2018 Fiscal Year Research-status Report
水痘帯状疱疹ウイルス弱毒生ワクチン弱毒化分子機構の解明
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17K08858
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
定岡 知彦 神戸大学, 医学研究科, 助教 (00435893)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 水痘帯状疱疹ウイルス / 弱毒生ワクチン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究ではヒトヘルペスウイルスにおいて唯一有効なワクチンである、水痘帯状疱疹ウイルス弱毒生ワクチン株の、いまだ明らかでない弱毒化機構を分子レベルで明らかにし、ワクチンのない他のヒトヘルペスウイルスに対するワクチン開発につながる基礎知見を得ることを最大の目標とする。本研究課題では、すべてのヘルペスウイルスにおいて保存される、ウイルス粒子エンベロープ 糖タンパク glycoprotein B において新たに同定した、水痘帯状疱疹ウイルス弱毒生ウイル ス作製過程で「野生株ウイルスより消失した」1アミノ酸変化を生じる一塩基多型の溶解感染および潜伏感染における機能解析を通して、弱毒化機構を明らかにすることを目的として研究を行っている。 昨年度までに、i)水痘帯状疱疹ウイルス親株をベースとした、遺伝子背景が完全に相同で一塩基多型のみが異なる組換えウイルスを用いた、異なる培養細胞における感染実験により、このglycoprotein BをコードするORF31遺伝子における一塩基多型が、親株の弱毒化に寄与することを明らかにするとともに、ii)ワクチン株をベースとした組換えウイルスにおいても、親株と同様の実験方法により、この一塩基多型が水痘帯状疱疹ウイルスワクチン株の弱毒化に関わっていることを明らかにした。 平成30年度は、ヒトにおける水痘帯状疱疹ウイルス感染最大の特徴の一つである潜伏感染においても、このORF31遺伝子における一塩基多型が弱毒生ワクチン株の弱毒化に寄与しているかを検討するために、ヒトiPS細胞由来の知覚神経細胞を用いた新たな潜伏感染実験系の構築を試み、以前に確立していた潜伏感染実験系よりもよりヒト生体内における潜伏感染を模倣した実験系の確立に成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画においては、平成29年度に、水痘帯状疱疹ウイルス親株をベースとしたワクチン株様ウイルスの作出、組換えウイルスを用いた溶解感染、潜伏感染における表現型の比較による、ORF31一塩基多型が影響する glycoprotein B 機能とその作用点の同定を完了し、今年度を含めて glycoprotein Bが結合する宿主細胞因子の同定とその感染における機能を解析することを目標としていた。昨年度までに、水痘帯状疱疹ウイルス親株、さらには複数のワクチン株を用いた組換えウイルス作製による溶解感染実験を完了するとともに、弱毒化の作用点が感染ウイルス粒子の形成にあることを明らかにした。 潜伏感染実験に関しては、当初ヒトES細胞由来の神経細胞を用いた実験系を確立しており、この実験系を用いて解析を行っていたが、ヒト生体内で認められる潜伏感染様式とは少し異なることが明らかとなった。そこで、ヒトiPS細胞由来知覚神経細胞を用いた新たな潜伏感染実験系の確立を開始した。新たな潜伏感染実験系においては、よりヒト生体内での潜伏感染状態を模倣するように、潜伏感染得特異的なウイルス遺伝子発現状態を得ることができ、現在この実験系を用いてORF31一塩基多型の弱毒化における意義を明らかにすることを試みている。以上より、本研究計画の目的である「水痘帯状疱疹ウイルス弱毒生ワクチン弱毒化分子機構の解明」に関して、論文化可能なデータ収集はほぼ完了している。glycoprotein Bと相互作用する宿主細胞因子に関しては、当初溶解感染と潜伏感染の両方をサポートするヒト神経細胞を用いることを計画していたが、ヒトiPS細胞由来知覚神経細胞は現在のところスケールアップが非常に困難であり、溶解感染を効率的にサポートするヒト網膜色素上皮細胞を用いた実験を試みている。全体としては当初の予定通りの進展であると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までに実施した研究において、水痘帯状疱疹ウイルス弱毒生ワクチンの弱毒化機構は、親株であるOka株からワクチン株を創出する過程において失われたORF31遺伝子領域における一塩基多型が関与していることがほぼ明らかとなった。このORF31遺伝子領域における一塩基多型が、単独で水痘帯状疱疹ウイルス弱毒生ワクチン弱毒化に寄与してるか、あるいは以前の報告にあるようにそのほかの遺伝子領域、特にORF0とORF62遺伝子領域におけるワクチン株特有の塩基変異も寄与しているかはいまだに分子レベルでは明らかではない。ワクチン株には非常に多くの塩基変異が含まれており、これらの塩基多型はもともと親株に含まれていたものも含まれるが、その多くはワクチン株創出過程におけるモルモット線維芽細胞での継代によって導入された変異である。しかしながら、ワクチン株に含まれるこれらの「そのほかの変異」が、ワクチン株の弱毒化に寄与しているか、あるいは全く寄与していないか、さらには逆に弱毒化の「し過ぎ」に関与しているかか不明である。 現在までにORF31遺伝子領域における一塩基多型が「正当な」弱毒化機構の責任であることはほぼ間違いないと言えるデータが収集されつつある。そこで今後の本研究の推進方策であるが、当初の予定通り、このORF31遺伝子領域における一塩基多型がウイルス感染に与える影響を、宿主細胞因子との相互作用から明らかにするとともに、データベースに供託されている現在世界中でいまだに感染し続けている水痘帯状疱疹ウイルス野生株遺伝子情報を利用し、ワクチン株に含まれる「そのほかの変異」の意義に関しても着目し、「水痘帯状疱疹ウイルス弱毒生ワクチン弱毒化分子機構の解明」の論文においてより深いディスカッションができるデータ収集を行い、最終的な論文化を目指す。
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Research Products
(8 results)