2020 Fiscal Year Research-status Report
病原細菌媒介マダニにおける内在性細菌群の共生環境と感染症発生メカニズムの解明
Project/Area Number |
17K08835
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Research Institution | University of Shizuoka |
Principal Investigator |
大橋 典男 静岡県立大学, 食品栄養科学部, 教授 (10169039)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | マダニ / Rickettsia / 感染症 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでの研究で、ヤマアラシチマダニとツノチマダニが保有するRickettsia種について解析し、いずれのマダニ種も日本紅斑熱を引き起こす病原性Rickettsia japonicaの他、非病原性のRickettsia G4(仮称)も保有することが明らかとなった。そして、病原性R. japonicaと非病原性Rickettsia G4を識別できるompA-PCR法を開発し、R. japonicaとRickettsia G4の双方が内在するマダニ個体の存在も明らかにした。当該年度は、さらに発展させ、リアルタイムPCRを用いて、ヤマアラシチマダニとツノチマダニの1個体が保有するRickettsiaの絶対定量法を確立した。具体的には、まず、R. japonicaや非病原性Rickettsia G4が検出されたマダニ個体から、ompA-PCRにより、それぞれのRickettsiaのompA断片を増幅し、ゲル生成した後、濃度測定から、各Rickettsiaのコピー数に相当する検量線を作成した。RickettsiaのompAは、ゲノム上に1コピーのみであることから、ompAコピー数はRickettsiaの菌数に相当する。その後、各マダニ個体中のRickettsiaのコピー数について、リアルタイムPCRを用いて絶対定量を行った。その結果、ompA-qPCRによる1マダニ個体あたりのRickettsia量は、R. japonica およびRickettsia G4のいずれの場合も、およそ10^2~10^6コピーで、マダニ個体ごとに幅広い量的差異があることが判った。得られた研究成果は、これまで不明であったマダニ内の病原性R. japonica量などを明らかにしたもので、関連研究分野における新たな知見を提供するものと考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまで、フタトゲチマダニを対象として解析を行ってきたが、フタトゲチマダニからは非病原性Rickettsia sp. LONが高頻度に検出されるものの、日本紅斑熱の病原体であるR. japonica は検出されなかった。そこで、昨年度は、R. japonicaの保有率が高いと報告のあるヤマアラシチマダニとツノチマダニが保有するRickettsia種について解析し、いずれのマダニ種もR. japonica以外に非病原性Rickettsia G4も保有することを明らかにした。当該年度は、さらに発展させ、マダニの1個体が保有するRickettsia量を明らかにすることを目的として、リアルタイムPCRよる絶対定量法を確立した。標的遺伝子は、RickettsiaのompAで、このompAはゲノム上に1コピーのみであることから、ompAコピー数はRickettsiaの菌数に相当する。そして、マダニ個体ごとに内在するR. japonica量あるいはRickettsia G4量を定量した結果、いずれのRickettsia種も1個体あたり10^2~10^6コピー存在することが明らかとなった。また、R. japonicaとRickettsia G4の双方が共存するマダニ個体においても、それぞれのRickettsia量も明らかにすることができた。この研究成果は、病原性R. japonicaの感染リスクを評価する上で、貴重な知見になると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究で、病原性R. japonicaと非病原性Rickettsiaがマダニ1個体に共存する場合もあることが判った。また、マダニには、共生細菌のCoxiella-like endosymbiont (CLE) も内在していることが知られており、このCLEはマダニの生理機能やRickettsiaとの共存関係の維持に関与することが示唆されている。しかし、各マダニ種が保有するCLE種はほとんど解析されておらず、病原性R. japonicaの感染リスクを評価する上で、CLE種を明らかにすることは貴重な知見と考える。今後は、国内に生息しているマダニ(特に、病原細菌媒介マダニ種を多く含むHaemaphysalis属)を対象に、マダニ種とCLE種の関係を解析し、マダニが媒介する病原性Rickettsia感染におけるCLEの関与や役割などを解明していきたい。
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Causes of Carryover |
当該年度は、これまで不明であったマダニ内の病原性R. japonica量を明らかにすることができ、非病原性Rickettsia量と大きな差異がないことが判明するなど、多大な成果をあげた。今後は、さらなる研究推進のため、マダニ種とCLE種の関係性についての解析を行う予定である。次年度繰越金は、そのための解析の費用に充てる予定である。
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