2017 Fiscal Year Research-status Report
ヒトとイヌに感染する糞線虫の種の歴史:進化的起源・分化・拡散に関する研究
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17K08809
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Research Institution | University of Miyazaki |
Principal Investigator |
長安 英治 宮崎大学, 医学部, 助教 (20524193)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
吉田 彩子 宮崎大学, 農学部, 准教授 (20343486)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 糞線虫 / 進化 / 系統解析 / 食肉目 / 種分化 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでミャンマー、タイ、日本、ウガンダにおいて行ってきたイヌ宿主ならびにヒト宿主から採取してきた糞線虫(Strongyloides stercoralis)の分子系統解析の結果をまとめ、Scientific Reports誌に報告した (Nagayasu et al, 2017)。18S rDNA, 28S rDNA, ミトコンドリアCox1遺伝子など、古典的遺伝マーカーを用いた解析により、ヒト由来糞線虫、イヌ由来糞線虫は大きく分けて2つのグループに大別されることが分かった(type Aとtype B)。Type Aはヒトとイヌの両方から見出されるがType Bはイヌのみから見出される。また、上述論文の刊行後に行ったゲノムワイドSNP解析では、Type A集団はさらにType A1(ヒト)とType A2(イヌ)というグループに分かれることが分かった。ヒトとイヌを宿主とするS. stercoralisの進化的起源を明らかにするため、様々な食肉目動物(アライグマ、ニホンアナグマ、ホンドタヌキ、チョウセンイタチ、ネコ)から糞線虫のサンプリングを行い、上述の古典的遺伝マーカーを用いた系統解析を行った。その結果、ヒト、イヌ、アライグマ、ニホンアナグマ、チョウセンイタチ、ネコから分離される糞線虫は強固なクレードを形成し(Stercoralis clade)、共通祖先の存在および比較的最近おこった種分化の可能性が示唆された。一方でホンドタヌキ(日本固有種)から分離された糞線虫のみはStercoralis cladeには属さず、糞線虫属線虫の種分化の過程のかなり早い時期にbranch outした系統であることが示唆された。 アライグマとニホンアナグマに由来する糞線虫についてはIlluminaシーケンサを用いた全ゲノムシーケンシングを行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1. 野生食肉目動物からの糞線虫サンプリング(和歌山県) アライグマ: 和歌山県で捕獲されたアライグマからS. stercoralisの最近縁種であるS. procyonisが見出されたことがある(Satoら, 2006)。NGS解析に適したDNA材料を得る目的で、新たに和歌山県で捕獲されたアライグマから糞線虫のサンプリングを行った。調査した44頭のうち30頭から糞線虫(雌寄生世代成虫)が検出され、現在でも和歌山県に生息するアライグマ個体群にS. procyonisが高頻度に寄生していることが示された。ニホンアナグマ: 和歌山県で捕獲された16個体のうち13個体にStrongyloides sp. の寄生を認めた。ホンドタヌキ: 検査を行った8頭のうち2頭 からStrongyloides sp.を検出した。チョウセンイタチ: 検査を行った2頭のうち両方からStrongyloides sp.が検出された。 ハクビシン: 検査した6頭からはStrongyloides sp.は検出されなかった。 2. ネコからの糞線虫サンプリング(ミャンマー)ヤンゴン郊外の保護施設から298の便検体を採取し、うち130検体からなんらかの線虫を検出した。
3. 多様な食肉目動物から検出されるStrongyloides属線虫とヒトから検出されるS. stercoralisの分子系統解析 核ゲノム 18S rDNA遺伝子をマーカーとした場合ヒト、イヌ、ネコ、アライグマ、アナグマに由来する糞線虫は強固なクレードを形成し、かつて提唱された”Strcoralis group (Chandler, 1925)”に相当すると考えられた。ミトコンドリアCox1遺伝子をマーカーとした場合も同様の結果を得た。Stercoralisグループ内での系統関係については用いた配列のみでは確定することができなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年に行った、様々な野生食肉目哺乳類(和歌山県)ならびに保護施設由来のネコ(ミャンマー)からのサンプリング、ならびにそれ以前より行っていたにより、”Stercoralis group”を形成するS. stercoralis (ヒト・イヌ)、S. procyonis (アライグマ)ならびにStrongyloides sp. (ネコ)ならびにStrongyloides sp. (ニホンアナグマ)のDNA試料を得ることができた。これらのうち、S. procyonisとStrongyloides sp. (ニホンアナグマ)については全ゲノム増幅及びMiseqシーケンサを用いたシーケンシングを実施し、良好な結果を得ている。平成30年度においてはさらにStrongyloides sp. (ネコ)、Strongyloides sp. (チョウセンイタチ)についても全ゲノムシーケンシングを実施する。すでに得とく済みのS. stercoralis (ヒト、イヌ)のゲノムシーケンシング情報との比較により(genome-wide SNP解析)、これらの”Stercoralis group”に属する糞線虫が、その共通祖先から、どのように種分化していったのかに関する解析を行う予定である。 平成29年度よりペルー、カジェタノエレディア大学においてヒト症例にS. stercoralisのサンプリングを開始した、本年度もサンプリングを継続するとともに既に手元にある検体については、上述の動物由来糞線虫検体と同様に全ゲノムシーケンシングを実施する
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Causes of Carryover |
本年度行う予定であったIllunina Miseqによるシーケンシング(1 run)を年度内に実施することができなかったため持ち越し額が生じた。これに関しては翌年度(平成30年度)に実施する。
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[Journal Article] A possible origin population of pathogenic intestinal nematodes, Strongyloides stercoralis, unveiled by molecular phylogeny2017
Author(s)
Eiji Nagayasu, Myo Pa Pa Thet Hnin Htwe Aung, Thanaporn Hortiwakul, Akina Hino, Teruhisa Tanaka, Miwa Higashiarakawa, Alex Olia, Tomoyo Taniguchi, Soe Moe Thu Win, Isao Ohashi, Emmanuel Igwaro Odongo-Aginya, Khin Myo Aye, Mon Mon, Kyu Kyu Win, Kei Ota, Yukari Torisu, Siripen Panthuwong, et al.
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Journal Title
Scientific Reports
Volume: 7
Pages: 1-13
DOI
Peer Reviewed / Open Access / Int'l Joint Research
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