2018 Fiscal Year Research-status Report
肥満症の病態形成における液性因子neudesinの意義
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17K08268
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
太田 紘也 名古屋大学, 環境医学研究所, 特任助教 (40638988)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | neudesin / 交感神経系 / 脂肪細胞 / 褐色化 / マクロファージ |
Outline of Annual Research Achievements |
研究代表者は本研究期間内に以下の2つの結果を得た。
1: 液性因子neudesinが交感神経において果たす役割を明らかにした。交感神経細胞のモデルとなるPC12細胞にはneudesinが発現しているが、siRNAによりneudesinをKDするとノルアドレナリン合成の律速酵素であるThの発現が上昇し、培養上清中のノルアドレナリン含量も増加することが判明した。さらにneudesin KOマウス由来の交感神経節ではTh発現が上昇することを見出した。また同時にneudesin KOマウスの皮下白色脂肪組織において、白色脂肪の褐色化を促進するCideaおよびFoxo1発現が亢進することを見出した。以上の結果は、研究代表者の先行論文の内容を補強する内容であり、神経と脂肪細胞の組織連関の中でneudesinが果たす役割の解明に大きく貢献するものである。
2: 液性因子neudesinが免疫系、特にマクロファージ機能に及ぼす影響ついて解析を始めた。neudesinが明確にマクロファージに発現する一方で、マクロファージの種類により発現が異なること、具体的には炎症促進性のM1マクロファージで低く、炎症抑制性のM2マクロファージで高いことを見出した。またneudesin発現は栄養状態の変化(例えば肥満や絶食)に影響されるが、マクロファージ機能も栄養状態の影響を受けることが分かっている。その中で研究代表者はサイトカイン産生を始めとするマクロファージ機能が、アミノ酸代謝特にセリン代謝の影響を受けること、具体的にはセリンがマクロファージによる炎症応答を抑制することを見出した。以上の結果は、これまで明確にされていない免疫系でのneudesinの役割、特にマクロファージ機能制御においてneudesinが果たす役割の解明に貢献するものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究代表者は、研究実績の概要でも触れたようにneudesin研究に関して一定の成果を得て、学会発表等で世間に発信する機会を得た。一方で当初の実験計画で記した内容と比較すると実験方針の変更が必要になった部分もあり、進捗状況としては「やや遅れている」と判断される。
まず当初はneudesinが脂肪細胞そのものに及ぼす影響を明らかにすることを計画して、予備的ながらneudesin欠損脂肪細胞の方が褐色化促進刺激に対する感受性が高いことを見出した。しかし研究全般としてはneudesinが神経細胞(交感神経節)に与える影響、さらに交感神経系を介してエネルギー代謝に及ぼす影響に関して、多くの知見が得られている。そのため、neudesinが「交感神経系を介して」、白色脂肪の褐色化などエネルギー代謝制御において果たす役割を解明することにより重点を置いている。
次にneudesinが免疫系を介してエネルギー代謝に及ぼす影響を明らかにすることを計画しているが、最初にneudesinがマクロファージに明確に発現することや、マクロファージの種類によりneudesin発現が異なることを明らかにした。さらにneudesin発現が栄養状態の影響を受けること、さらに栄養状態の変化がマクロファージによる炎症制御に及ぼす影響に関して、セリンを切り口にアミノ酸代謝による制御と言う新しい側面を明らかにした。以上のようにneudesinがマクロファージにおいて果たす役割の一端や、栄養状態によるマクロファージ機能制御の新たな一面について確実に結果が得られた。一方で当初の免疫系とエネルギー代謝の連関においてneudesinが果たす役割に関しては、今後の研究の進展が待たれる状況である。
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Strategy for Future Research Activity |
研究代表者は実験計画書に記載した内容と、現在の研究の進行状況を鑑みて、以下に記す方針で研究を遂行する予定である。
まずneudesinとエネルギー代謝に関する研究では、既に多くの知見が得られた、「交感神経を介して」neudesinがエネルギー消費を制御する機序に関してデータをまとめることを優先する。一方で、neudesinが脂肪細胞そのものの性質に影響を与えることも予備的なデータながら明らかなので並行して研究を進める。重要な点として、交感神経においても脂肪細胞においても、neudesin欠損はエネルギー消費亢進を誘導する方向に働くことが明らかで、研究代表者が既に報告したneudesin KOマウスの抗肥満という表現型とも合致する知見である。従って、研究を進める順番の違いはあるものの、「エネルギー代謝におけるneudesinの役割」を解明するという観点で考えると、交感神経に着目した解析も脂肪細胞着目した解析も、共に重要であると考えられる。
次にneudesinがマクロファージを始めとする免疫系に及ぼす影響に関しては、並行して行っていたアミノ酸代謝によるマクロファージ機能制御と言う、これまで明らかにされていない事象に関して知見が集積している。当初の免疫系と代謝系を結ぶ因子としてのneudesinと言う概念の解析には至っていないが、その前段階として、neudesinによるマクロファージ機能制御を明らかにすることは有意義であり、栄養状態の変化がneudesin発現とマクロファージ機能制御の双方において重要なことを鑑みると、上述のアミノ酸代謝によるマクロファージ機能制御に関する研究を行うことも研究全般の進展に寄与することが期待される。
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Research Products
(4 results)