2017 Fiscal Year Research-status Report
脳死臓器移植における日本のドナー家族の追跡調査~バイオエシックスと医療人類学から
Project/Area Number |
17K08898
|
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
保岡 啓子 北海道大学, 医学研究院, 客員研究員 (80463735)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
藤田 博美 獨協医科大学, 医学部, 特任教授 (60142931)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 医療社会学 / バイオエシックス / 医療人類学 / 移植医療 / ナラティヴ |
Outline of Annual Research Achievements |
(1). 日本のドナー家族ケアの実態調査 日本におけるドナー家族ケア(脳死からの臓器提供を決断したドナー家族)の現状把握を目的とした文献研究から実態を確認した(学術論文のみならず、日本移植ネットワークの取り組み、行政(各都道府県におけるドナー家族ケアの文献・資料・ネット上での公開情報や啓蒙啓発運動等も含む)。日本の生体移植ドナーの臓器提供前と臓器提供時(臓器摘出手術準備等を含む)及び臓器提供後のケアの実態調査や欧米のドナー家族ケア(脳死からの臓器提供・心停止後の臓器提供・生体ドナーを含む)についても文献研究及び渡米した際、実際にケアを行っている医療機関でドナー家族ケアの実態調査を可能な限り遂行した(ヨーロッパは文献中心・日本と北米(アメリカ・カナダ)はフィールドワーク中心)しかし、調査者が5月に右足剥離骨折をしたため、当初の予定よりも現地調査も国内に力点を置き、海外調査のウェイトは少なめだった。しかし、国内から札幌までインフォーマントが来てくれたり、国内調査は予想以上に深いデータが得られた。 (2). 日本のドナー家族のインタビュー調査(追跡調査を含む) 骨折のため調査範囲を狭め、新しいインフォーマントにアプローチすることよりも、ラポールを築けているインフォーマントの追跡調査に重点をおいて研究を進めた。そのためこれまで協力頂いている(2002年より)ドナー家族の追跡調査から想定外のデータ収集をすることが出きた。また、英文ジャーナル(Wileyのレビューアー)の仕事を通して、自宅での文献調査に重点を置いて調査を進めた。 (3). 日本におけるドナー家族に関する参与観察 第26回全国移植者スポーツ大会で総合司会を務め当事者と接触を図り、ドナー家族ケアの意識調査を行い平成29度の暫定的結論を導き、国際学会-アメリカ人類学会(2017年11月:ワシントンDC)で研究成果を発表した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1)平成29年度の調査進捗状況 進捗状況そのものは、概ね予定通りいっているが、5月に右足剥離骨折のため、8月まで文献調査が中心となったが、調査を進めてゆく上て、想定外の調査結果が予想以上に多かったため、研究目的に沿いながらも、調査の微調整を迫られた。しかしながら、人類学では常に想定外の知見が得られることを想定しながら調査を進めているので、おおむね順調に調査が進んでいる。とわいえ、新しい予期せぬ知見に柔軟に対応する調査計画の微調整にはそれ相当の準備が必要とされる。 2)想定外の新たな知見 臓器提供に伴うドナー家族ケアの中心はドナー家族に焦点を当てて調査を進める予定であったが、移植医のドナーあるいはドナー家族への関心にはばらつきがあり、触れようとしない肝臓や腎臓の移植医の存在もある一方で、脳死ドナーに依存せざるを得ない心臓移植医のドナーケア(ドナー家族への思い)は非常に高く移植医療そのもの以上にドナー家族へ注がれていた。心臓移植医は非常にドナーへ敬意を払っており、日本の死者への黙祷文化を世界へ広めようという活動は特記すべきことであった。実際、サンフランシスコの某病院では黙祷が臓器摘出の際、行われていた。脳死者の拍動する心臓を自分の手で摘出する心臓移植医のドナーあるいはドナー家族への感謝と敬意に国境はなく、むしろ臓器別の臓器提出への感覚の違いが見受けられた。このことは日本の移植医療の障壁は日本文化にあるという言説を覆すものであり、北米の移植医の心的負担には人類に通底するグローバルスタンダードが見受けられた。 3)ドナー家族ケアから遺族ケアへ対応しうる研究計画 移植医療は社会性の高い医療であり、ドナーの臓器提供なしには成り立たない医療であるが、ドナーやドナー家族ケアは取りこぼされてきた。高齢化社会を迎え「いのち」の問題としてドナー家族ケア研究は様々な遺族ケアにも対応しうる重要課題と考える。
|
Strategy for Future Research Activity |
(1). 日本におけるドナー家族に関する実態調査のデータ分析 これまで研究してきた脳死・臓器移植問題に加え、ドナー家族の悲嘆プロセスやケア及び移植医療の特殊性を考慮に入れて実態調査のデータ分析を行うために、移植医療の専門家の協力を得ながら確認し、ドナー家族研究がレシピエントの救命と生体ドナー及び脳死ドナーのケアと理解へと繋がることを心がけて慎重に分析を行う。 (2). 日本におけるドナー家族に関するナラティヴ調査のデータ分析 得られたデータは、インフォーマントとドナー家族ケアの関係性によって異なることが予測できるため、①ドナー家族の当事者からデータを得ることは困難を極めるが、2002~03年の調査及び2014~16年の追跡調査のフォローアップ調査という位置づけで、可能であれば、プライバシーや倫理面へ細心の注意を払って臨む。 ②臓器移植の当事者から得られたデータは、グラウンデッド・セオリー・アプロ―チと質的調査法を組み合わせた申請者独自の分析方法だが、データの信憑性、妥当性・特異性を重視する上で必須である。また、このように、一般的な常識を超越あるいは逸脱したナラティヴの分析にこの調査方法は威力を発揮する。 (3). 日本におけるドナー家族に関する参与観察のデータ分析 世界一深刻な臓器不足と評される日本における数少ないドナー家族と帰属するコミュニティーの文化的背景に注意を払い、参与観察で得たデータの分析を行い考察・検討する。①患者の救命あるいはQOL向上を重視した移植医療のドナーの反応を考慮に入れた検証を実施する。②日本の臓器移植への抵抗感は西高東低(関東より関西の方が強い)と言われているが、ドナー家族ケアにも重要であることを考慮に入れて、臓器提供の地域の理解や評価について、「臓器摘出」という行為そのものへの解釈や意味の再確認を行い、国内の地域差について掘り下げる。
|
Causes of Carryover |
(理由)5月に右足剥離骨折をし、7月の出張まで自宅で先行研究や本の執筆を中心とした研究しかできずフォーマルなインタビュー調査は次年度に先送りしたため謝金を活用することができなかった。7月にギブスが取れたのですでにアクセプトされていた国際学会と国内での研究会や出版社との打ち合わせの出張に7月以降専念せざる負えなかった為予定より海外調査や謝金の残金が生じた。 (使用計画)平成30年度は昨年キャンセルしたインタビュー調査を優先し、謝金や海外調査費等を活用した調査を増やして利用する予定である。また、研究成果を本にまとまる予定があるので(平成30年度科研費<学術図書>採択)、コピー用紙やインクの備品等と英文校正費等に使用する予定である。
|