2017 Fiscal Year Research-status Report
細菌由来ネクローシス誘導因子BteAファミリータンパク質の機能解析
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17K08838
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Research Institution | Kitasato University |
Principal Investigator |
桑江 朝臣 北里大学, 感染制御科学府, 准教授 (60337996)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 百日咳 / III型分泌装置 / III型エフェクター |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,百日咳菌を含むボルデテラ属細菌がIII型分泌装置とよばれる病原因子分泌装置を通して分泌するBteAとよばれるタンパク質の機能に注目して研究を行っている。III型分泌装置はサルモネラや赤痢菌,腸管出血性病原性大腸菌O157など多くのグラム陰性病原菌に保存されており,本装置の機能を喪失することによりこれらの病原菌の病原性は著しく低下することが示されている。ボルデテラ属細菌の主要な病原菌種である,百日咳菌,パラ百日咳菌,気管支敗血症菌はIII型分泌装置を構成するタンパク質をコードする遺伝子群が染色体上に保存されていることが明らかになっている。サルモネラや赤痢菌では,III型分泌装置から分泌され,宿主細胞内へ移行するIII型エフェクターと呼ばれる分子が数十種類同定されている。一方でボルデテラ属細菌のIII型エフェクターはBopN, BspR, BteAの3種の分子しか同定されていない。III型分泌装置の機能を喪失した気管支敗血症菌がマウスの気道において,野生株と比較し,定着効率に著しい低下が認められたため,ボルデテラ属細菌においてもIII型エフェクターが病原性,特に気道への定着に重要な役割を果たしていることが予想されるが,その詳細な分子メカニズムについては明らかになっていない。本研究では,新規抗百日咳薬開発のための分子基盤の構築を目的とし,ボルデテラ属細菌のBteAの病原性における役割を解析している。これまでのところ,我々はBteAが哺乳類細胞に対して効率よく細胞死を誘導すること,またマクロファージなどの貪食細胞の貪食運動を阻害することを明らかにしている。現在,BteAが哺乳類細胞内でどのような因子と相互作用をするのか,探索を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ボルデテラ属細菌がIII型分泌装置を通して分泌するIII型エフェクターのひとつ,BteAと相互作用する因子の候補のいくつかの同定に成功した。現在はBteAを哺乳類細胞内で産生させるためのプラスミドベクターを構築し,その哺乳類細胞側の因子とBteAが哺乳類細胞内で共局在するか否かを解析している。BteAの様々な部分欠失変異体を哺乳類細胞内で発現させ,BteA内のいずれの領域が哺乳類細胞側の因子と相互作用をするために必要であるか,解析を行う予定である。またBteAが相互作用すると予想される因子と直接結合するか否かも解析を行っている。上記のように,BteAを哺乳類細胞内で産生させ,BteAに付与したMycタグを利用して,抗Myc抗体を用いて免疫沈降を行い,沈降画分に相互作用候補因子が含まれていないかをウエスタンブロット法にて検出を試みたが,現在までのところうまく検出できていない。おそらく抗Myc抗体による免疫沈降の効率が悪いために,検出できていないことが予想された。現在,大腸菌を用いて組換え型のBteAを精製し,より多量のBteAをプローブとして哺乳類細胞内相互作用候補因子との結合試験を行っているところである。
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Strategy for Future Research Activity |
ボルデテラ属細菌がIII型分泌装置を通して分泌するBteAと呼ばれるIII型エフェクターの感染における機能を分子レベルで解析するために,BteAと相互作用すると予想される哺乳類細胞側因子の候補を同定した。これまでにBteAは哺乳類細胞に対して細胞膜破壊を伴う細胞死を誘導することや貪食細胞の貪食運動を阻害することを明らかにしてきたが,BteAと哺乳類細胞側因子の相互作用が細胞死の誘導や貪食運動阻害に必須であるかを調べるために,哺乳類側因子の欠失細胞をCRISPR-Cas9の系を用いてクローニングする。BteAと相互作用すると予想される因子の遺伝子を不活化するために,gRNAをデザインする。目的遺伝子の破壊を効率よく行うために,一つの遺伝子に対して複数のgRNAをデザインし,遺伝子の欠失操作を行う予定である。目的遺伝子の欠失細胞が得られたら,その細胞に気管支敗血症菌野生株を感染させ,BteA依存的な細胞死が誘導されるか,あるいは貪食運動の効率が変化するのかを解析する。またBteAと35%前後のアミノ酸同一性を有するエロモナス属細菌が産生するAsc693と呼ばれるタンパク質も哺乳類細胞に細胞死を誘導することを明らかにしているが,Asc693もBteAと同様のシグナル伝達経路を利用して細胞死を誘導するのかを明らかにしていく予定である。
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Causes of Carryover |
当該年度において,エロモナス属細菌のゼブラフィッシュを用いた動物感染実験系を構築する予定であったが,実際には動物感染実験系の開始する段階に至らず,次年度に繰り越すことになった。またボルデテラ属細菌のマウスへの感染実験も,当該年度で実施することができず,その分の金額を次年度に持ち越すことになった。次年度以降,これらの実験を立ち上げるために,予定通りの金額を支出する予定である。またエロモナス属細菌の遺伝子組換え,具体的には遺伝子欠失変異株を獲得するための実験系を構築中であるが,未だに良好な結果が得られていないために,消耗品費,試薬費などで次年度以降,支出する予定である。
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Research Products
(2 results)