2018 Fiscal Year Research-status Report
提供配偶子の利用を巡る生殖補助医療の法制度化の課題
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17K08923
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Research Institution | Wakayama Medical University |
Principal Investigator |
南 貴子 和歌山県立医科大学, 医学部, 講師 (10598907)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 生殖補助医療 / 出自を知る権利 / ドナーの匿名性 / 代理懐胎 / オーストラリア |
Outline of Annual Research Achievements |
日本においては、生殖補助医療の技術の進歩とともに、生殖補助医療を利用する家族が増加しているが、生殖補助医療を規制する法律はまだ制定されていない。日本では1949年に提供精子による人工授精によって最初の子が誕生して以来、ドナーの匿名性のもとに多くの子が生まれていることから、特に子の出自を知る権利を巡る問題がクローズアップされている。また、海外での卵子提供や代理懐胎の利用、シングル女性・レズビアン女性による提供精子を用いた自己授精などに伴う問題が生じている。本研究では、生殖補助医療に関する法制度の進んだオーストラリア・ビクトリア州の事例をもとに、これらの問題を分析し、日本における「提供配偶子の利用を巡る生殖補助医療の法制度化の課題」を明らかにすることを目的としている。 オーストラリア・ビクトリア州では、生殖補助医療によって生まれたすべての子に、生まれた時に関係なく出自を知る権利を認めるAssisted Reproductive Treatment Further Amendment Act 2016(2016年改正法)が2017年3月から施行された。法律の施行後におけるドナーや子の情報について、当事者からのアクセスなど、ドナー、子、親を巡る状況の変化について検討した。 また、2010年1月より施行されたAssisted Reproductive Treatment Act 2008 (2008年法)により利他的代理懐胎やシングル女性・レズビアン女性による生殖補助医療の利用が認められている。その後の代理懐胎やシングル女性・レズビアン女性による生殖補助医療の利用に伴う状況の変化や、それらの変化に伴う課題について検討した。さらに、ビクトリア州の事例と日本における事例との比較検討を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度に引き続いてオーストラリア・ビクトリア州における子の出自を知る権利、代理懐胎について、さらにシングル女性・レズビアン女性による生殖補助医療の利用について事例分析を行った。研究内容は、第44回日本保健医療社会学会大会において「代理懐胎の法制度化を巡る課題―オーストラリアの事例分析をもとに―」の演題で学会発表した。さらに、The 14th Asia Pacific Sociological Association Conferenceにおいて“Assisted Reproductive Treatment and Offspring’s Right to Know Their Origin: The Case of Australia”の演題で国際学会での発表を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
ビクトリア州では、Infertility (Medical Procedures) Act 1984(1984年法)の施行以降、提供配偶子によって生まれた子(18歳以上)の同意のもとで、ドナーから子の情報へのアクセスを認めている。この法制度は、子とドナーの双方向からの接触を認めるものであり、子とドナーの関係性の発展について調査することのできる貴重な先行事例となっている。すなわち、ドナーの存在が子のみならず、家族全体にとっても無視できないものとなっており、配偶子提供による生殖補助医療の法制度化に伴う重要な課題である。この状況についての調査研究を進めていく予定である。
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