2017 Fiscal Year Research-status Report
iPSC由来心筋細胞を用いた心機能と病態に関与する新規遺伝子の探索と機能解析
Project/Area Number |
17K08551
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Research Institution | Osaka Medical College |
Principal Investigator |
若林 繁夫 大阪医科大学, 医学部, 非常勤講師 (70158583)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | iPS細胞 / 心筋細胞分化 / ゲノム編集 / 心筋収縮 / 遺伝子発現 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、人工多能性幹細胞(iPS細胞)にゲノム編集(CRISPR/Cas9)技術を適用し、特定の遺伝子をノックダウン(KD)あるいは逆に高発現したうえで、心筋細胞に分化誘導させ、機能解析を行うことにより、機能未知の遺伝子の新しい機能を発見することを目的とするものである。まず、私達がこれまで扱ってきた機能既知の遺伝子について調べ、この系がうまく動くかどうかを検討したのちに、新しい機能未知の遺伝子へと研究を進める予定である。初年度は、細胞内pHとNa+濃度の調節を担う膜蛋白質Na+/H+交換輸送体(NHE1)、および心筋に多く発現するCa2+結合蛋白質CHP3(別名tescalcin)について、CRISPR interference (CRISPRi)を用いて遺伝子発現のノックダウンを行った。それぞれの遺伝子について、転写開始点(TSS)近傍で4種類のsingle guide RNA (sgRNA)を設計し、dCas9を組み込んだヒトiPS細胞にトランスフェクトした。複数個の細胞クローンをピックアップしたところ、NHE1、CHP3遺伝子において、これらの遺伝子発現を95%以上消失させることができた。また、これらの遺伝子をCAGプロモータ制御下で高発現するiPS細胞も作成した。これらの細胞をDoxycycline存在下および非存在下でGSK3beta阻害剤、Wnt阻害剤を用いたプロトコール(GiWi法)に従って心筋分化を試みた結果、CHP3をノックダウンすると心筋分化効率が抑制され、この遺伝子が心筋分化に関わる可能性が示唆された。また、NHE1を高発現するとiPS細胞は48時間以内にすべて死滅した。おそらくiPS細胞は細胞内Na+濃度やpHの変化に敏感な性質を有すると思われた(第110回近畿生理談話会、2017年Conbio生命科学系合同年会で発表)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2017年度は、機能未知の遺伝子を扱う前に、これまで研究してきた経験のある遺伝子についてヒトiPS細胞において遺伝子改変を行い、心筋細胞に分化させてその機能を調べる研究を開始した。その過程で、i)CHP3をノックダウンすると心筋分化が抑制され、自動拍動する心筋は得られない。ii)NHE1を高発現するとiPS細胞は死滅してしまう、という二つの予期しない現象が起こった。このような結果は研究の進展を妨げる一方で、場合によっては研究の新たな進展が見込める可能性もあるので、それらの現象について調べた。1)CHP3をノックダウンすると、心筋マーカー転写因子、心筋細胞TnT、NCX1の発現低下が観察された。また、自動拍動は観察されなかった。この研究は“心筋分化効率”というフェノタイプを用いて、CHP3遺伝子の新たな機能をさぐる方策になると期待される。2)NHE1をヒトiPS細胞にて高発現すると、48時間以内に細胞はすべて死滅した。興味深いことに、心筋分化プロトコール二日目(中内胚葉系細胞)でNHE1を高発現した場合には細胞は死滅することはないので、未分化なiPS細胞特有の現象であることがわかった。このような研究は未分化なiPS細胞を容易に死滅させる方法論の開発につながる可能性がある。これらの予期せぬ、しかし大変興味深い現象に遭遇したために、当初予定していた研究計画からは若干逸脱することになったため、進捗状況としては、“やや遅れている”と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
2018年度以降も、ヒトiPS細胞からの心筋分化系を用いた遺伝子の機能解析を進める。まず第一に、2017年度に遭遇した予期せぬ現象、i)CHP3のノックダウンで、なぜ心筋分化効率が減少するのか、ii)iPS細胞にNHE1を高発現したらなぜ細胞死が起こるのか、についてさらなる研究を進め、何らかの落としどころを見つけ、研究発表につなげたい。NHE1に関しては、i)心筋細胞肥大シグナルとの関係、ii)心筋細胞の収縮制御との関係についてさらに調べるつもりである。中内胚葉細胞の時期からNHE1を高発現し始めると、細胞は死なずに心筋細胞に分化することを確かめたので、方法論的には問題ないと思われる。これらの実験の過程で、必要であれば、他の関係する遺伝子のノックダウンをCRISPRiを用いて随時進めるつもりである。これらの研究と並行して、2018年度の後半には機能が未知の遺伝子について、結合蛋白質の同定を含む、同様な方法論を用いて機能解析を行う。
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Causes of Carryover |
3年間継続する研究の1年目であり、予備実験的な研究に予算を使用しており、2年目以降により多くの予算が必要であると考えられたから。
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Research Products
(3 results)