2018 Fiscal Year Research-status Report
ヒトとイヌに感染する糞線虫の種の歴史:進化的起源・分化・拡散に関する研究
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17K08809
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Research Institution | University of Miyazaki |
Principal Investigator |
長安 英治 宮崎大学, 医学部, 助教 (20524193)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
吉田 彩子 宮崎大学, 農学部, 准教授 (20343486)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 糞線虫 / 進化 / 分子系統 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度(2018年度)は、昨年度に引き続きヒトを含めた様々な脊椎動物種に由来する糞線虫のサンプリングとミトコンドリアcox1遺伝子を用いた分子検討解析、ならびにいくつかのサンプルについては全ゲノム増幅反応産物を用いたgenome re-sequencingとSNP typingを行った。1. ヒト由来糞線虫: Universidad Peruana Catetano Heredia (UPCH), Peruとの協力のもと、① 南部内陸部で発生した患者由来(約30検体)ならびに②LimaのCatetano Heredia病院受診患者由来検体 (昨年度入手分も含めて28検体)を入手した。2.サル(マカク属)由来糞線虫:Yangon(Myanmar)近郊のHlawga Wildlife Partに生息するマカク糞便より糞線虫を回収した。18 rDNAシーケンシングより、Strongyloides fuelleborniであることが確認された。2.ウシ由来糞線虫:宮崎県の農場に由来するウシ由来糞線虫検体を入手した。いくつかの遺伝マーカーを用いた分子系統解析の結果、これまで日本で報告されたことのない糞線虫種(Strongyloides vituli)が含まれていることが判明した(第88回日本寄生虫学会大会で発表)。3.ハブ由来糞線虫:奄美大島のハブより糞線虫(Strongyloides sp.)を回収した。次のサンプルについて全ゲノム増幅を行った:昨年度入手したヒト(ベトナム)アライグマ、及びネコからの糞線虫、今年度入手したヒト(ペルー)由来糞線虫、ハブ(奄美)糞線虫。これまでに入手したさまざまな脊椎動物由来の糞線虫サンプルを用いた分子系統解析により、ヒト・イヌを宿主とするS. stercoralisと、ネコを宿主とするStrongyloides sp. (おそらくS. felis)、アライグマを宿主とするS. procyonisならびにニホンアナグマを宿主とするStrongyloides sp.は単系統と考えられるグループを形成することが分かった (第12回蠕虫研究会にて発表)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
類似の研究を行っている国内外研究機関の最近の動向を踏まえ、海外におけるサンプリング拠点をアフリカではなく南米(ペルー)に変更した。Universidad Peruana Catetano Heredia (UPCH), Peruの臨床検査室で日常診療の過程で分離された糞線虫検体のproteinase K溶解物を日本に持ち帰り、PCRあるいは全ゲノム増幅反応に用いている。PCRに関してはほとんどの検体で問題なく増幅が認められるものの、WGAに関しては一部のサンプルについてのみ増幅が認められる。原因は特定されていないが、すでに死亡して時間がたってから処理された線虫検体が含まれている可能性があり、この点に関し、現地の研究協力者とプロトコルの改善を行う予定である。 全ゲノム増幅が成功したサンプルについてはmiseqシーケンサによるゲノムシーケンシングおよびS. stercoralis リファレンスゲノム配列を用いたSNP検出の作業を続けている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで、様々な脊椎動物(ヒト、イヌ、マカク、ネコ、アライグマ、ニホンアナグマ、チョウセンイタチ、タヌキ、ウシ、ハブ)から糞線虫検体を採取し、最近報告のあった、スローロリス(原猿類)由来の配列も含めた分子系統解析を行ってきた。現時点までに得られた結果は、ヒトの糞線虫に最も近縁なのはイヌに寄生している糞線虫であることを示している。ヒトの糞線虫 (S. stercoralis type A)とイヌの糞線虫 (S. stercoralis type B)の共通祖先からどのような歴史的過程を経て現時点でみられるある程度の遺伝的分化が生じたのかを類推するには、世界の様々な場所においてヒト、及びイヌからの糞線虫サンプリングを勧めていく必要がある。アジアにおいては、我々のグループを含め、かなりの配列情報が蓄積されてきたのに対し、南米のヒト及びイヌ由来糞線虫に関してはいまだに配列情報が公共データベースに登録されていない。この点を踏まえ、我々は、2017年度より、ペルーを拠点とした糞線虫サンプリング体制を構築してきた。現在、ペルーのヒト由来糞線虫はかなりのサンプル数が得られており、今年度はイヌからのサンプリングに注力する予定である。 すでにmiseqシーケンサによるシーケンシングまで終わっているサンプルについては引き続き、SNP解析をすすめていく。得られたSNP情報を基に、RFLP(制限酵素切断断片長多型)マーカーの開発を行い、残りのサンプルの解析を進めていく予定である。
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Causes of Carryover |
研究計画全体の効率的な実施に鑑み、次世代シーケンシング解析の一部の実験の実施を次年度に延期したため。
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Research Products
(8 results)