2019 Fiscal Year Research-status Report
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17K08321
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Research Institution | Meijo University |
Principal Investigator |
平松 正行 名城大学, 薬学部, 教授 (10189863)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
衣斐 大祐 名城大学, 薬学部, 准教授 (40757514)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ベタイン / トリメチルグリシン / アルツハイマー病 / ADモデルマウス / BGT-1 (GAT2) / βアミロイドタンパク質 / ホモシステイン / 高ホモシスチン尿症 |
Outline of Annual Research Achievements |
アルツハイマー型認知症(AD)患者では、脳内において産生されるアミロイドβ(Aβ)タンパク質の凝集・沈着による老人斑、およびリン酸化tauタンパク質の蓄積により引き起こされる神経原線維変化などにより、神経細胞死が引き起こされる。しかし、現在、ADの根本的な治療薬はないため、認知機能障害の予防など、発症を遅らせる予防的対策が求められている。 ベタイン(トリメチルグリシン)は、哺乳類の体内でメチル基供与体として、ホモシステイン(Hcy)をメチオニンに転換する基質として働いており、高ホモシスチン尿症の治療薬として承認されている。我々は、これまでに高ホモシスチン尿症モデルマウスおよびAβ脳室内投与モデルマウスで認められる記憶障害が、ベタイン投与により抑制されることを報告している(Kunisawa et al., Behav Brain Res 2015; Ibi et al., Eur J Pharmacol 2019)。さらに、この作用には、GABAトランスポーターの1つであり、ベタインに親和性があるbetaine/GABA transporter-1(BGT-1、GAT2)が重要な役割を果たしていることを見出した。本研究では、Aβの凝集・沈着、およびリン酸化tauタンパク質の蓄積が確認されている家族性ADモデルマウス(3xTgマウス: Oddo et al., Neuron 2003)を用いて、ベタインが3xTgマウスの記憶障害発現を抑制するかどうかを調べ、さらにそのメカニズムについても検討した。 その結果、マウスおよび培養細胞を用いたADモデルの確立に成功し、さらにそれらモデルにおけるベタインのAD様症状の予防作用の一部を、分子生物学的および細胞培養レベルで明らかにすることが出来た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究では3、6および9ヶ月齢の野生型(wild-type, WT)マウスと、3xTgマウスの認知機能を、Y字型迷路試験および新奇物体認知試験で調べたところ、3xTgマウスにおいて、認知機能障害が顕在化してくるのが9ヶ月齢以降であるということを明らかにした。そこで6ヶ月齢時から3ヶ月間ベタインの連続飲水を行ったところ、9ヶ月齢時の3xTgマウスで認められた認知機能障害が認められなかった。このことから、ベタインの連続飲水は、3xTgマウスにおける認知機能障害の発現を抑制することが分った。次に、6か月齢から3か月間、ベタインを慢性的に摂取させた3xTgマウスの海馬における遺伝子発現を調べたところ、シナプスの形成・機能に関わる遺伝子、Cacng2やPSD95、抗酸化ストレスに関わる遺伝子、superoxide dismutase 2(SOD2)の発現が、WTマウスと比較して有意に低下していることが分かった。これらの遺伝子変化は、ベタインの慢性的な摂取によりWTマウスのレベルまで抑制されたことから、ベタインの効果発現に関与している可能性を示唆した。 次に、Aβによるマウス神経芽細胞腫由来Neuro2A細胞の細胞毒性に対するベタインの作用を調べたところ、ベタインの前処置はAβ処置による細胞死を抑制した。さらに、ベタインに蛍光標識(FAM)を付けてNeuro2A細胞に処置したところ、ベタインは細胞に取り込まれた後、特に核に集積することが明らかとなった。 以上のように、2019年度は、マウスおよび培養細胞を用いたADモデルの確立に成功し、さらにそれらモデルにおけるベタインのAD様症状の予防作用を明らかにすることが出来た。 実験計画を一部変更したこと、新型コロナウィルスの拡大に伴い参加予定であった複数の学会が中止となったことも進捗がやや遅れている要因の1つである。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究は、以下の実験計画①および②に従い遂行する。 ≪実験計画① GAT2過剰発現またはノックダウンが脳機能に与える影響≫ 我々は既にAβ処置により海馬錐体神経細胞およびNeuro2A培養細胞において、GAT2が発現誘導されることを明らかにしている(未発表データ)。GAT2が神経細胞・脳機能に与える影響を調べるために、アデノ随伴ウィルス(AAV)を利用し、海馬の錐体細胞においてGAT2の過剰発現(AAV-GAT2)またはshRNAによるノックダウン(KD)(AAV-GAT2 shRNA)を行う。AAV-GAT2またはAAV-GAT2 shRNAをAβ脳室内投与マウス、および3×Tgマウスの海馬に微量注入した後、行動薬理学的解析により認知機能を調べる。さらに、AAV感染細胞におけるアポトーシスマーカーのTUNEL染色を行うことで、Aβ投与や3×Tgによる神経毒性およびベタイン投与による神経保護作用におけるGAT2の役割を明らかにする。 ≪実験計画② ベタインの脳内分布との調査≫ 蛍光低分子物質のFAMで標識したベタイン(FAM-ベタイン)をマウスに投与後、脳を薄切し、FAM-ベタインの脳内分布を組織学的に評価する。さらに、実験計画①で用いるAAV-GAT2またはAAV-GAT2 shRNAを利用して、GAT2発現レベルがベタインの細胞内取り込みに与える影響についてマウス脳を用いて調べる。加えて、その際のHcy量を調べることで、「GAT2発現」、「ベタインの細胞内取り込み」、「Hcy代謝」の関係性を明らかにする。さらに、Aβ投与マウスや3×Tgマウスを用いて同様の試験を行い、「認知機能」との関係も明らかにする。 以上、ベタインの認知機能障害に対する予防効果の分子機構が解明されれば、AD予防薬としての開発が進み、さらにGAT2を標的としたAD予防・治療薬開発の加速が期待される。
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Causes of Carryover |
実験計画を一部変更したため、2020年度の使用が生じた主な理由である。加えて、新型コロナウィルスの拡大に伴い参加予定であった複数の学会が中止となったことも予算の一部を次年度に繰り越した要因の1つである。 蛍光低分子物質のFAMで標識したベタイン(FAM-ベタイン)をマウスに投与後、脳を薄切し、FAM-ベタインの脳内分布を組織学的に評価する。さらに、AAV-GAT2またはAAV-GAT2 shRNAを利用して、GAT2発現レベルがベタインの細胞内取り込みに与える影響についてマウス脳を用いて調べる。加えて、その際のHcy量を調べることで、「GAT2発現」、「ベタインの細胞内取り込み」、「Hcy代謝」の関係性が明らかとなる。さらに、Aβ投与マウスや3×Tgマウスを用いて同様の試験を行い、「認知機能」との関係も明らかとする予定である。
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