明らかにしていった。更に代表的な生成物については,自然結合軌道(NBO)解析およびAtoms in Molecules(QTAIM)解析を行うことで,アニオン性炭素原子とカチオン性リン原子間に働く原子間相互作用(結合)の量子化学的な解析を進めた。その結果,既知のホスホニウムエノラートではアニオン性酸素原子とカチオン性リン原子間に明瞭な電荷移動相互作用が働いているのに対して,[Tf2C]-構造をもつ分子内塩では,イオン性原子間の相互作用が無視できるほどに小さいことを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究では,カルボアニオン[Tf2CR]-の安定化要因を探ると共に,カチオン種との相互作用の様式の解明を目指している。本年度行ったホスホニウム塩に関する体系的な検討から,負の超共役効果が[Tf2CR]-の安定化要因として重要な役割を果たしていることを指摘すると共に,近接したカチオン種との相互作用が際立って弱いとの結論も得られた。こうした成果は,研究代表者が長らく実験的に観察していた「炭素酸触媒反応における際立って強い基質の活性化」という現象とも矛盾しない。また,本カルボアニオン構造の際立って大きな安定性を鑑みることで,構造的に類似したpush-pullアルケンTf2C=C(NHR)2におけるπ結合の結合状態への理解も深まると期待される。 [Tf2CR]-の電子状態や物理化学的性質の一面を解明した本年度の研究成果は,上述の通り,周辺の化学への影響も大きいことから,当初の計画以上に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
二年間に亘る研究によって,種々の置換基をもつ炭素酸の汎用的な合成手法の開発と,合成した酸分子の際立って大きな酸強度を共役塩基の安定性から論じることが可能になってきた。最終年では,こうした基礎的知見を念頭に蛍光分子などの機能性分子の炭素酸化を果たし,強酸性炭素酸構造の導入が分子の機能に及ぼす影響を精査していく。 また,こうした酸によって修飾された機能性分子の各種物性を測定し,酸構造の導入が物性に及ぼす影響を体系化する試みを進めていく。
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Research Products
(12 results)