2018 Fiscal Year Research-status Report
Roles of opioid peptides in anti-oxidative stress in the brain
Project/Area Number |
17K08245
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Research Institution | International University of Health and Welfare |
Principal Investigator |
三浦 隆史 国際医療福祉大学, 薬学部, 教授 (30222318)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 酸化ストレス / オピオイドペプチド / セロトニン / 銅 |
Outline of Annual Research Achievements |
銅は生体内でCu(II)とCu(I)の2種の酸化状態をとることができる。銅の酸化還元はエネルギー産生や活性酸素の除去など、生体にとって有用な反応に利用されるが、厳密な制御から外れた酸化還元はフェントン反応などにより酸化ストレスを惹起する可能性を持つ。このため、Cu(II)またはCu(I)に対して特異的に結合し、酸化還元を抑制するキレート物質は有力な抗酸化物質となり得る。例えば、細胞内でCu(I)を安定化するグルタチオン、細胞外でCu(II)を安定化するヒスチジンなどのアミノ酸やアルブミンは、この種の抗酸化物質の例である。 脳は不飽和脂質に富み、酸素消費量も多いことから、生体内でも特に酸化ストレスに晒されやすい部位である。しかし、脳、特に脳の細胞外における抗酸化ストレスの機序については不明な点が多く、抗酸化に関わる物質の特定も進められていない。本研究では、鎮痛作用が主たる役割と考えられているオピオイドペプチドが脳内における抗酸化系を担う可能性に着目し、その機能メカニズムを解明することを目的とした。 エンドモルフィンは4アミノ酸残基から成る短いペプチドであるが、4残基中の3残基が芳香族アミノ酸(Tyr, Trp, Phe各1残基)であるという特徴的なアミノ酸組成を持つ。2017年度に行った研究では、エンドモルフィンは脂質膜のモデルであるSDSミセルと結合した状態でCu(I)と結合することを明らかにした。2018年度は、銅の酸化還元制御に関わる物質の探索をさらに進め、神経伝達物質として知られるセロトニンがCu(II)の還元物質としての役割を持つ可能性を示すことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
セロトニン(5-HT)は、神経伝達物質として働く生理活性アミンであるが、銅イオンにより容易に酸化され、細胞毒性を示す。比較的酸化ストレスに対する抵抗性が低い脳において、何故、敢えて酸化されやすい物質が利用されるのか、合理的な説明はされていない。2018年度の研究では、5-HTと銅の酸化還元反応が生理的役割を持つ可能性について検証を行った。5-HTによるCu(II)→Cu(I)還元は、bathocuproinedisulfonic acid(BC)によるCu(I)の定量、及びCu(II)のd-d遷移吸収の減弱により追跡した。Cu(II)による5-HTの酸化は、5-HTの紫外吸収により調べた。2018年度の主な研究成果を以下に記す。 (1) Cu(I)選択的キレート指示薬であるBC存在下で、Cu(II)に5-HTを添加したところ、Cu(I)-BC複合体による可視吸収が速やかに現れ、強度増大した。L-tryptophan存在下でのCu(I)の生成は無視できる程度であったことから、インドール環に水酸基を持つ構造がCu(II)の還元活性を顕著に高めることがわかった。 (2) BC非存在下でCu(II)にアスコルビン酸を添加するとCu(II)のd-d遷移吸収が減弱した。しかし、5-HTを添加した場合はCu(II)のd-d遷移吸収の減弱は観測されないことから、5-HTによる速やかなCu(II)還元には、Cu(I)受容体の存在が重要と考えられる。 (3) BCの替わりに、Cu(I)に対して親和性を持つチオエーテル化合物を添加したところ、5-HTによるCu(II)還元が顕著に促進されることがわかった。 チオエーテルはタンパク質のメチオニンに存在する。本研究結果から、5-HTの銅還元能は銅輸送などの生理機能と関わる可能性が示された。
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Strategy for Future Research Activity |
(1) 2018年度までの研究により、銅を還元することが5-HTの生理的役割のひとつである可能性が示された。しかし、還元する度に生じる5-HTの酸化物が、その後どのように処理されるのかは不明である。 5-HTの酸化物は細胞毒性を持つことが指摘されている他、Ctr1のメチオニンやチロシンなどと結合してCtr1を不活化させることも考えられるため、酸化還元反応後の経路を明らかにする。 (2) エンドモルフィンがミセルに結合することで、Cu(I)と結合できるようになる理由を解明する。ミセルに結合することによるエンドモルフィンの構造変化は、主としてProのトランス型-シス型間の構造転移によると考えられている。Proを他のアミノ酸に変えた場合、アミド基がトランス型に固定されるため、ミセルに結合しても銅イオンに親和性を持つ構造を取れなくなる可能性がある。この点をP→A変異ペプチドを用いて検証する。 (3) エンドモルフィンによるCu(I)/Cu(II)酸化還元調節のメカニズムを、銅の酸化還元電位に対するエンドモルフィンの影響を調べることで明らかにする。電気化学アナライザーを用いて銅溶液、および様々な濃度のエンドモルフィンを添加した銅溶液についてサイクリックボルタモグラムを測定し、銅の酸化還元電位とエンドモルフィン濃度の関係を調べる。 (4) 銅イオンとTrpの間にカチオン-π相互作用が存在するか調べるため、紫外吸収スペクトルの測定を行う。また、銅の結合部位が、折れ畳まれたエンドモルフィンのTrpとTyrの芳香環の間であることの証拠を得るため、Y→A変異ペプチドを用いて、蛍光消光の実験を行う。 得られた成果を整理し、オピオイドペプチドや神経伝達物質が、従来知られていた役割の他に、脳内における抗酸化ストレス作用を担うことを明らかにする。
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Causes of Carryover |
2018年度から2019年度にかけて行うことを予定している実験では、メチオニンや芳香族アミノ酸を多く含むペプチドや活性酸素種の定量試薬を多く使用する。これらは、消耗品としては比較的高価であり、また長期保存に耐えない点で共通する。研究を計画的に遂行するため、適切な時期に、集中して試薬を購入し、まとめて実験を行う必要性が生じた。時期を検討した結果、2018年度の予算を一部次年度へ繰り越す方が研究費を有効使用できることが判明したため次年度使用が生じた。
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