2020 Fiscal Year Research-status Report
職場における合理的配慮の形成-乳がん患者と職場の相互作用
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17K08934
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Research Institution | Toyo University |
Principal Investigator |
榊原 圭子 東洋大学, 社会学部, 准教授 (60732873)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山内 英子 聖路加国際大学, 聖路加国際病院, 部長 (50539088)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 乳がん患者 / 仕事と治療の両立 / コミュニケーション / 合理的配慮 / インタビュー調査 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究のテーマは、がんの治療と仕事の継続の両立のための患者から職場への働きかけと職場の対応、すなわち患者と職場間でのコミュニケーションを明らかにし、がん患者が仕事を継続するための示唆を得ることを目的としている。日本の先行研究は、治療と仕事の両立困難をテーマとしたものがほとんどである。海外でも患者と職場のコミュニケーションに関する研究は少ない。そこで本研究はこれを明らかにすることを目的とした。2020年度はこれまで行ってきた12名の乳がん患者およびその上司10名へのインタビュー調査の分析を行った。 分析結果の概要を以下に示す。患者側からの働きかけについては、大きく3つの要素が抽出された。第一に、病気や治療について、また仕事を続けるための資源に関する情報を積極的に収集すること、第二に、それについて職場の上司や関係者にオープンに伝えて周囲の理解と支援を得ること、第三に自分のできる仕事をしっかりと取り組んでやる気を見せること、出来ないことについては無理をしないこと、そして周囲の支援に対して感謝を表現することであった。上司へのインタビューからも3つの要素が抽出された。第一に、患者側からのオープンなコミュニケーションによって周囲が自然と支援的になり、特別な配慮が必要でなくなること、第二に病気や治療については経験者でないと真には理解できないため、何でも話し合うことが重要であること、第三にそのようにオープンなコミュニケーションが出来る信頼関係に基づいた職場風土が重要であることであった。 分析結果ついては2020年9月に開催された日本心理学会のシンポジウム「多様な人材が働きやすい職場とはー個人と組織の双方の観点から」で報告した。また患者へのインタビューの分析結果は、日本ヘルスコミュニケーション学会誌に投稿し、査読後、修正中である。上司に対するインタビューについても、論文投稿の準備中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2020年度には米国の患者へのインタビューを行う予定であったが、COVID‐19の感染拡大のため、現地に赴いてのインタビューは不可能となった。インタビュー予定の患者はニューヨーク在住の方であるが、当地は特にCOVID‐19が広がっており、このタイミングでのインタビューは不可能であろうと判断し、状況が落ち着いてからオンラインで実施することとした。これについては2021年度に実施予定である。 量的調査も実施予定であったが、やはりCOVID-19により研究外の業務負担が増大し、予定通りの進行が難しくなったため、インタビュー調査の学会発表および論文化に集中して作業を行った。インタビュー調査の結果について、協力いただいた患者に確認してもらったが、その際に次のステップである量的調査への協力、具体的には質問項目の検証や答えやすさの確認などを約束していただけた。また質問紙の作成だけではなく、オンライン患者会の登録者に対する調査実施のご協力も得られることとなり、量的調査を確実に実行するための環境を整えることができた。 職場を対象とした量的調査については、量的調査に参加いただく患者からその上司に調査協力を依頼してもらうという計画であった。しかし患者自身が転職している場合や、上司との関係が良好でない場合には、依頼がしにくいという状況を鑑み、リサーチモニターを活用し、乳がん患者を部下に持った経験のある人に広く参加を呼び掛けられるように計画を若干変更して実施する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
米国の患者へのインタビューについては、研究分担者が協力者を検討しており、2021年夏を目途に3名程度の方へのインタビュー実施を目指す。今年度も現地に赴くことは難しいため、オンラインでの実施となる。インタビュー項目については、日本人患者へのインタビュー時に用いたものを活用する予定であり、準備は整っている。 患者および上司への質問紙調査については、現在質問紙を作成中である。草案が完成したところでインタビュー調査に参加いただいた患者に確認してもらい、6月から7月頃を目途に上述したオンライン患者会の登録者を対象に、調査実施を予定している。乳がん患者を部下に持った経験のある人(患者の上司)を対象とした調査については、調査会社のパネルなどを活用し、患者への調査の終了後に実施する。 日本人患者および米国在住の患者へのインタビュー、そして量的調査の結果については、報告書にまとめ、ご協力いただいた患者さんに報告するとともに、社会に向けて発信する。当初は聖路加国際病院内で報告会を実施予定であったが、COVID-19を鑑み、WEB上での報告とする。当該WEBサイトの広報のために、チラシや広報メールを作成し、聖路加国際病院で配布いただいたり、量的調査にご協力いただくオンライン患者団体のメーリングリストなどで周知する。学術分野での報告については、秋以降に開催される日本ヘルスコミュニケーション学会や日本心理学会などにおいても発表できるように準備を行う。
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Causes of Carryover |
今年度の予算を執行できなかったのは、米国でのインタビュー調査および量的調査の実施が出来なかったことが理由である。繰り越し額の560千円は、米国への渡航費用、インタビュー対象者への謝金支払い、量的調査の調査画面作成費に相当する金額する。これらは2021年度に繰り越し、2021年度の直接経費300千円を合わせて使用する。 2021年度の使用計画は以下の通りである。なお、米国でのインタビューはオンラインで行うこととなったため、この分の渡航費用を、調査モニターを用いた乳がん患者を部下に持った経験のある上司への量的調査実施費用に振り替える。 患者への量的調査用ウェブサイト構築および調査実施:130千円、上司への量的調査実施(調査モニター使用):500千円、米国在住の患者へのインタビュー謝金:30千円、報告書作成(印刷およびWEB)と関係団体への郵送費:200千円、合計860千円
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Research Products
(1 results)