2017 Fiscal Year Research-status Report
院内感染対策を目的とする薬剤耐性菌の抗菌薬耐性機構の解析
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17K09021
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Research Institution | Showa University |
Principal Investigator |
福地 邦彦 昭和大学, 保健医療学部, 教授 (70181287)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | アシネトバクターバウマニ / MLST解析 / メタロβラクタマーゼ / MDRP / 緑膿菌 |
Outline of Annual Research Achievements |
感染原因菌の最重要課題であるカルバペネム耐性菌の耐性機構解析と分子疫学解析を実施した。 カルバペネム耐性Acinetobacter baumannii:平成23年4月から28年9月までに分離された22株を対象とした。カルバペネム耐性遺伝子として、13株がOXA23を保有し、そのうち11株ではその上流にISAba1が組み込まれていた。7株ではA.baumanniiが固有に保有するOXA51の上流にISAba1が組み込まれ、カルバペネム耐性を誘導したと考えられた。メタロβラクタマーゼ陽性の1株から我が国では未だ稀なNDM-1が検出された。Multi-Locus Sequence Typing (MLST)の結果、22株中18株が主要な世界流行株のClonal Complex 92に属することが明らかとなった。また、新規のST型の株が2株あり、1株はST1475として登録した。もう1株ではMLST解析に利用するrpoDの中に新規の塩基挿入を検出したため、MLSTカテゴリーから外れた。加えて本株ではgpiの新規allele 292を登録した。 多剤耐性緑膿菌(MDRP):当院で、平成28年7月にはMDRPが複数分離されたため、平成26年1月まで遡り、3年間に分離されたMDRP 27株のカルバペネム耐性機構解析、院内疫学の目的でパルスフィールド電気泳動解析およびMLST解析を施行した。メタロβラクタマーゼ陽性株は19株あり、そのうち8株がIMP1 で11株がIMP7を保有していた。パルスフィールド電気泳動の結果、平成28年7月に分離されたMDRPと同一のゲノム型を持つMDRPが平成26年6月に分離されており、本株の2年以上の院内定着が示された。MLST解析の結果は、世界流行株のST235が 19株と多くを占めた。また、新規のST2512, ST2630, ST2633を報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまで臨床分離の抗菌薬耐性菌を次に示す科研費(すべて基盤C)の補助により解析し、保存を行ってきた。平成11-13年度 ESBL産生多剤耐性菌の解析(課題番号11672307)、平成14-17年度 (課題番号14572187) 院内感染防御のためのESBLs産生菌の分子疫学解析 (課題番号14572187)、平成18-21年度(課題番号18590539)院内感染防御のための臨床分離細菌の分子疫学解析 (課題番号18590539)、平成24-28年度 日常検査で抗菌薬耐性機構が明らかとならない細菌の耐性表現型と遺伝子型の解析(課題番号24590708)。18年間に昭和大学病院で分離された抗菌薬耐性菌を対象に、系統的に分子疫学を継続している。本年度はカルバペネム耐性アシネトバクターバウマニの解析結果を報告し、そのなかで我が国では稀なNDM1遺伝子を検出したことは、本菌種の伝播経路をたどるためにも極めて有用であると考える。また、Multi Locus Sequence Typingにより本院で分離されたカルバペネム耐性アシネトバクターバウマニの多くが世界流行株のClonal Complex 92であったこと、およびその多くが世界流行株に特徴的なOXA23を保有していたこと、は現在臨床上の問題となっている株が、輸入株であることを強く示唆している。 多剤耐性緑膿菌MDRPのアウトブレイクの対応時には、当該部署で過去に分離されたMDRPとゲノム型を比較することで同一株の長期間の院内定着を示し得た。このことは、院内感染対策に有益な情報として利用された。 本年度はアシネトバクターバウマニと緑膿菌を中心に研究を行なったが、次年度以降には、MRSAや、大腸菌、クレブシエラ、エンテロバクターなどの腸内細菌科細菌を対象として解析を行う。
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Strategy for Future Research Activity |
抗菌薬耐性菌の解析を行っている上で次のような課題が挙げられる。今後の取り組みとともに記す。 1.表現型解析のみでは遺伝学的な耐性菌を見逃す可能性がある。すなわち同一ゲノム型の株で、同一の耐性遺伝子を保有しているにも関わらず表現型では感性と耐性を示す場合があることを科研費課題番号18590539により補助を受けた研究で報告した(臨床病理58:442. 2010)。この現象が起こりうることは、研究室において菌株の継代を行うと容易に耐性表現型を失うことからも明らかである。プラスミド伝達性の耐性遺伝子保有株を見逃すと、その株が耐性遺伝子のリザーバーとなり他の菌種への伝播の原因となるため見逃さないシステム構築を目指す。 2.カルバペネム耐性株を対象としたSMAテストによりメタロβラクタマーゼ保有が示唆された場合に、耐性遺伝子の同定に至らない場合がある。次世代シークエンサーにより全ゲノムの塩基配列を決定すれば解決となるのだが、その研究環境ではないため以下を試みる。諸外国で報告されているが、我が国では稀な遺伝子をPCRにより検出する。また、臨床上の重要性に基づいて優先順位を付し、それら細菌株のゲノムDNAクローニングを行い耐性遺伝子の同定を目指す。 3.オキサゾリジノン系のリネゾリドが抗MRSA薬として使用されているが、稀に耐性の黄色ブドウ球菌や腸球菌が検出される。本薬物の耐性機構には、リボゾーム領域の変異や細胞内のトランスポーターの存在が挙げられている。伝達性の耐性の場合は、リネゾリド耐性菌の分離増加の原因となるため、耐性機構の解析を行う。
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Causes of Carryover |
実験計画の進行を妨げないレベルで、厳格な節約に努めた。本実験計画で使用する試薬の一つ一つは専用試薬であるため極めて高価である。希釈可能な試薬は可能な限り希釈して使用し、ディスポ―ザル器具は再処理して使用した。その結果、実験はおおむね順調に進めることができた。次年度以降も、使用する物品は同様なものであるため、実験回数の増加を目指す。
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Research Products
(3 results)