2017 Fiscal Year Research-status Report
薬剤師の行動心理に基づく調剤エラーのメカニズム解明と実臨床への応用
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17K08447
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
辻 敏和 九州大学, 大学病院, 副薬剤部長 (80791748)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 調剤エラー / 発生タイミング / 発生場所 / 患者への危険性 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度の研究では、調剤者により不適切に集薬されたものを「調剤エラー」、その後鑑査者により見逃されたエラーの中で軽度以上の患者障害に至ったものを「インシデント(レベル2以上)」とし、平成18年度からの9年間で入院内用薬処方において発生したこれらのエラー(薬名間違い、規格間違い、計数間違い)について調査を行った。 先ず、調剤用処方箋(以下、調剤箋)に基づく調剤手順は、プロセス①(薬名の認識)→プロセス②(配置エリアへの移動)→プロセス③(エリアの絞り込み)→プロセス④(配置ポイントの特定)→プロセス⑤(計数の確認)となる。ここで、当院のような薬効別の棚番配置とする施設では、「異なる薬効」を有する調剤エラーは目的の配置ポイントとは異なるエリアで発生しているため、その調剤エラーの発生タイミングはプロセス①(薬名の認識)の段階である。一方、「計数間違い」の調剤エラーは、目的と一致した配置ポイントで発生しており、そのタイミングはプロセス⑤(計数の確認)の段階と考えられる。本研究では、調剤エラーの発生場所(発生タイミング)としての観点から、調剤エラーを「異所(序盤)エラー、同所(中盤)エラー、一致(終盤)エラー」の3クラスに分類し、それらが後に患者への障害発生に至った割合(レベル2以上/調剤エラー)を危険性の指標として解析した。 その結果、「序盤(異所)エラー」、「中盤(同所)エラー」、「終盤(一致)エラー」の調剤エラー件数はそれぞれ258件、900件、2839件であり、これらの調剤エラーが後に患者への障害発生に至った割合はそれぞれ1.16%、0.56%、0%であった。つまり、調剤プロセスの早いタイミング(異なる配置エリア)で発生した調剤エラーである程、その後の患者への危険性が高くなることが示され、調剤エラーの発生タイミングとその後の危険性との関係を明らかにすることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度の進捗状況としては概ね順調に進行しており、成果報告としても平成30年3月に開催された日本薬学会第138回年会にて「調剤エラーの発生メカニズムと患者への危険性との関係」のタイトルで口頭発表を行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度の研究では、薬剤師の調剤時における視線動向を検証することで、調剤エラーの発生メカニズムを解析する。 その方法としては、薬剤師が調剤箋上の薬名確認の瞬間から目的の配置ポイントに手を伸ばすまでの間に発生する「注視点の回数」や「視線の移動距離」などを、アイトラッキングの原理に基づいて検証する。アイトラッキングとは、心理学、認知科学、マーケティングなどの研究分野でも活用されており、赤外線の角膜反射探知により「視線の動き」を追跡する手法である。本研究では、調剤者への装着が可能なメガネ型のアイトラッキング機種を用いる。 先ず、当院採用の複数規格を有する薬剤(以下、類似薬)の50品目を対象として、模擬的な薬剤配置画像を作成する。次に、当院の調剤箋レイアウトに基づいて「薬名(何を)、棚番(何処で)、総量(何錠)」などの調剤情報を表示した模擬調剤箋を作成する。これらの薬剤配置画像と模擬調剤箋を1つの画面(等身大スクリーン)の上下に投影することにより、薬剤師の「調剤箋上の薬剤認識~配置ポイントに手を伸ばす」までの一連の調剤プロセスでの視線動向を模擬的に検証することができる。なお、対象薬剤師は調剤経験が2年以上の10名を予定している。 本研究では、上記類似薬を斜め・左右での隣接配置や調剤棚の左エリア・右エリアに寄せた配置における薬剤師の調剤時の視線動向を検証することで、類似薬の配置方法が調剤時の注視点回数や視線移動距離にどのような影響を与えるのかを解析する。
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Causes of Carryover |
平成29年度の研究では、人件費・謝金が発生しておらず、物品費等も予定ほどの使用額ではなかったが、平成30年度に予定しているアイトラッキングでの検証では、初年度以上の研究費が必要になることが想定される。
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