2017 Fiscal Year Research-status Report
パラミクソウイルスV蛋白質のインフラマソーム抑制能は病原性発現に重要か?
Project/Area Number |
17K08866
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Research Institution | Aichi Medical University |
Principal Investigator |
小松 孝行 愛知医科大学, 医学部, 准教授 (20215388)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
田中 幸枝 福井大学, 学術研究院医学系部門, 助教 (10197486)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | インフラマソーム / パラミクソウイルス / アクセサリー蛋白質 |
Outline of Annual Research Achievements |
ウイルス感染においてIL-1βは,抗ウイルス免疫に関わる重要なサイトカインである.IL-1βは,インフラマソームと呼ばれる細胞内センサーの活性化によって誘導される.そのため,ウイルスはこの活性化を抑制することが増殖に有利である.私達は,過剰発現を用いた予備的研究により,「パラミクソウイルスのアクセサリー蛋白質Vに,インフラマソーム抑制能が保存されている」可能性を発見した.本研究は,この抑制能がウイルス感染時に機能していること,その役割,メカニズム,パラミクソウイルスにおける保存を明らかにすることが目的である.平成29年度は,センダイウイルス(SeV)を用いて,ウイルス感染時に誘導されるIL-1β,インフラマソームの活性化へのV蛋白質の影響を調べた. V蛋白質欠損株(SeⅤ V(-))をTHP1マクロファージに感染させ,野生型(SeV wt)と比較したところ,1)IL-1βの分泌が約7倍増加した.2)この増加は,Caspae-1を阻害すると,完全に抑制された.3)また,この増加は,NLRP3分子の欠損でも抑制された.4)さらに,SeV V(-)感染ではSeV wtとは異なり,NLRP3とASCの粒状構造の形成が観察された.以上の結果から,SeVは感染時に誘導されるIL-1βを,V蛋白質によってインフラマソーム依存性に抑制していると考えられた. 次に,抑制メカニズムを,過剰発現によってインフラマソーム複合体形成を再現し,V蛋白質の影響を調べた.5)NLRP3,ASCの共発現による粒状構造の形成は,V蛋白質の発現によって抑制された.6)NLRP3単独発現による粒状構造形成も,V蛋白質の発現で抑制された.以上の結果から,V蛋白質はNLRP3のホモオリゴマー形成を抑制し,引き続き起こるASCのリクルート,NLRP3,ASC,Caspase-1の3分子複合体の形成を阻害すると考えられた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の「パラミクソウイルスV蛋白質のインフラマソーム抑制能は病原性発現に重要か?」は,過剰発現を用いた予備的研究により,「パラミクソウイルスのアクセサリー蛋白質Vに,インフラマソーム抑制能が保存されている」可能性を発見したことが端緒となっている.そのため,本研究の目的は以下のことを解明することである.(1)予備的研究で発見した抑制能がウイルス感染時に機能しているか?(2)インフラマソーム抑制能のウイルス増殖(病原性)における役割.(3)インフラマソーム依存性IL-1β分泌の抑制メカニズム.(4)この抑制能が,パラミクソウイルス亜科で保存されているか? 平成29年度の計画は,目的(1)と目的(3)の一部を解明することである. まず最初に,パラミクソウイルスのプロトタイプであるセンダイウイルス(SeV)のV蛋白質欠損株(Se V(-))を用いて,目的(1)を調べた.研究実績の概要の項に記したように,SeVは,増殖時に誘導されるIL-1βを,V蛋白質によってインフラマソーム依存性に抑制していることが明らかになった.すなわち,予備的研究結果が,ウイルス感染時にも機能しているということを証明できたと考えらた. 次に,過剰発現によってインフラマソームの複合体形成を再現することによって,目的(3)を調べた.研究実績の概要の項に記したように,V蛋白質はインフラマソーム複合体形成の開始因子であるNLRP3のホモオリゴマー形成を抑制することによって,ASCがリクルートされて起こるNLRP3/ASC複合体の形成,引き続き起こるNLRP3/ASC/Caspase-1の3分子複合体の形成を阻害するというメカニズムが示唆された.すなわち,目的(3)の一部が解明できたと考えられた. 以上より,平成29年度に予定していた計画は,おおむね達成できたと考えられた.
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Strategy for Future Research Activity |
インフラマソームは,生体に加わる刺激を認識し,IL-1βの細胞外への分泌を制御する細胞内蛋白質複合体である.IL-1βが細胞外へ分泌されるためには2つのステップが必要である.その一つは,RIG-I like receptors(RLRs)等のパターン認識レセプター(PRR)からのシグナルによる転写因子NF-κBの活性化で誘導される前駆体IL-1βの細胞内蓄積である.もう一つは,インフラマソームの活性化で誘導されたCaspase-1(Casp-1)による前駆体IL-1βから成熟型IL-1βへのプロセシングである.NLRP3インフラマソームは,何らかのシグナルでNLRP3が活性化されると,アダプター蛋白質ASCならびに前駆体Casp-1の3分子複合体(インフラマソーム)が形成され,それにより前駆体Casp-1が活性型Casp-1に変換される.次に,活性化されたCasp-1がPRRシグナルにより産生された前駆体IL-1β(31kD)をプロセシングし,活性型IL-1β(17kD)を分泌する. このように,IL-1βは通常のサイトカインと異なり,分泌に2つのステップが必要である. H29年度のV蛋白質欠損ウイルスの感染実験結果から,V蛋白質は,第2ステップのインフラマソームの活性化を抑制するだけでなく,第1ステップの前駆体IL-1βmRNAの発現,前駆体IL-1βの蓄積も抑制していることが示唆された.これはおそらく既に報告されているRIG-Iの活性化の抑制によると考えられた.このことを踏まえて,V蛋白質の機能解析を進めて行きたい.
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Causes of Carryover |
ウイルス感染によるインフラマソームの活性化の観察を容易にするために,レポーター遺伝子がノックインされたTHP1細胞を購入するため
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