2018 Fiscal Year Research-status Report
陰性荷電当透析膜を用い吸着特性を利用した中毒治療への応用と予測
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17K08450
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
平田 純生 熊本大学, 熊本大学大学院生命科学研究部・薬学部臨床薬理学分野, 教授 (10432999)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 薬物吸着 / AN69 / 血液透析 / 陰性荷電薬物 / ビグアナイド薬 / アミノグリコシド系抗菌薬 |
Outline of Annual Research Achievements |
AN69ST膜(アクリロニトリル-メタリルスルホン酸ナトリウム共重合体)はスルホン酸基に由来する強い陰性荷電を有する血液透析膜であり、敗血症時におけるサイトカイン吸着などに用いられる一方、血液pHで陽性に荷電する薬物を吸着する性質を有する。これまでに当研究室ではAN69ST膜に対する薬物吸着性の検討を行ってきたが、同じ陽性荷電を有する薬物でもAN69ST膜への吸着性には差異が認められた(ナファモスタット: 92.8% vs. メトホルミン: 4.2%)。そのためAN69ST膜への薬物吸着性を判断する上で陽性荷電性以外の因子を考慮する必要性が示唆され、今回、薬物吸着に関わる相互作用の観点から薬物疎水性に着目した。AN69ST膜に対する薬物吸着には透析膜-薬物間の静電相互作用以外に薬物‐溶媒間相互作用が働いており、疎水性の高い薬物では後者の影響が小さくなるため吸着性が高くなることが予測される。そこで本研究では疎水性の異なる陽性荷電薬物を用いてAN69ST膜の薬物吸着能に対する薬物疎水性の影響を評価した。 AN69膜による薬物吸着除去に対する薬物疎水性の影響を評価することを目的とし疎水性の異なる3種類のビグアナイド系薬物を用いてAN69膜への吸着性を比較検討したところ、3種のビグアナイド系薬物は同等の陽性荷電性を有しているにもかかわらずAN69膜への吸着性には差異が認められ、フェンホルミンはメトホルミン、ブホルミンよりも吸着性が高かった。原因として、フェンホルミンは薬物疎水性が最も高く、薬物-溶媒間相互作用の影響が小さかったことが考えられる。これより、AN69膜による薬物吸着には陽性荷電性以外にも薬物疎水性が影響していることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ビグアナイド系薬物に関して,各薬物のAN69ST膜への吸着性を非荷電膜であるpolysulfone (PS) 膜を使用した場合と比較したところ,フェンホルミンのみがAN69ST膜使用時に有意な濃度低下を認めた.また薬物初期濃度200~20,000 µMにおける各薬物の吸着等温線を作成し,臨床的濃度域 (低濃度域) における吸着等温線の傾きよりAN69ST膜への吸着性を比較したところ,フェンホルミン,ブホルミン,メトホルミンの順に吸着性が高かった.以上の結果から,同じく陽性に荷電している薬物でも,薬物疎水性が低いものはAN69ST膜への吸着性が低く,一方で薬物疎水性が高いものはAN69ST膜への吸着性が高くなることが示された. 他の薬物種においても同様の傾向が認められるかを確認するため、アミノグリコシド系抗菌薬であるストレプトマイシン(log P: -7.7)、ゲンタマイシン(log P: -3.1)のAN69ST膜への吸着性を評価した。薬物初期濃度を50 µMとし評価したところ、ゲンタマイシンはストレプトマイシンよりもAN69ST膜への吸着率が有意に高かった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はゲンタマイシン以外のアミノグリコシド系抗菌薬であるストレプトマイシン、アルベカシン、アミカシン、トブラマイシンなどのAN69膜に対する吸着性の評価・PS膜と比較および各種アミノグリコシド系抗菌薬の構造の関係について明らかにする。また、希薄溶液における吸着等温線を比較し、AN69膜への吸着性と相関の高い薬物疎水性パラメータを探索する。AN69ST膜は陽性荷電薬物の優れた吸着能を有する血液浄化膜であるが,薬物吸着能を予測するにあたり血液pHで同じように陽性に荷電する薬物でも吸着性に差異が認められるという課題が存在していた.この差異が生じる原因を薬物吸着に関わる相互作用の観点から探求し,AN69ST膜の薬物吸着能には薬物の陽性荷電性の他に薬物疎水性が影響していることを初めて見出した重要な知見であると考えられる.今後も更なる検討を要するが,AN69ST膜の薬物吸着能を判断する上で,薬物の陽性荷電性に加え薬物疎水性の影響を考慮することで,吸着性未知な薬物の吸着除去可能性の予測や透析施行時の血中濃度推移の予測などの一助となることが期待される.
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