2019 Fiscal Year Research-status Report
Histological analysis of novel transforming mechanisms in adipocytes
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17K08508
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
中野 知之 山形大学, 医学部, 准教授 (00333948)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 脂肪細胞 / 褐色化 / 体温 / ジアシルグリセロールキナーゼ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、ジアシルグリセロールキナーゼ(DGK)に注目した脂肪細胞の新規形質転換機構解明を目的としている。DGKの基質であるジアシルグリセロール(DG)は中性脂質合成の中間産物であり、かつ細胞内二次伝達物質としても機能する脂質である。研究代表者は、DGは脂質代謝と細胞内情報伝達系のハブであり、そのリン酸化酵素であるDGKは脂質代謝と細胞内情報伝達系の両方を調節すると考えている。これまでに、ε型DGK(DGKε)-KOマウスを高脂肪食(HFD)で給餌すると早期に内臓脂肪での脂肪沈着が亢進し、肥満および耐糖能異常が生じることを報告した(科研費#26460265、Nakano et al. 2018)。当該プロジェクトを遂行する過程で、長期間のHFD給餌により、内臓脂肪に褐色脂肪様細胞が出現することを見出した。このDGKε欠損条件下で生じる「褐色化」のメカニズムに着目して、本研究プロジェクトを立案した。褐色化は、高エネルギー摂取や寒冷暴露によって惹起される。本研究プロジェクトでは、まず、180日のHFD給餌条件で解析を行った。HFD給餌40日で増悪したDGKε-KOマウスの耐糖能は、長期間のHFD給餌によって改善され、cyclooxygenase-2依存的に褐色化が生じることを明らかし、発表した(第65回日本解剖学会地方会学会、Keystone symposia, Nakano et al. 2020)。次に「寒冷暴露による褐色化機構」に着目し、野生型およびDGKε-KOマウスを室温(22℃)および4℃で2週間飼育する実験を行った。その結果、寒冷暴露により、DGKε-KOマウスでは皮下脂肪においても褐色脂肪様細胞が増加することが明らかとなり、学会で発表した(第125回日本解剖学会総会)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の研究計画最終年度であった令和元年度は、前年度から引き続き寒冷暴露条件下におけるDGKε-KOマウスの表現型解析に従事した。6-8週齢の雄野生型およびDGKε-KOマウスを室温(22℃)および4℃で14日間飼育する実験を行った。その結果、DGKε-KOマウスの皮下白色脂肪組織では、4℃、22℃ともに多胞性脂肪滴を有する細胞が野生型よりも多数確認された。熱産生に中心的な役割を果たす褐色脂肪組織においては、DGKε-KOマウスでは野生型よりもエオシン好性が高いことが明らかとなり、同組織において活発な熱産生が行われていることが示唆された。しかしながら、直腸温に関しては両マウスの間に大きな差は認められなかった。一方、精巣上体周囲白色脂肪組織(内臓脂肪)では大きな変化は検出されなかった。当初の実験計画は順調に推移しているが、近年、22℃の室温環境はマウスにとっては“中等度の寒冷”環境であるとの報告されている。本プロジェクトにおいても、コントロール条件である22℃の飼育環境で、DGKε-KOマウスの皮下脂肪では褐色化が進行していたことから、追加実験として中性温度条件である30℃でマウスを飼育する必要が生じ、現在解析を行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
研究延長期間となる令和2年度は、寒冷暴露モデルの追加実験を行う。新たな実験系として、マウスを30℃(中性温度環境)で14日間飼育した後に、4℃環境で14日間飼育する。コントロール条件としては、30℃で28日間飼育する。22℃はマウスにとっては中等度の寒冷刺激であることが報告されており、前年度までに得た22℃のデータと合わせ、以下のデータを解析する。①体重変化、②体温変化、③血糖や血中脂質の変化、④各種脂肪組織の形態学的変化、⑤関連タンパクの発現変化。さらにin vitroの実験系として、野生型およびDGKε-KOマウスの皮下白色脂肪組織および褐色脂肪組織から単離したstromal-vascular cells (SVCs)と呼ばれる脂肪前駆細胞をβ3アドレノレセプター刺激剤存在下で培養する。これらの細胞から得たタンパクを用いて、ウェスタンブロット解析および各種特異抗体を用いた免疫細胞化学解析を施行して、脂肪細胞の形質変換を惹起するメカニズムの詳細を明らかにする。
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Causes of Carryover |
寒冷暴露の実験系に関して、野生型およびDGKε-KOマウスを4℃環境で2週間飼育し、室温(22℃)での飼育をコントロール条件として用いてきた。しかし 近年の論文によると、22℃はマウスにとって、”中等度の寒冷環境”( Shao M et al. 2019, Diabetes, 68:1874-1885.)であり、30℃での中性温度環境(thermoneutral condition)が望ましいことが記載されている。よって本研究においても中性温度環境をコントロール条件としたデータが必要と考え、研究期間の延長を申請し、受理された。令和2年度は、30℃で2週間飼育の後に4℃で2週間飼育する実験系でこれまでと同様の実験を行う。このコントロール条件としては30℃で4週間マウスを飼育する。経費の用途としては、これまで同様マウス飼育に係る料金や抗体などの消耗品を予定している。
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