2017 Fiscal Year Research-status Report
エナメル質形成不全症原因遺伝子FAM83Hの遺伝子改変マウスを用いた疾患研究
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17K08293
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Research Institution | Setsunan University |
Principal Investigator |
久家 貴寿 摂南大学, 薬学部, 助教 (20551857)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
佐々木 光穂 国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所, 医薬基盤研究所 難治性疾患研究開発・支援センター, プロジェクト研究員 (20432536)
朝長 毅 国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所, 医薬基盤研究所 創薬デザイン研究センター, プロジェクトリーダー (80227644)
山岸 伸行 摂南大学, 薬学部, 教授 (60298685)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | FAM83H / 優性遺伝性低石灰化型エナメル質形成不全症 / エナメル質 / ケラチン |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度は、優性遺伝性低石灰化型エナメル質形成不全症(ADHCAI)患者と同様に、FAM83H遺伝子にヘテロ接合型で変異を持つマウスの解析を行った。FAM83H遺伝子改変マウスは、野生型と同様に、正常な本数の歯を持っており、歯の形状も正常であった。さらに、FAM83H遺伝子改変マウスのエナメル質の、エナメル小柱構造と石灰化度を、走査型電子顕微鏡とコンタクトマイクロラジオグラムで詳細に解析した。エナメル小柱構造と石灰化度についても、FAM83H遺伝子改変マウスと野生型で違いは見られなかった。これらの結果は、マウスにおいては、FAM83H遺伝子に変異が入っても、ADHCAIが発症しないことを示唆した。ホモ接合型のFAM83H遺伝子改変マウスのエナメル質についても、同様に詳細な解析を行ったが、こちらのマウスでもADHCAIの発症は見られなかった。この結果は、FAM83Hが、マウスの歯のエナメル質形成に必須ではないことを示唆した。ADHCAIのモデル動物を作成するためには、マウス以外の動物を用いる必要があると思われた。 FAM83H遺伝子改変マウスはADHCAIを発症しなかったが、ホモ接合型FAM83H遺伝子改変マウスのエナメル芽細胞では、ケラチン骨格の異常と細胞間接着の異常が起こっていることを明らかにした。ケラチン骨格はヘミデスモソーム等の形成を制御していることが知られており、ヘミデスモソームの異常はエナメル質形成不全症の原因となることが知られている。ヒトのエナメル芽細胞において、FAM83H遺伝子変異が、より重大なケラチン骨格異常を誘導しているのであれば、それが、ADHCAIの疾患発症メカニズムになりうると考えらえた。今後は、この仮説の証明を目指して研究を進める。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画通りに、ヘテロ接合型FAM83H遺伝子改変マウスが、FAM83H断片化タンパク質を発現していることを確認し、優性遺伝性低石灰化型エナメル質形成不全症(ADHCAI)を発症するかどうかの検討を終えることができた。研究開始当初に立てた仮説とは異なり、マウスでは、FAM83H断片化タンパク質が発現しても、ADHCAIが発症しないことが明らかになった。 FAM83H遺伝子改変マウスがADHCAIを発症しなかったため、研究開始当初に立てた対応策に従って研究をさらに進めた。その結果、ADHCAIの疾患発症メカニズムの解明に繋がる知見を得ることができた点も大きな進展である。ホモ接合型FAM83H遺伝子改変マウスのエナメル芽細胞では、ケラチン骨格の異常、細胞間接着の異常が起こっていることを明らかにした。本結果から、FAM83Hの遺伝子変異が、マウスよりもヒトのエナメル芽細胞で、より重度のケラチン骨格異常を生じさせているのか、それがADHCAIに繋がるのかどうかを調べることが新たな課題であると理解することができた。 さらに、FAM83H遺伝子改変マウスの解析結果から、我々は、FAM83Hが、皮膚の形成に必須である可能性を見出すことができた。ホモ接合型のFAM83H遺伝子改変マウスの毛並みは荒く、容易に毛が抜ける傾向が確認された。今後、ホモ接合型マウスの皮膚の解析を行うことで、皮膚組織の形成の仕組みの一端を明らかにすることができると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
FAM83H遺伝子改変マウスはADHCAIを発症しなかったため、このマウスを使っても、直接的に、疾患発症メカニズムを解明することは困難であると考えられた。しかし、FAM83H遺伝子改変マウスの解析結果から、新たな疾患発症メカニズムの仮説が立てられたため、今後は、その仮説をin vitroの実験系などで検証していく。現在我々が考える、ADHCAIの発症の仕組みの仮説は次の通りである。ヒトのエナメル芽細胞が、石灰化が促進される成熟期細胞に分化すると、FAM83H変異タンパク質が急激に発現し、ケラチン骨格を破壊する。このケラチン骨格の破壊により、ヘミデスモソームなどの形成が妨げられ、エナメル芽細胞の機能異常が発生する。この仮説を明らかにするために、まずは、FAM83H変異タンパク質の発現制御メカニズムの解明を試みる。FAM83H野生型と変異型では、転写制御機構は同じであるため、それらではタンパク質の安定性等の制御機構が異なると推測される。 また、FAM83H遺伝子改変マウスで見られた、皮膚等の異常が起こる仕組みについても今後解明を試みる。歯のエナメル質と皮膚では、発生の起源が同一であるため、FAM83Hの皮膚等での機能を解明すれば、歯のエナメル質形成におけるFAM83Hの機能の理解にも繋がると考えている。先ずは、ホモ接合型のFAM83H遺伝子改変マウスの皮膚等を組織学的に詳細に解析することで、表現型を明確化し、その後、分子レベルでの表現型解析を進める予定である。
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Causes of Carryover |
当初計画では、本年度、抗体の購入費用として80万円を計画していたが、試供品等での条件検討が可能であったため、大幅に抗体購入費用を削減することができた。次年度に繰り越した金額は、FAM83H遺伝子改変マウスの移送費用等に当てる。平成29年度までは、FAM83H遺伝子改変マウスを医薬基盤・健康・栄養研究所(分担研究所属機関)のみで飼育していた。平成30年度以降は、摂南大学(研究代表者所属機関)でもFAM83H遺伝子改変マウスの飼育を開始する。マウスの移送に当たり、マウスの運搬費、マウスの飼育・解剖に必要な器具・試薬の新規購入が必要であるため、これらに繰り越し金を充てる。
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