2018 Fiscal Year Research-status Report
うつ病におけるミトコンドリア変性タンパク質ストレスレスポンスの関与の解明
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17K08310
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Research Institution | Kagoshima University |
Principal Investigator |
神戸 悠輝 鹿児島大学, 医歯学域医学系, 講師 (60549913)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
宮田 篤郎 鹿児島大学, 医歯学域医学系, 教授 (60183969)
栗原 崇 鹿児島大学, 医歯学域医学系, 准教授 (60282745)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | うつ病 / うつ病モデルマウス / UPRmt / ATF5 / ΔOTC |
Outline of Annual Research Achievements |
慢性拘束ストレスを負荷したうつ病モデルマウスから回収した全脳標品において,ミトコンドリア変性タンパク質ストレスが惹起されており,ミトコンドリア変性タンパク質ストレスレスポンス (UPRmt) のマーカータンパク質発現が有意に増加するとともに,うつ病モデルマウスの鬱様行動である尾懸垂試験の無動時間と正の相関を示すことを明らかにした.そこで,いずれの脳内部位においてUPRmtが惹起されているかを検討する目的で,うつ病に関連があるとされる脳内部位である内側前頭前皮質 (mPFC),側坐核および海馬を正常マウスおよびうつ病モデルマウスから回収し,UPRmtに関連する因子の発現量を検討すると,mPFCにおいて増加傾向があることが解った.近年,UPRmtのマスターレギュレータとしてactivating transcription factor 5 (ATF5) が同定された.一方で,UPRmtはミトコンドリア内に変性タンパク質が蓄積することで惹起されると考えられるが,ミトコンドリアマトリックスに発現するタンパク質であるオルニチントランスカルバミラーゼの一部欠損体 (ΔOTC) の過剰発現はUPRmtを惹起することが報告されている.そこで,ATF5とΔOTCを発現させるためにアデノ随伴ウイルス血清型5 (AAV5) を調製し,全脳における発現を達成させる為に,p1新生仔の脳室内にマイクロインジェクションした.しかしながら,AAV5では新生仔において十分な発現を得ることが出来なかった.この不十分な感染効率はAAVの血清型が影響していると考えられることから,ATF5およびΔOTCをパッケージするAAVの血清型を9およびPHP-eBに変更し現在AAVを調製中である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は,慢性拘束ストレスを負荷することによって影響を受け,うつ病様症状を惹起する可能性のある脳部位がある程度判明した.成熟マウスの脳では既存のAAV5によって非常に効率的に遺伝子導入が可能であることから,mPFC特異的にATF5およびΔOTCを発現するAAVを感染させることで,UPRmtを惹起させ,UPRmtとうつ病様行動の関連性を評価できるようになった. 一方で,mPFCでは慢性拘束ストレスに伴ってUPRmtが惹起される傾向にあるものの,側坐核および海馬においてはmPFCほどの強いUPRmtは観察されなかった.しかし,全脳標品ではmPFCで惹起されたUPRmtは希釈されると考えられるが,依然として強いUPRmtが観察される事実は,これらの脳部位以外でのUPRmtの関与が推察されるため,全脳においてUPRmtを誘導することが必須である.前年度において,血清型5のAAVは感染効率が低かったものの,ある程度の細胞において遺伝子の導入が確認できたことから,未成熟な脳においてより感染効率が高い血清型9およびPHP-eBにおいて実験系がワークする可能性は高い.さらに,血清型9のAAVはすでに他の遺伝子を用いて作成に成功していることから,すぐにでも血清型をかえたAAVを作成し実験に供することができる. また,うつ病にはモノアミン系の神経系が重要な役割を果たすことが知られている.この事から,UPRmtがモノアミン神経に与える影響を今後評価する必要がある.そこで,昨年度,AAVの感染とマイクロダイアリシスを同時に行う実験系を確立した. 以上の理由から概ね順調に進展しているとした.
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度,慢性拘束ストレスによるうつ病モデルマウスのmPFCにおいてUPRmtが惹起される傾向を見出した.そこで,さらにmPFCのサンプルを集め,mPFCにおけるUPRmtの誘導を確実にする.一方で,mPFC,側坐核および海馬以外の脳領域においてもUPRmtが引き起こされている可能性も推察されるため,獲得する脳領域を拡張し,視床下部,線条体,縫線核,青斑核および腹側被蓋野なども視野にいれ,それら脳領域におけるUPRmt関連遺伝子の発現を測定する.さらに,mPFCおよびその他のUPRmtが誘導された脳領域にATF5あるいはΔOTCを発現するAAV5を感染させ,強制的にUPRmtを惹起し,強制水泳試験および尾懸垂試験によりうつ様行動を,オープンフィールド試験および高架式十字迷路試験によって不安様行動を評価する. さらに,全脳領域でATF5およびΔOTCを発現させUPRmtを誘導するために,ATF5あるいはΔOTCをAAVの血清型9あるいはPRP-eBにパッケージングする.調製したAAVはp1新生仔マウスの脳室内にマイクロインジェクションし,8週間後以降に前述と同様の方法でうつ様行動および不安様行動を評価する. これらのミトコンドリアのストレスレスポンスを介したうつ様症状の発症は,既存の抗うつ薬がターゲットとするモノアミンとは別の病因の可能性がある.実際にうつ病患者の3分の1は既存の抗うつ薬に耐性なことが報告されている.そこで,ATF5あるいはΔOTCを発現させたマウスのUPRmtを介したうつ様行動に,モノアミンが関与するかを検討するために,mPFCにマイクロダイアリシスプローブを刺入し,正常時およびストレス負荷時における細胞外液中モノアミン濃度を測定するとともに,うつ様行動におけるフルオキセチンやアミトリプチリンの作用を検討する.
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Causes of Carryover |
当該年度は国際学会のサテライトシンポジウムの事務局長を2度拝命し,学会の準備の為にあまり実験を行うことが出来なかった.今年度の予算は,年間を通してマウス購入および飼養経費,マイクロダイアリシスの消耗品費,AAV調製消耗品費,RNA回収用試薬,リアルタイムPCR用試薬およびその他の消耗品費に充当する予定である.
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Research Products
(7 results)