2018 Fiscal Year Research-status Report
自己免疫寛容に必須な胸腺髄質上皮細胞へ分化決定する転写因子の同定と機能解析
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17K08622
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
秋山 伸子 国立研究開発法人理化学研究所, 生命医科学研究センター, 上級研究員 (60342739)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 胸腺髄質上皮細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
自己応答性T細胞を除去する機構の破綻は、自己免疫疾患の原因となる。胸腺の髄質に局在する上皮細胞(髄質上皮細胞)は、胸腺で分化した自己応答性T細胞を除去し、自己免疫疾患の発症を抑制する。申請者らは最近、髄質上皮細胞に分化する前駆細胞を同定した。しかしながら、髄質上皮細胞への分化は、その前段階で決定される。本研究課題は、髄質上皮の前駆細胞への分化を決定する新たなマスター制御転写因子の同定を目指している。 これまで行った髄質上皮前駆細胞の遺伝子発現解析により、前駆細胞を含めて髄質上皮細胞で特異的に発現する転写因子Xを得た。そこで髄質上皮細胞の分化決定における転写因子Xの役割を解明するために、まず、転写因子X欠損マウスを作製・解析し、髄質上皮細胞の分化における必要性を検証する。 我々はこの転写因子Xの欠損マウスを世界に先駆けて作成した。また、改変遺伝子は転写因子Xをコードする領域をβ-ガラクトシダーゼ(LacZ)遺伝子に置換し、β-ガラクトシダーゼ活性により転写因子Xを発現する細胞を検出可能とした。そこで、全身の各臓器における転写因子X の発現をβ-ガラクトシダーゼ活性および抗体により検出した。その結果、胸腺髄質において転写因子Xを発現する細胞が点在することが明らかとなった。また、胃、小腸、大腸、十二指腸を含む腸管上皮細胞および肺の上皮細胞に転写因子Xは高く発現していた。 さらに、Cre-Floxシステムを用いて胸腺上皮細胞特異的に転写因子Xを欠損するマウスを作出した。作製したFloxマウスを二系統のFoxn1-Cre マウスと交配し、胸腺上皮特異的X欠損マウスを得た。どちらのマウスも胸腺上皮細胞において転写因子Xの発現がないことを確認した。また、CAG-Cre マウスとの交配により、全身において転写因子Xを欠損するマウスも樹立した。今後、これらのマウスの表現型を検討する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在、順調にノックアウトマウスの解析を始めた。ただ、解析するマウスの数がまだ十分でない。 昨年度の研究代表者の異動に伴い、マウスの飼育場所が変わった。マウスは人工授精後個体復元を行い、新しい施設で交配を始めたが、仔育て中の母マウスが死亡するケースが相次いでいる。現在のところ原因は不明で、必要なマウスの生育が確保できていない。動物管理施設と話し合い、状況の改善に努めている。
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Strategy for Future Research Activity |
転写因子Xは一部の胸腺髄質上皮細胞で高く発現していた。もし、転写因子Xが髄質上皮細胞の分化決定因子である場合、作製した胸腺上皮特異的X欠損の胸腺で、髄質前駆細胞を含め髄質上皮細胞がほぼ消失すると予想した。そこで胸腺上皮特異的X欠損マウスについて以下の解析を行う。1) 胸腺上皮細胞の分化状態を解析する。胎仔期から成体期の欠損マウス由来の胸腺をコラゲナーゼにより単細胞としてフローサイトメーターで解析し、髄質上皮細胞の分化状態や細胞数を検討する。また胸腺の組織切片を作製し、髄質上皮細胞の減少や局在変化について免疫組織化学法により解析を行う。2) 表面分化マーカーに加えて髄質上皮細胞の機能因子も発現しないことを確認する。セルソーターにより胸腺上皮細胞を採取し、髄質上皮細胞の機能因子(Aire、組織特異的遺伝子など)の発現を定量的RT-PCR法で検討する。またはRNA-sequencing, シングルセル解析を行う。これらの実験から、転写因子Xが髄質上皮前駆細胞の分化に必要であり、その欠損により自己免疫疾患の発症を抑制する機能的な髄質上皮細胞が分化できないことを証明する。 一方、転写因子 X の発現は一部の胸腺髄質上皮細胞に限定していた。転写因子Xは類似したDNA結合ドメイン構造を持つ転写因子ファミリーに属する。この転写因子ファミリーに属するいくつかの分子が胸腺上皮細胞の分化時に発現上昇することを確認した。これら同一ファミリーに属する複数の転写因子が、胸腺髄質上皮細胞の分化にリダンダントに働く可能性がある。今後、この転写因子ファミリーに着目して、胸腺髄質上皮細胞の分化を決定する因子を同定する。
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Causes of Carryover |
2018年度は、マウスの生育数が十分でなく、解析に回せなかった。2019年度は、RNAシークエンス委託研究費、英文校正・論文投稿費、学会発表に必要な旅費に使用する予定である。
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