2017 Fiscal Year Research-status Report
微小磁場環境下における細胞酸化ストレス抑制と細胞骨格縮小のメカニズム解明
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17K08563
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
宮田 英威 東北大学, 理学研究科, 准教授 (90229865)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 微小磁場 / 地磁気 / マクロファージ |
Outline of Annual Research Achievements |
地磁気(GMF)が減弱して生じる磁場を微小磁場(Hypo-Magnetic Field;HMF)と呼ぶ。減弱の原因としては建造物の鉄筋による磁場吸収がある。HMFが細胞生理に影響することを示す研究はここ10年くらいで徐々に増加しており、またHMF中ではすべての磁気モーメントの歳差運動が抑制されるため、生体中の化学反応ネットワークに対してHMFは広く影響するという理論的研究の結果も示されている。私はこれまでに強度0.5ミリテスラの50ヘルツ磁場がDNA鎖切断確率を上昇させること、熱ショック蛋白質やスーパーオキシドアニオン産生を増加させること、ミトコンドリア膜電位を低下させることなどを示してきた。しかし実験は、50ヘルツ磁場に加えて50マイクロテスラGMFが背景磁場として存在する条件で行わざるを得ず、50ヘルツ磁場を(ヒトへの影響が現れるとされている)1マイクロテスラ程度まで弱める実験はできなかった。私は、HMFが細胞生理学的な影響を与えるという先行研究の結果に着目し、もし研究室においてHMFが実現できれば、1マイクロテスラ程度まで弱めた50ヘルツ磁場の細胞生理学的指標への影響を解明できるのではないかと考えた。そこでまず、実験室におけるHMF条件を確立し、次にHMF中で免疫細胞であるマクロファージを対象として微弱磁場が与える影響を検討する実験を計画した。 以前使用していた細胞培養用のCO2恒温器をミューメタルで作った磁場シールドケースに格納し、その内部でメリットコイルを用いてGMFと同程度の強さの磁場を発生させ、マクロファージを培養した。GMF状態の細胞とHMF状態(~2マイクロテスラ)の細胞に対する比較測定を行った。実験の結果これまでに、HMF中ではGMF中に比べて、総細胞数が有意に減少し、またミトコンドリア膜電位が有意に低下することを見出している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初計画では29年度中に (1)実験装置立ち上げ (2)HMF中での細胞骨格と細胞接着の評価 (3)HMF中での細胞増殖評価 を行うこととなっていた。これらのうち(1)については達成している。(2)については、測定、解析の容易さならびにデータ取得に際して以前の経験が生かせるかどうかを総合的に考慮した結果、計画を変更して当初平成30年度以降に行う予定だったミトコンドリアに対するHMF影響の評価を先行させることとした。その場合に用いる評価の指標としてはミトコンドリア膜電位並びにミトコンドリアにおけるスーパーオキシドアニオン産生があり、当初計画ではミトコンドリアにおけるスーパーオキシドアニオン産生測定を先行させる予定だった。しかし、上述のように、以前の研究で実績のあったミトコンドリア膜電位測定を測定する方が予備実験を兼ねることもできると考え、これを先に行うこととした。その結果ミトコンドリア膜電位がHMF条件下で減少することが認められたため、さらにミトコンドリアにおけるスーパーオキシドアニオン産生に対するHMF影響も引き続き測定することにしている。細胞に対する磁場影響は一般に弱いため、実験は独立に3回ずつ行うなど、結果を確実にしつつ進まねばならない。またスーパーオキシドアニオンが細胞骨格制御にかかわっていることは先行研究で示されているため先にスーパーオキシドアニオンに対するHMF評価を行って結果を確立することは研究を進めるうえで望ましいと思われる。従って計画の進捗はやや遅れているものの、方針を変更したことには意味があったと考えている。(3)については細胞数測定を行った結果HMF中で減少することまで示した。ただし細胞数減少だけでは増殖が抑制された結果なのか、接着の減弱によるはがれの結果なのかは判断できないので目標の途中までの達成ということになる。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)ミトコンドリア内におけるスーパーオキシドアニオン産生に対するHMF影響の測定;できれば今年度前半終了までにめどをつけたい。 (2)上記(1)にめどがついた段階で研究実績概要にも述べられているように細胞骨格や接着に焦点を当てた研究を,現有の落射蛍光顕微鏡に冷却CCDカメラを装備した実験装置を用いて実施する。また、細胞増殖に対するHMF影響を合わせて検討することで、HMFによる細胞数減少が接着減弱を通じて見られたものか、増殖抑制の結果見られたものなのかを解明する。 (3)当初計画ではミトコンドリアにおけるスーパーオキシドアニオンを低減するためのスカベンジャーであるビタミンEを用いた場合のHMFの影響を検討することになっている。これもできるだけ速やかに始めたい。 (4)さらに、最終年度にかけて研究の動機となった50ヘルツ磁場をどこまで減少させてもその効果がみられるかについて検討を行う。 現在までの知見から、ミトコンドリア膜電位変化とスーパーオキシドアニオンは磁場と細胞の接点のように見える。先行研究で示されている細胞骨格変化や接着の減弱はこれらの下流にあるように思われる。本研究の結果をもとにしてこの考えの是非を明らかにしたい。
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Causes of Carryover |
進捗状況欄に記した通り、研究計画の個別のテーマに関して入れ替えが生じた。この結果、今年度中に終えるべきテーマの一部を次年度回しとし、逆に次年度のテーマを本年度から実施することとした。このため当初予定していた予算額に対して使用額がわずかではあるが少なくなった。
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Research Products
(2 results)