2017 Fiscal Year Research-status Report
HIVによるT細胞機能不全の抗ミリストイル基ダイアボディによる治療法の開発
Project/Area Number |
17K08854
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
林 宣宏 東京工業大学, 生命理工学院, 准教授 (80267955)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 抗体 / HIV / Nef / ミリストイル化 / エイズ |
Outline of Annual Research Achievements |
“HIVはその遺伝子産物であるNefによって、本来は感染宿主細胞(T細胞)が使用している弱い相互作用に介在して効果的に細胞機能を停止している”、という申請者の研究に基づく仮説と、独自の抗体ライブラリー技術を用いて、NefがT細胞の機能を停止するのを阻止することによる細胞機能の回復法を開発する。 平成29年度は、先に独自の抗体ライブラリー技術で開発した抗HIV-Nef抗体(基盤C(H26-H28)の性能を調べた。ヒト由来CD4陽性T細胞の細胞溶解液に対するウェスタンブロッティングを行ったところ、非特異的吸着は見られず、Nefに対して特異的に結合することが示された。また、SPR法による相互作用の速度論的解析を行い、既存の抗体医薬品と同程度の解離定数が得られた。 次に細胞膜に模したリポソームを用いて、Nefの膜局在に対する抗Nef抗体の阻害能を評価した。まずミリストイル化したNef(myrNef)とリポソームの相互作用を確認した。NefまたはmyrNefとリポソームを混合した溶液を遠心操作した後、上清に含まれるNefまたはmyrNefを定量した。その結果、myrNefのみリポソームと相互作用し、共沈することが確認された。ここに抗Nef抗体を添加したところ、myrNefとリポソームの相互作用が阻害された。 また、Nef変異体を用いたウェスタンブロッティングやNefペプチドを用いた競合ELISAにより、抗Nef抗体のエピトープがNefのN末端付近に存在することが別の研究により示唆された。ミリストイル化はN末端グリシンがN-ミリストイル転移酵素(NMT)により修飾されることから、ミリストイル化に対する抗Nef抗体の阻害能を評価した。その結果、エピトープを含むN末端Nefペプチドを用いた実験において、ミリストイル化の阻害が確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
抗Nef抗体を用いたJurkat細胞の細胞溶解液に対するウェスタンブロッティングを行った結果、非特異的吸着によるバンドが見られなかった。従って、使用を想定しているCD4陽性T細胞中には、抗原として想定しているNef以外に抗Nef抗体が認識する分子は存在せず、特異性の観点で副作用の可能性が低い治療薬であると考えられる。 今回Jurkat細胞(WT)を用いたが、Nef発現Jurkat細胞を樹立した際に、それに対して再度同様の実験を実施するべきである。一方、抗Nef抗体を用いたNef発現大腸菌BL21(DE3)株の細胞溶解液に対するウェスタンブロッティングで、Nefを特異的に(非特異的吸着によるバックグラウンドを低く抑えつつ)検出できた。抗Nef抗体はNefの検出実験に用いる試薬として性能が高いことが示唆された。 エピトープがN末端付近である場合、Nefのアンカードメインと呼ばれるN末端付近のアミノ酸配列もNefの膜局在に寄与しており、質量増加による膜局在の阻害よりもさらに効果的に、抗Nef抗体はNefの膜局在を阻害できる可能性が高い。 抗Nef抗体はNefペプチドに対しても結合能を示したことから、抗Nef抗体はNefの三次元構造ではなく、配列を認識して結合していると考えられる。従って、Nefは細胞内で分子クラウディング効果や還元状態の影響により、in vitroとは異なる構造を持つ可能性があるが、抗Nef抗体はその場合でも結合することができる可能性が高い。
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Strategy for Future Research Activity |
今回、開発に成功した抗体に、さらにサイトカイン、および、細胞への侵入能力があることが解っているファージの殻タンパク質由来の機能ドメイン(J. Am. Chem. Soc., 2011, 133 (34), pp13571-13576)をつなげてT細胞標的化HIV-Nef機能阻害抗体を作製する。これをHIV-Nefを導入したT細胞に作用させて、その効果を調べる。HIV-Nefの挙動を様々なタイミングで抑えたときに、その結果がどのように変わるかを調べることで、HIV-NefによるT細胞機能停止のタイミングを捉えて、機能停止の分子機構を明らかにする。また、T細胞の機能不全を回避するためには、HIV-Nef機能阻害抗体によりどのタイミングでHIV-Nefの機能を制御すれば良いかを探る。 今後Nef発現Jurkat細胞を用いた実験系においても、抗Nef抗体がNefの膜局在阻害とミリストイル化阻害が可能であると示されれば、N末端にエピトープを持つことでNefの機能を発揮する上で初めのステップとなる2点(ミリストイル化、および、ミリストイル基による膜への局在)を阻害できる非常に性能の高いAIDS治療薬となりうる。
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