2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
17K08386
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Research Institution | National Institute of Infectious Diseases |
Principal Investigator |
鈴木 忠樹 国立感染症研究所, 感染病理部, 室長 (30527180)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 分泌型IgA抗体 / 四量体分泌型IgA抗体 / 抗体医薬 |
Outline of Annual Research Achievements |
生体内において最も産生量の多い抗体であるIgA抗体はインフルエンザ等の粘膜組織を標的とした感染症に対する生体防御の最前線防御因子として機能している。粘膜免疫の主要なプレーヤーであるIgA抗体の性状を理解することは基礎的な分子生物学研究の側面を持つだけでなく、新たなバイオ医薬品候補の研究としての側面を持ち抗体医薬という歴史と実績のあるバイオ医薬品の可能性をさらに大きく広げることが期待される。しかしながら、多量体SIgAを医薬品として開発するためには分子性状の詳細な理解が不可欠であり、作製技術開発だけでなく多量体形成機構に関する分子レベルの基礎的知見を積み上げることが必要である。また、SIgA抗体の最も大きな特徴である多量体形成機構を解明することは、抗体というタンパク質の持つ特性の新たな側面を明らかにすることであり、医薬品開発だけでなく免疫学やタンパク質科学など基礎科学研究分野においても重要である。そこで、本研究では、サイズ排除クロマトグラフィー、表面プラズモン共鳴法、高分子量域質量分析計、X線結晶構造解析、高速AFM装置などの分析機器を使って四量体SIgAの分子構造を解析することにより四量体SIgA抗体の形成機構を明らかにすることを目的とする。本年度の研究では質量分析装置を用いた新規ヒトIgA定量分析法と多量体化によるインフルエンザウイルスHAに対する結合特性を表面プラズモン共鳴法を用いて評価する系を構築した。さらに、これらの系を有用性について哺乳類培養細胞系を用いたリコンビナントIgAと精製したヒト粘膜IgA試料を用いて評価した。今後、SIgA抗体の変異体を作成し、これらの解析系を用いて評価する事により四量体化に寄与する責任因子の同定を試みる予定である
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、バイオ医薬品の分析で用いられるサイズ排除クロマトグラフィー、表面プラズモン共鳴法、高分子量域質量分析計、X線結晶構造解析、高速AFM装置などを用いて四量体分泌型IgA抗体形成機構の解明を目指している。研究の進展には適切な分析系の構築が不可欠であるが、本年度の研究においては予定通り、分析系の構築が進んでおり、おおむね順調に進展していると考えられる。今年度の研究では、構築した分析系を評価するために経鼻インフルエンザワクチン接種後の健康成人から採取した鼻腔洗浄液を用いてヒト粘膜抗体性状をサイズ排除クロマトグラフィーと質量分析装置によるヒトIgA定量分析法、高分子量域質量分析計、Surface Plasmon resonance (SPR)を用いて解析した。被験者の鼻腔洗浄液検体から精製したIgAをサイズ排除クロマトグラフィーにより分画することにより抗体の高次構造毎に分取し、各分画に含まれる抗体について分析を行った。その結果、それぞれの分析系の有用性を確認するとともに、鼻腔粘膜に存在する多量体 IgAの比率が鼻腔洗浄液検体の中和価と正の相関を示し、ウイルス中和において主要な役割を担っていることを明らかにすることに成功した。このことから本成果は抗体医薬の開発だけでなく、現在既に開発が進んでいる経鼻インフルエンザワクチンにおいてワクチン有効性を評価する方法にも応用可能であると考えられた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究での最も大きな挑戦はX線結晶構造解析による四量体分泌型IgA抗体の原子レベルでの高次構造の解明である。本年度までに構築した分析系を使って各種変異体の解析とともに結晶構造解析に必要となる材料の用意を開始する。抗体は可変領域の可動性が高く、分子全体での結晶化は困難であると考えられる事から、可変領域を取り除き定常領域のみにした四量体型IgA抗体の合成を試みていく予定である。さらに高速AFMによるモノクローナル四量体SIgA抗体の1分子動態解析についても研究を進める予定である。抗体の抗原認識部位であるFabと定常領域であるFcを繋ぐ部位は可塑性に富んでいるが、特にIgA抗体は多量体化することにより、その分子形状はダイナミックに変化していると考えられていた。実際、高速AFMで観察すると多量体IgA抗体は多様な形状をしており、溶液中で大きく形状を変化させていることが分かる。このIgA抗体の動的ダイナミクスはであり、抗体の標的抗原を効率良く捕捉するという機能に寄与していると考えられることから、この動態を定量的に評価することは、抗体分子機能の評価に繋がる可能性が考えられる。そこで、4つの異なるサブタイプ、アロタイプの四量体SIgA抗体の溶液中における分子動態を高速AFMで定量することを試み、各サブタイプ、アロタイプの機能の差について解析する。また、使用する抗体はインフルエンザに対する中和活性を有しているので得られた分子動態と抗体機能の関係性について検討する。
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Causes of Carryover |
(理由) 年度末納品等にかかる支払いが平成30年4月1日以降となったため、当該支出分については次年度の実支出額に計上予定。平成29年度分についてはほぼ使用済みである。 (使用計画) 上記のとおり。
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