2018 Fiscal Year Research-status Report
次世代の育児行動に及ぼす胎児期/子宮内環境の解析:育児放棄の原因の解明とその回復
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17K08575
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Research Institution | Takasaki University of Health and Welfare |
Principal Investigator |
下川 哲昭 高崎健康福祉大学, 健康福祉学部, 教授 (90235680)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鯉淵 典之 群馬大学, 大学院医学系研究科, 教授 (80234681)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ネグレクト / プロラクチン / 育児行動 |
Outline of Annual Research Achievements |
膜受容体のエンドサイトーシスを制御するCIN85遺伝子を欠損したノックアウトマウスを作成した。このマウスは、多動性と育児放棄(ネグレクト)の表現型を示した。育児放棄については、妊娠・分娩後に正常な育児行動を発現するためには胎仔期に母親から適正な量のプロラクチン (prolactin, PRL:脳下垂体前葉ホルモンの一つ)に暴露されることが必要であることを明らかにした。 本年度は、このネグレクトが遺伝子変異のない正常なマウスでも起こりうることを示すために、マウス妊娠後期における母体PRLの動態と薬物によるPRL分泌低下に対する将来の育児行動への影響を解析した。妊娠17日目の午前8時から妊娠20日目の午前0時まで、4時間毎に母体血を採取し血漿PRL濃度をELISA法により測定した。妊娠19日目午前8時までそれまで低値だったPRL濃度は午後12時に高値を示しそれ以降分娩まで高値が維持された。 この妊娠19日目以降の血漿PRL濃度の上昇を抑えるため、高PRL血症の治療薬であるブロモクリプチン (bromocriptine) 200 μgを1日2回腹腔内へ投与した。母体の血漿PRL濃度の上昇は見られず低値のまま分娩した。この分娩によって生まれた新生仔を里親に育てさせた。成熟させ交配後、妊娠・分娩後の育児行動を観察した。その結果、生理食塩水を投与した対照群に比べブロモクリプチン投与の母親から生まれた仔等は有意に育児行動が抑制された。 以上の結果は、将来(次世代)の育児行動の発現には分娩直前の母体によるPRL surgeの胎仔側の受容が不可欠であり、ネグレクトはその機構の破綻によって起こることを示している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
CIN85遺伝子欠損マウスにおけるネグレクトは、CIN85遺伝子を欠損したことによる間接的な作用であり、母体のPRLと胎仔との直接的な関係性を示したものではなかった。今年度、遺伝的に正常なマウスに薬剤(ブロモクリプチン)を使って妊娠後期の血漿PRL濃度の減少させることでもネグレクトが誘発できたことは、生理学的に意味のあることであり育児放棄の現象を理解する上で大きな進展である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策として以下の2点に取り組む。 1. 育児行動の発現/育児放棄に関わる遺伝子のエピジェネティクス(epigenetics)機構の解析:ネグレクトマウス、プロラクチン投与したネグレクトマウスおよび正常マウスそれぞれの胎児脳における神経系の回路形成に関わる遺伝子プロファイルをDNA microarraysとサブトラクト法を組み合わせて網羅的に解析する。これによりネグレクトやネグレクトの回避に関わる遺伝子(群)の同定と発現機構が明らかになる。さらに、同定された遺伝子のDNAメチル化とヒストン修飾を解析し育児行動におけるエピジェネティクス機構を解析する。 2. 育児行動における「刺激」や「学習」の可能性:妊娠ネグレクトマウスと仔育てしている正常マウスを同じケージ内で飼育する。ネグレクト マウスは子育てするマウスから、子育ての様子を見て、仔の臭いを嗅ぎ、鳴き声を聞く。これらの刺激によってネグレクトマウスの母親自体と胎仔の内分泌および神経環境の変化(特に記憶に関係する海馬領域)と実際の育児行動を解析する。感覚器からの育仔刺激を学習することで育仔行動が発現されるか?を解析する。
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Causes of Carryover |
1. 複数購入予定であったキット類が単品で済んだこと。 2. 長期に研究補助を依頼する予定であったが、短期間で目的の実験が完了し謝金を減額できたこと。
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Research Products
(11 results)